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弁護士 重富 智雄

2025年02月14日

フリーランス新法の概説と実務上の留意点

(丸の内中央法律事務所報No.46, 2025.1.1)

1. 法制定の背景

   近年、日本ではフリーランスとして働く人々が増加しており、政府の調査によれば全国のフリーランスの資産人数は462万人にも上ると言われております。

   しかし、こうしたフリーランスとして働く人々は労働基準法の保護対象外であることが多く、報酬の未払い、支払遅延、発注書の不発行、一方的な契約変更などの問題が発生していました。こうした課題を解決するため、フリーランスと企業などの発注事業者間の取引の適正化及びフリーランスの就業環境の整備を実現するために、いわゆるフリーランス新法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が令和5年4月28日に可決成立し、令和6年11月1日に施行されました。

2.フリーランス新法で新たに制定された概念

   フリーランス新法では法文上「フリーランス」という文言は使用されておりません。

   これは、フリーランスとは一般的に特定の組織に属さず、個人で業務を行う人のことを指しますが、フリーランス新法で保護対象とするフリーランスは、フリーランス全体ではなく、このうち「事業者から業務委託を受けるフリーランス」であるということを明確にするために、フリーランスという文言は使用せず、「特定受託事業者」という新たな概念を用いることになりました。

   フリーランス新法で新たに使用されることとなった主な概念は以下のとおりです。

 ⑴ 従業員のいない個人又は代表者以外の役員及び従業員のいない法人で業務委託を受ける者を「特定受託事業者」と定義(≠一般的な意味でのフリーランス)

 ⑵ 物品の製造(加工を含む)、情報成果物の作成、役務提供を広く「業務委託」と定義

 ⑶ 特定受託事業者に業務委託をする事業者を「業務委託事業者」と定義

 ⑷ 従業員を使用する事業者又は法人であって2人以上の役員がいて、特定受託事業者に業務委託する者を「特定業務委託事業者」と定義


    ⑴ 「特定受託事業者」(新法第2条第1項)

   ① 業務委託の相手方である事業者であって(同柱書)
 ②-ⅰ 個人であって、従業員を使用しないもの(同1号)

-ⅱ 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者)がなく、かつ、従業員を使用しないもの(同2号)

  ⑵ 「業務委託」(新法第2条第3項)
 ① 事業者が、 ② その事業のために、 ③他の事業者に
 ④-ⅰ 物品の製造(加工を含む)又は情報成果物の作成を委託すること(同1号)
  -ⅱ 役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む)(同2号)

  ⑶ 「業務委託事業者」(新法第2条第5項)
  特定受託事業者業務委託をする事業者(一般消費者からの委託は該当しない)

  ⑷ 「特定業務委託事業者」(新法第2条第6項)
  業務委託事業者であって(同柱書)
 ① 個人であって、従業員を使用するもの
 ② 法人であって、2人以上の役員があり、又は従業員を使用するもの


3.下請法との関係について

   フリーランス新法と下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、いずれも取引の適正化を目的とする法律であり、適用対象とする取引に類似性があります。

   しかし、既存の下請法では、資本金1000万円を超える法人からの業務委託にしか適用されない一方、フリーランス新法では、発注者側の資本金の制限はなく、「2人以上の役員がいる法人」や、「従業員を使用する法人及び個人事業主」からの発注が規制対象であることから、新法の方がより広く適用されます。

   また、下請法は取引構造上の格差是正を目的としておりますが、フリーランス新法ではフリーランスの就業環境の整備も目的とされており、ハラスメント防止や就業環境整備に関する規制が新たに盛り込まれている点が特徴です。

   なお、フリーランス新法と下請法のいずれにも違反する行為については、原則として新法を優先して適用し、フリーランス新法第8条に基づく勧告の対象となった行為については、重ねて下請法に基づく勧告をすることはないとされております。

   ただし、新法と下請法のいずれにも違反する行為を行っている事業者が下請法のみに違反する行為も行っている場合は、公正取引委員会の判断で、新法と下請法のいずれにも違反する行為についても下請法に基づき勧告することがあるとされております(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法および下請法との適用関係等の考え方3項)。

