2023年10月11日
(丸の内中央法律事務所報No.43, 2023.8.1)
□ 友人に貸したお金が返ってこない、期限が来たのに売掛金が支払われない、商品を送ったのに代金が振り込まれないなど、債権回収に関するお問い合わせをいただくことがよくあります。
□ その際、ほとんどの方から、「門屋さんにお願いするとしたら、費用はどれくらいになりますか。」というご質問をいただきますが、お答えとしては「私に何をさせたいかによります」ということになります。
□ 債権回収の手法としてはいくつか考えられますが、本稿では、それらのうち代表的なものをご紹介しつつ、それぞれのメリット・デメリットについても簡単にご説明できればと思います。
□ 債権回収の手法としては、まず、裁判所を利用しない方法と裁判所を利用する方法とに大きく分けることができます。最初から裁判所を利用することもできますが、まずは裁判所を使わずに回収を試みて、奏功しなければ裁判所を通じた措置を講ずるというのがよくある流れです。
□ 裁判外の活動としては、まず、債務者に対して督促を行うことが考えられます。後に訴訟になった際に証拠として提出する場合に備え、督促状は内容証明郵便を用いるのが一般的です。
□ 内容証明は、誰が、いつ、どんな内容の手紙を、誰に対して送付したのかを郵便局が証明してくれますので、督促を行ったことの有力な証拠になります。また、郵便局の認証文言が付記されたりと、見た目にも少々厳めしいので、受け取った人に対してプレッシャーをかけるという効果も期待できます。
□ こうした督促により相手が弁済に応じれば依頼者は満足を得られますし、即時の弁済が受けられないとしても、示談交渉のきっかけとなることも多いです。
□ とはいえ、内容証明郵便はあくまで私的な文書であり、何か強制力を持つ訳ではありません。そのため、相手方に無視されてしまったり、或いは示談交渉が合意に至らないことも多く、こうした場合には、相手の意思に反して無理矢理弁済を受けることはできません。
□ また、仮に交渉によって合意に至り、支払条件等を定めた合意書を作成できたとしても、当事者がこれをきちんと守らない場合には、満足を得ることはできません。
□ こうした場合、私的な合意書に基づいて、後述の強制執行(いわゆる差押え等)をすることはできません。強制執行をするためには、債務名義と呼ばれる文書を取得する必要がありますが、私的な合意書はこれに当たらないのです。
□ 債務名義を得るためには、公正証書という特殊な契約書を作成するか、或いは後述の裁判所を利用した法的手続を経る必要があります。
□ 法律は、裁判所を通じて権利を実現する方法について、いくつかメニューを設けており、大別すると、①訴訟、②調停、③支払督促の3つに分けることができます。
□ 訴訟とは、自分の権利を主張する者が、裁判所に対し、一定の法的判断を下すよう求める手続のことです。一般の方が「裁判」と言われて真っ先にイメージするのがこの訴訟でしょう。
□ 訴額(審理の対象となる目的の価格)が140万円以下だと簡易裁判所、140万円を超えると地方裁判所に提起することになります。
□ また、特殊な手続として、訴額が60万円以下の場合には、1回の審理で終了し、不服申立てをすることのできない「少額訴訟」を利用することができます。
□ 訴訟のメリットは、勝敗にかかわらず、裁判所が法律と事実に基づいて必ず一定の判断を下してくれるという点にあります。後述の調停と異なり、何も決まらないまま終了してしまうということがありません。
□ 他方で、訴訟の場合、調停に比べてやや柔軟性に欠けるところがあります。例えば、既に弁済期が到来している貸金の返還を求める訴訟では、原告の請求を認容する場合には、裁判所は、即時に一括弁済を命じます。被告の事情に応じて分割弁済を命じるとか、一定の猶予を認める代わりに別の条件を付す等の措置は講じられません。法律に従って、原告の請求に理由があるかが判断されるのみです。
□ 調停とは、当事者が、裁判所の選任した中立な立場の有識者(調停委員)を間に入れて、解決に向けた話し合いを行う手続を指します。
□ 各当事者は、調停委員の待機する部屋に交互に入室し、各自の言い分を調停委員に伝え、調停委員を介して話合いを行います。
□ 話合いがまとまって調停が成立すると、その結果は調書(調停の経過を記録した裁判所内の公的文書)に記載され、これは確定判決と同一の効力を持ちます。すなわち、当事者が調書に記載された条件を守らない場合、相手方は強制執行を申し立てることができます。
