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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 園 高明

2007年01月01日

修理できても全損?

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報vol.10, 2007.1.1)

質問

 交通事故にあって車が破損しましたが、大切に乗ってきた車なので修理をしようと思ってディーラーで修理見積をしてもらったところ140万円でした。ところが、加害者の保険会社は、私の自動車は100万円しか価値がないので、全損だから100万円しか支払えないと言ってきました。修理できるのに全損というのはどういうことなのでしょうか。私は、100万円しか賠償してもらえないのでしょうか。

回答

「経済的全損」

 法律的には全損には物理的全損と経済的全損の意味があるとされています。物理的全損はまさに車体が修理できないほど損壊してしまった場合です。もう一つの経済的全損というのは、修理費が自動車の時価額に買い換えの費用を加えた価格(以下、「時価+買い換え費用」を便宜的に「時価額等」といいます。)を上回る場合で、この場合は、修理が可能でも時価額等の価格を賠償すれば足りるというのが判例の考えです。
 自動車は工業製品で同種の自動車が多数ありますから、中古車市場で、同種、同等の自動車を入手することができれば、被害者の原状回復はなされると考えられているのです。
 日本の損害賠償は、基本的には物そのものを事故前の状態に戻すことではなくて、損害を金銭的に評価して事故前の財産状態に戻すために金銭を支払って賠償するという制度ですので、その車の時価と同種・同等の自動車を購入するための費用即ち「時価額等」を賠償すれば足りるわけです。

「時価とは」

 物の時価(取引価格)とは、「同一の車種、年代、型、同程度の使用状態、走行距離等自動車を中古車市場において取得するに要する価額によって定める」(最判昭和49年4月15日 民集28巻3号385頁)とされています。時価はどうやって調べるかと言いますと、一般的にはオートガイド社の自動車価格月報(通称レッドブック)によっています。自動車の価格には、ユーザーがそれまで使っていた自動車を下取りに出した場合の下取価格、自動車業者が他の業者に販売する卸価格、業者が仕入れた自動車に整備を加え店舗で販売する場合の販売価格の三種類があり、レッドブックにも三種類の価格が記載されており、その販売価格が時価にあたります。

「買い換え諸費用」

 買い換えの為に必要な諸費用のうち、事故車両の廃車の費用は賠償の対象になりますが、自動車税及び自賠責保険料は、車両の取得行為に付随して必要となる費用ではなく、車両を現に所有していること等に伴って生ずる費用で、いずれも、事故によって車両が全損となった場合には、所定の手続を執ることにより未経過分の還付を受けることができるものであるから、事故と相当因果関係を有する損害とは認められません。
 事故車両の自動車重量税は、購入する自動車につき自動車検査証の交付等を受ける場合及び車両番号の指定を受ける場合に、自動車検査証の有効期間及び自動車の重量に応じて課せられるものであって、事故車両の自動車検査証の有効期間に末経過分があったとしても、前記自動車税及び自賠責保険料のように還付されることはないので、事故時における自動車検査証の有効期間の未経過分に相当する金額は、事故による損害と認められます。ただし、未経過分の重量税でも、使用済み自動車の再資源化に関する法律により適正に解体され永久抹消登録されて還付された分は損害となりません。
 一方、購入した車両の取得に要する費用の内、検査・登録費用及び車庫証明費用は、車両を取得する都度支出を余儀なくされる法定の費用(手数料)であり、検査・登録手続代行費用、車庫証明手続代行費用及び納車費用は、販売店の提供する労務に対する報酬ですが、車両を取得する都度、検査・登録、車庫証明の手続や納車が必要となり、車両購入者が通常それらを販売店に依頼している実情から、これらの費用も買い換えに付随するものとして賠償の対象となるとされています(東京地判平成13年4月15日 交通民集34巻2号497頁)。

「結論」

 従って、現在の判例の考え方によれば、140万円の修理費の請求はできません。保険会社が100万円の価値しかないと言っているのは前記のレッドブックの販売価格のことを指していると考えられます。したがって、事故車両の時価額等として、事故車両の中古車市場価格100万円(なお、レッドブックの販売価格には消費税相当額は含まれておりませんが、前記最判の趣旨からして消費税相当額も賠償の対象となると考えられます。)及び前述の買い換え諸費用は賠償請求できます。
 なお、仮に事故車両にスクラップとしての価値がある場合には、その分は差し引かれることになります。

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