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弁護士 重富 智雄

2024年03月21日

行き過ぎた私人逮捕系YouTuber

(丸の内中央法律事務所報No.44, 2024.1.1)

1.過激化するYouTuber

  「あなた、今盗撮しましたよね?僕らのカメラにあなたが盗撮している様子がはっきり写っています。交番に行きましょう」

  「おじさん、買春はダメだよ。」

  「ここでアワビ獲っちゃだめなんですよ。全部海に戻してください」

   様々なジャンルが立ち上がり、飽和状態になりつつあるYouTuberの世界。

   中には、視聴数を増やすべく、過激な活動を行うYouTuberも増えてきた。

   一時期、人の迷惑を顧みない「迷惑系」などというYouTuberが世間を賑わせた後、次に台頭して来たのが「私人逮捕系」あるいは「世直し系」なるジャンルのYouTuber達である。

   彼らは、警察による捜査の手が及びにくい痴漢、盗撮、買春、密漁、チケット転売、詐欺的なマルチ商法などの行われている現場でカメラを向け、その行為を糾弾する様子を動画として公開してきた。

   違法・不正な行為を行いながら、不合理な弁解を繰り返して逃げようとする相手を威勢よく追い詰め、糾弾していく様子は確かに爽快であり、「警察密着24時」や「万引きGメン」などのTV番組にも共通する面白さがそこにあった。

   ところが、過激な内容を求める視聴者の声を意識してか、彼らの活動は徐々に過激化していき、明らかにやりすぎと思える行動を取るようになった。

   不審ではあるが犯罪をしたとまでは言い切れないような相手をしつこく追いかけ回したり、反抗的な態度を見せる相手を地面に組み伏せて制圧したりするなど、かなり強硬な対応を取ることも増えてきた。

   例えば、パトロール系YouTuberを自称していた「ガッツch」(※)では、10月末に公開した動画の中で、痴漢の現行犯と疑われる男性を駅のホームで捕まえようとした際、男性が逃げ出し、その後ホームの階段から足を踏み外して2メートル近く転落するという場面があった(幸いにも、転落した男性や周囲の客に大きな怪我はない様子だった)。

   他のYouTuberの例でも、盗撮の疑いのある男性に駅のホームで声を掛けたところ、男性が走り出したため、捕まえて男性を投げ倒し、羽交締めにして身動きが取れない状態にした後に、男性が持っていたスマホを強引に没収したなどという動画もあった。

   ※ 「ガッツch」を運営していた男性らは、ネットで女性のふりをして「一緒に覚醒剤を使おうよ」と暗に性的なニュアンスを込めた書き込みをして、覚醒剤を持って待ち合わせ場所にやって来た男性を警察へ通報し、逮捕させたという、さながらおとり捜査のようなことをした行為について、覚醒剤の所持をそそのかした覚醒剤取締法違反(所持の教唆)の疑いで逮捕された。

   行き過ぎた活動は当然許されるものではないが、SNSなどを見ていると、こうした私人逮捕系YouTuberの活動について賛否が大きく分かれていたのが興味深い。

   例えば、X(旧Twitter)で約240万人のフォロワーを持つインフルエンサー「滝沢ガレソ」氏が実施した私人逮捕系YouTuberの活動に関するアンケートでは、約32万7000票の回答があったが、男女で賛否が逆転していた。

   《滝沢ガレソ氏が実施したアンケート(https://x.com/takigare3/status/1723295812124606852?s=20)》

   駅や電車で痴漢&盗撮を私人逮捕するYouTuberに...

    (男性)どちらかと言えば賛成   22.3%

    (男性)どちらかと言えば反対   40.4%

    (女性)どちらかと言えば賛成   22%

    (女性)どちらかと言えば反対   15.4%

 

   反対する意見を見ると、「やり方次第」、「冤罪の危険性が排除されているのであればやっている活動自体はいいのでは?」、「周りの一般客や鉄道会社の職員さんに迷惑をかけないようなやり方なら賛成」などと、YouTubeへの投稿で収益を得ている点はともかく、活動自体については賛同するような意見が多く見られた。