□ 調停のメリットは、当事者の合意次第で柔軟な紛争解決が可能であるという点です。他方で、あくまで話し合いによって合意を目指す手続であるために、合意に至らなければ、何ヶ月もかけて話し合いをしてきたにもかかわらず、何も決まらずに終わってしまうということがあり得ます。
□ 支払督促とは、金銭の支払等を目的とする請求について、裁判所書記官が、債務者の意見を聞かずに、債務者に対して支払を命じる手続です。
□ 支払督促が債務者に到達してから2週間以内に異議を述べられない場合、債権者は強制執行をすることができます。同期間内に異議が述べられた場合には、訴訟手続において審理がされることになります。
□ 支払督促は、相手方の意見を聞かずに命令が下される点で、訴訟や調停に比べて手続が簡素であり、迅速な解決を図ることが可能になります。
□ 他方で、2週間以内に異議が述べられた場合、手続が通常訴訟に移行しますので、相手が請求を争って異議を述べることが予想される場合には、最初から訴訟を提起した方が早いということになります。
□ 以上の通り、裁判所を通じた手続にはそれぞれ特徴があり、一長一短です。
□ 以上のような手続によって債務名義を取得したとしても、その内容が必ず遵守されるとは限りません。こうした場合、裁判所は当然にはその内容を実現してはくれませんので、満足を得るためには、強制執行を申し立てる必要があります。
□ 強制執行とは、法律上の請求権を有する者が、その権利を強制的に実現する手続をいいます。金銭の支払い等を求める権利に関する強制執行としては、不動産、動産、債権に対する差押えが考えられます。
□ ここで、債権回収において最も重要な問題の1つが出てきます。それは、強制執行の対象となる財産については、権利の実現を求める当事者において特定しなければならないという点です。
□ 例えば、不動産を差し押さえる場合にはその所在地、預金債権を差し押さえる場合には銀行名と支店名などの情報が必要です。「相手がどこかの銀行に対して持っている預金債権を、どれでもいいので差し押さえて欲しい」等の申立ては認められません。
□ こうした財産の目処が全く立たない場合、裁判手続を講じて債務名義を取得したとしても、残念ながら絵に描いた餅で、債権の回収を図ることは事実上断念せざるを得ません。また、その場合でも、債務名義の取得までに生じた弁護士費用はお返しできませんので、貸したお金が返ってこないどころか、かえって傷が広がってしまったということにもなりかねません。
□ この点、民事執行法には、債務者の財産を調査するための制度が設けられており、近時の法改正によってこれが拡充されています。また、弁護士会照会(弁護士会の会長の名義で各所に事実関係に関する照会を行う制度)によって調査を行うことも考えられます。
□ もっとも、こうした制度によっても、財産の有無や所在を完全に明らかにすることは難しいのが現状です。また、抑も財産を全く持っていないという債務者に対しては、強制執行を以てしても回収を図ることは不可能です。
□ 以上の通り、債権回収の方法には様々な種類があり、弁護士に依頼してこうした事務処理を行わせる場合、どの手続を選択するか、訴額がどの程度か等の事情に応じて弁護士費用が異なります。
□ 時折「個人間の少額の貸付なのですが、依頼することは可能ですか」とのご質問をいただくことがあります。
□ あくまで私個人の取扱いですが、訴額が少額であることのみをもって受任をお断りすることはしておりません。しかしながら、例えば、10万円の貸付金を回収するために訴訟の提起を希望される場合、顧問契約を締結していただいている等の特別な場合は別として、着手金のみで訴額を超過してしまいます。
□ したがって、経済的な満足を重視される場合には、訴訟を選択することはできないことになります。他方で、経済的な負担は覚悟の上で、法的に筋を通したいというお気持ちを優先される場合には、ご依頼内容を実現するために最大限の努力をさせていただきます。
□ 以上の通り、債権回収と一口に言っても、その方法には様々な種類があり、どの手続を講じるかは、ご依頼者のご希望等に応じて慎重に検討する必要があります。
□ 弁護士に事務処理を依頼することを検討しているものの、どの手続を講じたら良いかわからない、費用がどのくらいかかるのか不安であるといった場合には、ご相談を承りますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
以 上