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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 園 高明

2004年08月01日

交通事故の責任

(丸の内中央法律事務所報vol.4,2004.8.1)

質問

交通事故を起こした場合にはどのような責任が生じますか。

回答

交通事故で他人を怪我(死亡)させてしまった場合、加害者には、刑事上、行政上、民事上の三つの責任が発生します。

「刑事上の責任」

 事故を起こした人は、道交法に違反し、過失により他人を死亡させ、または傷害を負わせたときは、刑事処罰を受けなければなりません。
 加害者は警察、検察による取調べを受け、検察官によって裁判所へ起訴され、最も重い場合には、交通刑務所に行かなければなりません。
 ただし、具体的な刑事の責任は、被害者の受けた傷害の程度、双方の過失の内容、程度によっていろいろ変わってきます。例えば、信号機のない同幅員の交差点事故で、打撲等の軽傷と言うような事案では、警察で事情聴取され、実況検分調書は作成されますが、不起訴処分になり、刑事罰を受けない可能性もあります。重傷事故、死亡事故でも、被害者の過失のほうが大きい事案では、不起訴処分にされる可能性があります。一方、酒酔い運転、信号無視、しかもひき逃げで被害者が死亡したなどという事案では、加害者は逮捕勾留されたうえ、執行猶予のつかない実刑判決を受け、交通刑務所に行かなければならない可能性もあります。
 交通事故の被害者の遺族は、よく加害者に「殺された」という表現を使います。感情的には理解できますが、法律的には初めから殺すつもりの行為が殺人罪で、業務上過失致死罪とは明確に区別されています。つまり、刑事責任では、故意に殺す行為と誤って死なせた行為とは厳密に区別され、故意に殺す行為が死刑又は無期もしくは5年以上の懲役とされるのに、業務上過失致死罪は5年以下の懲役又は禁錮に過ぎないわけです。
 殺人罪の場合にどのような刑が科されているかは、それこそ事案により、死刑から、執行猶予がつく場合まで、いろいろあるのですが、殺人の量刑が、およそ10年から12年くらいとして、業務上過失致死罪ではどこまで重く出来るのかという議論があったわけです。業務上過失致死罪というのは、一般の刑法ですので、自動車事故以外のホテルでの火災事故による死亡、医療事故などでも適用されるわけですので、このような過失犯の規定を重くしすぎると、故意犯と過失犯の峻別という近代法体系を崩すことになりかねません。そこで、四輪車の運転が困難なほどの酒酔い運転、故意の信号無視・極端な速度違反など特に危険で重大事故に結びつきやすい行為に限定して危険運転致死傷罪という新しい規定(刑法208条の2)を設け、傷害の場合で10年以下の懲役、死亡の場合で1年以上の有期懲役としたわけです。(なお、平成19年に、刑法が改正され自動車運転致死傷罪が新設され、危険運転致死傷罪の刑罰も重くなったことは、vol.11 2007.8.25 を参照してください。)

「行政上の責任」

 自動車は危険なものですから、国が運転免許を与え、その資格ある者に限って運転を認めているわけですが、道交法に違反した危険なドライバーに対しては、その人の運転免許の効力を失わせて運転を禁止し、交通の安全を確保する必要があります。
 具体的には、事故の原因となった行為について道交法違反の違反点数の他、事故点数といって、被害者の傷害の程度(全治までの期間)、加害者の事故に対する過失の程度によって違反点数を加算して科し、その違反点数が6点以上になれば運転免許停止、15点以上になれば運転免許取消しとなります。例えば、全く違反歴のない人でも信号無視の結果死亡事故を起こせば、信号無視の違反点数2点に死亡事故の違反点数20点が加わって、運転免許取消し、欠格期間1年の処分が科されることになります。公安委員会から免許の処分について聴聞開催の通知が届き、聴聞の期日に出頭すると特別の理由がなければ、運転免許停止、取消しなどの処分が通告されます。
 聴聞というのは、処分を受ける人の弁解を聞く手続きで、事故の原因や事故と傷害との因果関係について納得ができないときは、聴聞の期日に自分の言い分を主張することができますし、刑事事件と関連して警察が再調査するため、処分を保留することもあります。また、言い分が認められて運転免許停止・取消処分が科されないというケースもあります。

「民事上の責任」

 民事上の責任は、いわゆる交通事故による損害賠償責任で、被害者が受けた損害を金銭的に賠償する義務が発生します。
 例えば、奥さんと中学校と小学校に通うお子さん2人という家族持ちで40歳、年収700万円の男性が死亡した場合の損害賠償額を計算すると次の通りとなります。

死亡逸失利益 7175万700円
(計算式)
  7,000,000×(1-0.3)×14.6430=71,750,700(円)
葬儀費用 150万円
慰謝料   2800万円
合計 1億125万700円

 この賠償金のうち3000万円は自賠責保険から支払われますが、自賠責保険金額だけでは到底賠償金額に足りないので、任意保険に加入して賠償金の支払が生じたときの資力を確保しているわけです。なお、逸失利益の計算方法については、興味深い問題も多々あり、別の機会に詳しくご説明したいので、今回は計算式の記載のみにとどめます。

「刑事・行政・民事の各責任の関係」

 上記のように、法律的には三種類の責任が発生するわけですが、それぞれ異なる法領域の責任です。前回、アメリカの制裁的慰謝料という考えを紹介しましたが、日本では制裁は刑事で、損害賠償は民事でという考えが強いので、制裁的慰謝料を正面から認めることは困難であるとされています。
 しかし、刑事、行政、民事の責任が相互に関連を生じることがあります。例えば、民事で損害賠償問題が解決していれば、刑事事件で起訴をするかどうか、あるいは交通刑務所に入らなくて済む、いわゆる執行猶予付きの判決をするかどうかを検察官や裁判官が判断する際に加害者に有利な重要な情状になります。また、刑事事件で作成される実況検分調書は民事事件で責任の範囲を決めるための事故態様や過失を認定する資料となり、行政処分の違反点数を決める材料にもなります。   いずれにせよ、事故を起こした人に対しては、重い刑事上、行政上、民事上の責任が発生することになります。従って、事故を起こさないために細心の注意を払った運転しなければならないことは言うまでもありませんが、運転をする以上は、万一を考えて任意の自動車保険に加入することは、被害者に賠償金を支払うという償いを果たし、同時に自らの生活を守るためにも最低限しておかなければならないことと言えるでしょう。

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