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弁護士 園 高明

2005年01月01日

民事上の責任としての損害賠償

(丸の内中央法律事務所報vol.5, 2005.1.1)

質問

 損害賠償の逸失利益は、個人により随分違うと言われました。逸失利益の算定方法を具体例で説明してください

回答

 会社の営業課長の夫(A)40歳、専業主婦の妻(B)38歳、子供2人高校生の長男(C)16歳、中学生の長女(D)14歳の家族のそれぞれの逸失利益を計算してみましょう。

「夫Aの死亡逸失利益の計算」

 夫が死亡した場合、夫の収入を賠償してもらえないと、生活に困窮するわけで、夫の基本的な収入は補償されます。

 前号で記載した計算式は、

7,000,000×(1-0.3)×14.6430=71,750,700(円)

というものでした。まず、700万円の年収を基礎収入とし、これから生活費30%を控除します。生活費を控除する理由は、逸失利益については相続構成を採っているため、Aが稼いだ財産をB、C、Dの3人で相続すると構成する訳ですが、Aが生きていれば将来にわたってAの生活費がかかり、その分は相続財産が減っているはずだから、これを差し引くわけです。
 次に14.6430の数字ですが、これはライプニッツ係数といって、中間利息を控除する為の係数です。基礎収入に今後働けるであろう27年間について単純に27倍してしまうと得られる金額が多くなりすぎます。つまり、本来、収入は将来1年ごとに順次発生するわけですから、例えば10年後にもらえる700万円を今もらうと、この金額を貯金等で運用すれば10年後には700万円より多くなってしまうので、その10年分の金利を引いて計算するのです。
 ライプニッツ係数は複利で計算する方式で10年のライプニッツ係数は0.6139ですからこの年の逸失利益は429万7300円(7,000,000×0.6139)となります。今年429万7300円を受領し、10年間年5%の金利で複利運用すると10年後には700万円になっているという計算です。この係数を1年後の0.9523から27年後の0.2678までの1年ごとの係数を加算していった合計が14.6430になるわけです。
 この係数の基準となっている利息は年率5%です。従って、原状ではとても5%の金利による運用は不可能ですから、もっと低い金利で計算すべきだというのはもっともな主張です。しかし、実質金利が5%より高い、古き良き時代も5%で計算されており、これは民事法定利率の5%に対応した数字であることから、実質金利が低くなった今日でも、損害賠償の実務では5%の金利が得られるとして運用されています。バブルの前にはこんな低金利時代が来ようとは予想していないわけで、今後10年20年先にはさらに高い金利の時代がこないとも言い切れないし、一時の経済状態を前提に直ちに1%から2%の金利で計算することはできないというのが支配的な考えです。なお、逸失利益の期間が短い場合には、今後5年間で金利が5%に上昇するとは思えないとして、3%、4%で計算した裁判例もないわけではありませんが、少数にとどまっています。(その後、中間利息控除は年5%とする旨の最高裁の判決が出されました=最判平成17年6月14日判タ1185・109頁)

「妻Bの死亡逸失利益の計算」

 Bは専業主婦で、具体的にはお金を稼いでいませんからこの場合に逸失利益は0となるかというと、そうではありません。
 慰謝料については前前号でお話ししました。妻の慰謝料は基準としては2400万円ですが、その他に、逸失利益も認められます。
 妻の家事労働は、第三者(例えばお手伝いさん)にやってもらえばお金がかかるわけですから、当然、金銭的に評価が可能な労働であると考えるわけです。具体的にどのように算定するのかというと、主婦の仕事は女子労働者の全年齢平均賃金をもって計算されます。
 具体的には年収で言うと351万8200円(平成14年度の平均賃金センサス、以下賃金センサスは平成14年のもの)となります。

(計算式)

3,518,200×(1-0.3)×15.1410=37,288,346(円)

生活費控除割合はAと同じ30%、ライプニッツ係数は67歳までの29年間で15.1410となります。

「長男Cの死亡逸失利益の計算」

 Cは高校生で、所得を得ていませんが、当然将来は仕事に就くはずです。しかし、将来どんな仕事に就くかわかりませんのでこの場合には、やはり賃金センサスを用い、男子全労働者の平均賃金を基に計算されます。具体的な年収金額は平成14年の賃金センサスで555万4600円です。

(計算式)

5,554,600×(1-0.5)×(18.3389-1.8594)=45,768,515(円)

