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弁護士 園 高明

2010年08月01日

自転車事故の法律問題(2)

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報vol.17、2010.8.1)

前号(16号)からの続き

前号では、15歳の子が68歳の主婦の方を自転車に乗っていて怪我をさせた場合の損害賠償額についてご説明し、膝関節の骨折により700万円を超える損害額が予想されるというお話をしました。

3 自転車対歩行者事故の過失相殺

そこで、今回は、最終的な損害賠償額について影響の大きい過失相殺の問題についてご説明したいと思います。被害者に過失があれば、総損害額から被害者の過失部分を引いた金額が支払うべき賠償金額になるわけです。自動車対歩行者の事故、自動車同士の事故、自動車対自転車の事故については、過失相殺率の認定基準があることは本誌第2号(2003年8月1日号)でもお話したとおりです。しかし、自転車同士の事故や自転車対歩行者の事故の過失相殺の認定基準については、現在まで公表されたものはありません。これは、自転車事故は、被害の程度も軽いことが多く、裁判になりにくいことから裁判例の数も限られており、また、事故状況もいろいろで、事故態様としての類型化が困難であるなどの事情によるものでした。
しかし、昨年、財団法人日弁連交通事故相談センターの東京支部から「自転車事故過失相殺の分析」という書籍が「ぎょうせい」から出版されました。
 これは、これまでに出された裁判例等を網羅し、その分析を通して、過失相殺を考える場合の重要な視点を提供するもので、いわゆる「過失相殺基準を定立した」ものでありませんが、過失相殺を考える上で大変参考になる書籍です。
 この書籍を参考にしながら、本件の自転車対歩行者事故について、過失相殺を考えてみましょう。
前号で事故態様は「道路で自転車に乗っていて歩行者に怪我をさせた」というものでしたので場合を分けて考えてみます。

(1)「歩道上」の事故

 本来、歩道は歩行者の通行のためのものであり、自転車は車道通行が原則(道交法17粂1項)です。例外的に自転車に歩道の通行が認められる場合であっても、歩道の中央から車道部分を徐行しなければならず、歩行者の通行の妨げとなるときは、一時停止しなければならないとされる(道交法63条の4第2項)など、歩道上の歩行者の優先は道交法上明らかですから、基本的には歩道上の事故では歩行者に対し、過失相殺は行われないと考えられます。
 しかし、歩道上の事故ではあっても、例えば、歩行者が店舗から歩道に出てきて事故になった場合、歩行者は、歩道の流れを道路外からはいり妨害するような形になるので、歩行者にも、その流れを妨害しないように注意して歩道に出る義務があるのではないかという考えもできそうです。このような考えによれば、10%以下でしょうが、歩行者も過失相殺される場合がありえます。一方、歩行者は歩道では絶対的に保護されるべきとの視点から、このような場合にも、原則として過失相殺はすべきでないという考え方もあるでしょう。

(2)「路側帯」での事故

 歩行者は、歩行者の通行に十分の幅員のある路側帯がある場合はここを通る必要があり(道交法10条2項)、一方、自転車は、著しく歩行者の通行を妨げる場合を除き、路側帯(歩行者用路側帯を除く)は通行できるとされています(道交法17条の2第1項)。つまり、路側帯では、人と自転車の混在が予定されているといえます。
しかし、自転車には歩行者の通行を妨げないような速度と方法で進行しなければならない(道交法17条の2第2項)のですから、歩行者に過失は認められても10%程度と考えるべきでしょう。

(3)「歩道、路側帯と車道の区別のない道路」の事故

 このような道路は、歩行者、自動車、自転車の混在する道路といえ、歩行者は、歩道や路側帯より、自転車の通行に注意する義務があると考えられます。
自転車は道路の左側端によって走行しなければならず(道交法18条第1項)、歩行者は右側端によって通行しなければならない(道交法10条1項)とされています。それぞれが、この規定を守って通行していた場合、双方は対向方向に進行することになります。しかし、自転車は、歩行者の側方を通過するときは、歩行者との間に十分な間隔を保ち、又は、徐行しなければならないとされており(道交法18条第2項)、自転車には、歩行者の安全のために一定の義務が課されています。
 このようなことから、歩行者と自転車が対面して事故になった場合、自転車には基本的には道交法18条2項違反があり、基本的な過失は大きいとされるものの、歩行者にも自転車の通行を視認でき、歩道のような優先権を主張できない以上、事故を回避することが期待されます。従って、このような自転車と歩行者の混合通行が前提とされている道路においては、歩行者の安全確認義務、結果回避行動が不十分なため事故になった場合には、歩行者にも20%程度の過失が認められるでしょう。
その他、横断歩道以外の場所において、歩行者と自転車が出会い頭に衝突した場合、あるいは歩行者が道路を横断しようとして衝突した場合なども、歩行者の過失が想定されます。信号機があって歩行者が信号を無視した場合は別として、歩行者の過失相殺の比率は10~20%程度とされることが多いでしょう。
以上、検討したとおり、自転車と歩行者の道路上の事故についても、歩行者に過失が認められ、過失相殺により損害賠償額が減じられる場合もありますが、その比率は、概して余り高くないということができそうです。

4 自転車事故の賠責保険

 最後に、このような高額な賠償をするための保険にゆいてご説明します。 個人賠償責任保険は、個人が日常生活で、他人の生命身体等に損害を与えた場合に賠償責任によって生じた経済的損失を担保するための保険ですが、この保険単体で加入している場合は少ないようです。
また、一般的な自転車総合保険には、対人の賠責保険が含まれていますが、個人向けの保険としては減少しているようです。
前者の個人賠償責任保険は、自動車保険、火災保険、傷害保険、積立傷害保険等の特約として付保されている場合もあり、自動車保険には、自動付帯されていることもあります。
特約として加入していた場合、あるいは自動付帯されていた場合には、保険に加入していることを意識していないケースもあります。
 ご質問のケースは、保険に入っていないということですが、個人賠責保険あるいは自転車総合保険に加入していなくても、他の保険に特約として付帯されていないかどうか再度チェックすることをお勧めします。

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