   逆に、賛成する声の中には、「疑いをかけられた時に大人しくスマホを渡さない方が悪い」、

   「逃げようとしたんだから捕まえられて当然」などと、強引なやり方についても肯定するようなものもあり、法令や刑事手続についても誤解をしているような意見が多数散見された。

  こうした誤解を解きほぐす意味でも、逮捕に関する法令等について解説したい。

2.逮捕に関する法令等について        

 ⑴「身体の自由」  

   人には「身体の自由」が保障されており、身柄を拘束する行為は"原則として"許されていない。

   憲法第33条は、「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。」と定め、逮捕されない身体の自由を定めている。

   例外的に逮捕が許容されるのは、①現行犯逮捕と②裁判官が発した逮捕令状がある場合に限るとされ、令状主義を採用している。

   なお、刑事訴訟法上は、一定の重罪事件を対象として、厳格な要件のもとで行われる緊急逮捕(被疑者を逮捕した後に令状を取得することで足りる逮捕)についても許容しているが、これについても判例は合憲と判断している(刑事訴訟法第210条)

   逮捕令状を請求できるのは「検察官又は司法警察員(いわゆる刑事)」に限られており(刑事訴訟法第199条第2項)、また、逮捕状を執行して逮捕する権限を有するのも「検察官、検察事務官又は司法警察職員」に限られるなど(刑事訴訟法第199条第1項)、刑罰権は国家に独占されていることが分かる。

   刑罰権を持たない一般人は、人を逮捕・監禁することは原則として許されておらず、人の身体の自由を不法に奪った場合には刑法の逮捕罪(刑法第220条)にも該当することになる。

 ⑵現行犯逮捕 

   このように、憲法・刑事訴訟法では令状主義を採用し、人を逮捕する場合には逮捕状を必要とするという規定を原則としている。

   令状主義の趣旨は、捜査機関が行う逮捕等の強制処分に対して、あらかじめ裁判官のチェックを受けることで、捜査の行き過ぎによる人権侵害を防ぐことにある。

   ただし、令状主義の例外として、「現行犯逮捕」の場合には、令状が無くとも逮捕することが許容されている。これは、現行犯人の場合、犯人であることが明白で、誤認逮捕のおそれがなく、裁判官による事前チェックを得る必要がないためである。

   そして、現行犯逮捕については、「何人でも」犯人を逮捕できると規定しており(刑事訴訟法第213条)、捜査機関以外の一般人でも犯人を逮捕できるとされている。

   これがいわゆる「私人逮捕」である。

 ⑶私人逮捕の問題

   現行犯逮捕が私人にも許容されているのは、捜査の専門家ではない一般人であっても、目の前で現に行われている犯罪については、誤認逮捕の可能性が小さいためである。

   傷害事件のように、誰が見ても明かな犯罪を犯しているような場面であれば、誤認逮捕の恐れは限りなく低くなるが、痴漢行為のように、混雑した場所で行われる犯罪行為については、触っていたかどうかの判断が難しい場面もあり、誤認逮捕の危険性が小さいとは言えないことから、慎重な判断が必要となる。

   警察であれば、職務質問の形で話し掛け、相手の不審な対応を問いただし、犯罪の有無を捜査するという選択肢も取りうるが、職務質問の権限を有さない私人はそのような捜査・取り調べを行うことはできないため、選択肢に限りがある。

   また、逮捕を試みる場合の有形力の行使についても問題となる。

   最高裁判例では、「社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許される」とされており、必要性・相当性についても慎重な判断が必要となる。

   訓練・教育を受けている警察官であれば、状況に応じた行動をとることが期待されるが、視聴者受けする過激な「絵」を求めるYouTuber達は、この必要性・相当性という点でも配慮を欠くような場面がどうしても多くなる。

   私人逮捕系YouTuberの逮捕が相次いだこともあることから、今後はこうした私人逮捕系の動画投稿が下火になる可能性もある。

   もちろん行き過ぎた活動等は非難されるべきではあるが、私人逮捕系YouTuber達の活動によって、多少なりとも犯罪抑止効果が生まれていたことも否定されるべきではないだろう。

   私人逮捕系・世直し系として活動を続けるYouTuber達には、犯罪の成立の有無や逮捕の必要性・相当性などについて慎重な検討・対応が求められる。

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