となります。
 この場合の生活費控除割合は50%になります。そもそも親は、子供の生涯にわたって稼いだ財産を相続することはないわけで、逸失利益について相続構成を採っても生活費控除割合は大きくすることが妥当と考えられているのです。
 ライプニッツ係数は死亡時から67歳までの51年の係数18.3389からCが働き始めると考えられ18歳までの2年間のライプニッツ係数(1.8594)を引いて計算する必要があります。
 父A、母Bも大学出身、Cも有名受験校で成績優秀であれば、平成14年度の大学卒業者の男子労働者の全年齢平均賃金674万4700円を基礎収入として主張することもできます。

(計算式)

6,744,700×(1-0.5)×(18.3389-5.0756)=44,728,489(円)

となり、基礎収入は大学卒業者の全年齢平均賃金で大学卒業者以外を含む男子全年齢平均賃金より高くなりますが、働き始めるのが22歳となり、6年分のライプニッツ係数5.0756を差し引くので、結果的には賠償額は低くなってしまうのです。我が子は必ずや大学に行ったはずと思っても、賠償請求する場合には、そのようなこだわりを捨てて頂いた方が賠償額は高くなることもあるのです。

「長女Dの死亡逸失利益の計算」

 Dについても、妻Bと同じように、女子労働者の全年齢平均賃金351万8200円をもとに計算されます。これを、男子Cと同じように計算すると

(計算式)

3,518,200×(1-0.5)×(18.4934-3.5459)=26,294,147(円)

となります。ここで、Dが女子ではなく、男子だと仮定すると基礎年収が555万4600円になりますから

(計算式)

5,554,600×(1-0.5)×(18.4934-3.5459)=41,513,691(円)

となり、男女間で1500万円の大きな差が生じます。

そこで、女子については生活費控除割合を男子の50%ではなく、30%にしてこの格差を縮める工夫がされてきました。従って、実際は

(計算式)

3,518,200×(1-0.3)×(18.4934-3.5459)=36,811,806(円)

となります。しかし、この場合にも500万円近い男女間格差が生じてしまいます。
 これは、女子が結婚等により途中で退職し、再就職しても、男子の賃金が上昇する30歳代、40歳代、50歳代に、女子の平均賃金が男子に比べて遥かに低い水準にとどまるという統計的な現実があるからです。
 しかし、今日、男女雇用機会均等法の施行、あるいは若年世代の意識の変化によりこのような男女間の賃金格差が是正される方向にあることは間違いないと思われますし、現実に優秀な女性を見るとき、今までの統計資料だけでこのような男女間格差を容認しておいて良いのか。少なくも、将来の可能性を秘めている義務教育課程以下の女子については、従前のような女子の全年齢平均賃金をもって基礎年収を算定するのが相当ではないかという議論があり、現在では、男女全労働者の全年齢平均賃金である494万6300円を基礎収入とし、生活費控除割合を45%として計算する裁判例が増えています。

この裁判例の考えによれば、

(計算式)

4,946,300×(1-0.45)×(18.4934-3.5459)=40,664,150(円)

 となり、これで、男女間格差は100万円弱に縮まることになります。この場合の45%という生活費控除率は、これを40%にすると逸失利益額が4436万891円となり、男子の逸失利益額(4151万3691円)を超えてしまうために、この金額を超えないように設定された数字です。男子の所得の統計上の優位は明らかですので、男子の逸失利益を超えない範囲で男女間格差をなくそうという試みとして、生活費控除割合を45%としているのです。

「法律家の常識は世間の非常識?」

 このように説明してくると、「法律家はなんとくだらん議論をしているのだ。男女間格差がだめというなら男も女も全労働者の平均賃金で計算すればいいではないか。」と言われるかも知れません。もっともな意見ですが、男子について男女全労働者平均賃金で生活費控除割合を45%にしてしまうと、男子の賠償金額を切り下げるということになり、抵抗があります。かといって、男女とも生活費控除40%で計算すると、逸失利益額が4436万円余となり、今までより男子も高額となり、従前の運用とバランスを失することになると考える訳です。
 このように逸失利益の算定は、それなりの理屈とバランス感覚に支えられたもので、所詮、将来の収入予測という厳密には証明不可能なことを、ある程度の蓋然性をもとに妥当な賠償額を導こうとの議論ですので、論理的な不整合性は仕方のないことだとご理解下さい。

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