フリーランス新法と下請法の比較表.jpg

4.発注者側の実務上の主な留意点

 (1) 受注事業者の「従業員」の有無の確認

   フリーランス新法の適用対象となる特定受託事業者に該当するかどうかについては、受注事業者が「従業員を使用」しているかどうかによって定まります。

   そのため、発注事業者としては、業務委託をする時点で、受注事業者に「従業員」がいるかどうかを確認し、「従業員を使用」しておらず、「特定受託事業者」に該当する場合には、新法の規制対象として各規制を遵守する必要があります。

   受注事業者の「従業員」の有無の確認については、口頭による確認も可能ではありますが、トラブル防止の観点から、記録が残る方法(電子メールやSNSのメッセージ機能等でも可能)を用いて受注事業者に確認する方法が考えられます。

   なお、業務委託をする時点では受注事業者が「従業員を使用」していたものの、その後委託業務遂行中に「従業員を使用」をしなくなって「特定受託事業者」の要件を満たすようになった場合でも、新法の適用対象にはならないとされております(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 Q&A 8問 https://www.jftc.go.jp/file/flqa.pdf)。

 (2) 書面等による取引条件の明示義務(新法第3条)

   特定受託事業者に業務委託をした場合、ただちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、以下の事項を、書面やメール等により特定受託事業者に対し明示しなければならないとされております(新法第3条第1項、公取規則第1条第1項)。

 ① 委託事業者および特定受託事業者の商号、氏名もしくは名称等

 ② 業務委託をした日

 ③ 給付の内容

 ④ 給付を受領し、または役務の提供を受ける期日(もしくは期間)

 ⑤ 給付を受領し、または役務の提供を受ける場所

 ⑥ 給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日

 ⑦ 報酬の額および支払期日

   こうした規制を踏まえ、フリーランスと取引をする可能性のある各事業者においては、フリーランスとの取引の際に使用する書面あるいはメール等のひな形を備えておく必要があるでしょう。

 (3) 妊娠・出産、育児または介護に対する配慮義務

   「特定業務委託事業者」が6か月以上継続して「特定受託事業者」に業務委託をした場合、その申出に応じて、当該特定受託事業者が妊娠、出産もしくは育児または介護と両立しつつ当該継続的業務委託に係る業務に従事することができるよう、状況に応じた必要な配慮をすることが法的義務として規定されております(新法第13条第1項、施行令第3条)。

   これに加え、継続した業務を委託しない場合でも、特定受託事業者からの申出に応じて上記の必要な配慮をすることが努力義務として規定されております(新法第13条第2項)。

   企業慣習として、基本契約を締結し、当該基本契約の契約期間を6ヶ月以上(多くの場合は1年など)で定めている場合が多いかと思われます。

   しかし、フリーランスとの間で、安易に基本契約を締結し、同基本契約の契約期間を6か月以上としてしまうと、こうした配慮義務に関する法規制を受ける可能性があるため、留意が必要です。

 (4) 解除・契約不更新の予告義務および理由開示義務

   6か月以上継続して、「特定受託事業者」に業務委託をした場合において、委託事業者がその委託契約を解除しようとする場合、あるいは、契約を更新せずに契約期間の満了によって当該委託契約を終了させる場合には、当該特定受託事業者に対し、少なくとも30日前までにその予告をしなければならないとされております(新法第16条第1項、同法第13条第1項、施行令第3条)。

   ただし、天災その他やむを得ない事由により予告が困難な場合など一定の場合には、例外的に上記予告を要しないとされております(新法第16条第1項ただし書)。

   

   前項のとおり、企業慣習として安易に契約期間を6ヶ月以上とした基本契約を締結すると、解除・契約不更新についても予告義務等が発生する可能性があります。

   各企業においては、新法第16条第1項に違反する30日前の予告なき解除や契約不更新、新法第16条第2項に違反する解除理由や契約不更新理由の不開示がなされないよう、ルール作りや啓発活動その他の体制整備を進める必要がある点に留意が必要です。

以上

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