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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 園 高明

2013年01月01日

災害と交通事故の賠償

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報vol.22、2013.1.1)

質問

今回の笹子トンネル内での天井崩落事故に関して、賠償問題はどうなるのでしょうか。自動車保険は使用できるのでしょうか。

また、津波から逃げる途中で津波にさらわれた場合、自動車保険は使えるのでしょうか。

回答

1 愛しの中央高速

 今回の笹子トンネルの天井崩落事故には、大変驚きました。私は、八王子に住んでいた関係で、中央高速道路を利用する機会も多く、笹子トンネルが開通して間もないころから数百回は利用したでしょうか。廃坑のトンネルを利用した勝沼のワインセラーに近々出かけようと思っていたところでもあり、私自身も天井崩落によって、被災していた可能性も考えられるところでした。

 東京方面から笹子トンネルを抜けると、甲府盆地が広がり、4月には道路脇が桃の花でピンク色に染まり、近くの黒い山塊越えに南アルプスの白い頂を望み、甲府昭和ICに近づくころには、偽八ヶ岳、やがて本物の八ヶ岳が見えてきます。適度にカーブする中央高速は景観に恵まれ、味気ない東名に比べ走って実に楽しい高速道路で、私がもっとも好きな道路でした。しかし、テレビ等で知らされたトンネル点検方法を知るとあきれるばかりの内容で、天井崩落は、必然としか言いようがありません。

2 NEXCO中日本の責任

 NEXCO中日本(中日本高速道路株式会社)は、トンネルという土地工作物の占有者であり、今回の事故原因については、重いコンクリート板を支える部材を、トンネル上部のコンクリートに垂直にボルト・接着剤で固定する方法では垂直方法に加重がかかり、非常識とも指摘されており(工作物設置の瑕疵)、仮に設置の瑕疵でないとしても、点検方法が杜撰で、安全な保守管理がなされていなかったもの(工作物保存の瑕疵)と評価できますから、NEXCO中日本が、被災者に対し、民法717条により損害賠償責任を負うことになります。

 警察は、NEXCO中日本を業務上過失致死罪の容疑で捜査していると報道されていますが、法人が同罪で刑事処罰されることはありませんから、結局、会社の誰かを被疑者(犯人)としなければならないことになります。しかしながら、例によって、責任の所在の曖昧な組織の壁に阻まれて、被疑者を絞り込む捜査及び刑事訴追はなかなか困難ではないでしょうか。

3 災害と自動車事故

 本件のようなトンネル崩落により直接生じた損害に関しては、自賠責保険が支払われる要件としての「運行起因性」がないと判断されるので、基本的には自賠責保険が支払われることはないと思われます。自賠法は、自動車の運行に関する危険を強制保険という形で保険料を徴収して損害の補償をしようというものですから、天井のコンクリートに直撃された場合にはこの要件を満たさないものと考えられます。天井崩落を原因とする車両火災に関しては、エンジン、電装関係の走行装置の危険が現実化したとみる余地もありますが、本件事故では運転者に過失がないので、いずれにせよ自賠責保険の支払対象外となります。本件事故に関する説明は、天井崩落により直接被災した3台の自動車の被害に関するもので、後続の自動車が天井崩落を誘因として事故を起こしていた場合には、別の判断が必要です。例えば、天井が落ちてくるのをみて急ブレーキにより停車した車両に車間距離不保持の後続の車が追突して事故になった場合には、NEXCO中日本に対する請求とともに、後続車両に対する損害賠償の請求が可能です。

 任意保険にセットされた傷害保険― 搭乗者傷害保険、人身傷害補償保険は、基本的には、支払いがなされます。搭乗者傷害保険の支払いは、かつては自賠責保険と同様に「運行に起因する事故」が要件とされていたのですが、「運行中の飛来中、もしくは落下中の他物との衝突及び運行中の火災」についても、搭乗者傷害保険が支払われるよう約款が改正されているので、現在では、今回のトンネル崩落事故についても、自動車に乗車していれば、搭乗者傷害保険金が支払われます。

 人身傷害補償保険も被保険自動車に乗っていれば支払われるのが原則です。しかし、本件のように被害者に過失がない場合には、人身傷害補償保険では、保険金の支払いを受けると支払いを受けた保険金分のNEXCO中日本に対する損害賠償請求権が保険会社に移転することになります。

 一方、搭乗者傷害保険金を受け取っても、本来の損害賠償額が当然に減額されることはありません。同乗者が被害を受けてその車の所有者(運転者)に賠償を求める場合には、所有者が事故に備えて保険料を負担して加入した搭乗者傷害保険を受け取っているわけですから、その事実を斟酌して損害賠償としての慰謝料を多少(受領した保険金の2~3割程度の金額)低く算定することは行われているところです。しかし、今回の事故では、NEXCO中日本が保険料を負担した訳ではありませんから、被災者がNEXCO中日本に損害賠償を請求した場合、慰謝料を低くして良いという議論にはならないと考えられます。

4 自然災害と自動車保険

 今回のような人災と違って自然災害の場合、例えば、津波から逃げる途中で自動車が津波にさらわれ被災した場合も、基本的には、自賠責保険は支払われません。また、自動車保険は、地震、津波は一般的に免責(保険金が支払われない)とされており、地震、津波も担保される特約に入らない限り、保険金は支払われません。

 台風、洪水等自然災害による直接の損害に関しても運行起因性の問題で、自賠責保険は免責とされる場合が多いと思われますが、搭乗者傷害保険、人身傷害補償保険及び車両保険は有責(保険金が支払われる)となるのが一般的です。任意保険では保険約款や特約を個別に見る必要がありますが、自然災害に関連する自動車事故も、賠償金、保険金が支払われる場合とそうでない場合があることを覚えておいていただきたいと思います。

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