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弁護士 園 高明

2014年08月01日

高速道路上事故と過失相殺

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報vol.25, 2014.8.1)

質問

お盆は、帰省の自動車で渋滞が発生します。また、高速道路を移動していると大変な渋滞に見舞われ、その渋滞の先に、衝突事故が起きている現場をよく見かけます。ところで、高速道路の本線車道上に止まっていた車に追突した場合、止まっていた側にも責任があるのでしょうか。

回答

 高速道路上で停止している場合でも、渋滞であれば停止せざるを得ず、追突された車両に何らの過失はなく、追突した側が100%悪いということになります。従って、当該追突車との関係で過失相殺されることはありません。

 しかし、渋滞のない通常の流れの高速道路において、事故により事故車が本線車道上に停止し、そこに後続車が衝突した場合には、駐停車した側にも責任が認められる場合があります。

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1 高速道路上で事故を起こした運転者の義務

 道交法の規定では、事故を起こすなどして運転することができなくなった場合、運転者には、停止表示器材等により停止していることを後続車に知らせる義務があり(道交法75条の11 1項)、また、自動車を本線車道から路肩、路側帯(以下、「路側帯等」といいます。)に移動する義務があります(道交法75条の11 2項)。本来、本線車道は、自動車が高速度で走行することが予定されており、本線車道上の走行が妨げられることがないよう路側帯等への移動を義務づけていますが、自動車が壊れてしまい、路側帯等への移動ができないときでも、少なくとも、三角表示板などの停止表示器材を事故現場の後方に設置し、後続車に危険を知らせる義務があります。

 そこで、車両の損傷や運転者の怪我も軽く、運転が可能なのに本線車道から路側帯等に移動せず、本線車道上に留まっていたため後続車が衝突した場合、または、車両の損傷がひどく路側帯等への移動は困難だったが、停止表示器材の設置は可能だった場合(ただし、第1事故と第2事故との間にある程度の時間的間隔がある場合が前提となります。第1事故の車両に追従していた後続の車両が追突した場合は、路側帯等へ退避し、あるいは停止表示器材の設置をする時間的余裕がないので、このような要因を考慮する余地はないからです。)、駐停車について過失がなくても、責任が認められると考えられます。

2 高速道路上事故の過失相殺基準

 ところで、自動車事故の過失相殺基準に関しては、東京地方裁判所民事交通部の裁判官が別冊判例タイムズという雑誌に「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」を発表しており、最新版がこの7月に別冊判例タイムズ38として発刊されました。

 その中で、高速道路上の過失相殺基準も類型の見直しが図られ、四輪車同士の過失相殺基準に限っても、追突車がA、被追突車Bの例について、

① Bが駐停車することに過失がなく、また、路側帯への退避が不可能であり、かつ停止表示器材の設置が不可能であった場合には、Bに責任はなく、A100%:B0%の過失割合となります。

② 駐停車の原因となる第1事故が後続車から一方的に追突されたことによるもので、駐停車したことに過失はないが、路側帯への退避が可能であったがこれを怠った場合、または、路側帯への退避は不可能であったが、停止表示器材の設置が可能であったのにこれを怠り事故となった場合には、基本的な過失割合はA80%:B20%とされています。

③ 第1事故について、過失が認められる場合には、基本的な過失割合はA60%:B40%とされています。しかし、この場合でも路側帯等への退避が不可能で、停止表示器材を設置したときには、Bには、駐停車させた過失はあるが、事故後の処理としては道交法の規定を守っているのに対し、停止表示器材があるのに後続車が衝突したということになるとAの前方不注視は著しいと評価できるので、Aの過失割合を20%加算して、②と同じA80%:B20%となります。

 高速道路上事故の過失割合の判断要素

 渋滞中に停止していた車両に追突した場合、停止していた車両の過失0%というのは、社会常識に照らして当然といえますが、その他の理由で高速道路の本線車道上に駐停車していた場合(事故、車両故障、ガス欠などが理由として考えらます。)は、高速道路は見通しがよく、後続車は前方を見てさえいれば、駐停車車両に気がつくはずであるから追突する側が悪いという価値判断と、そもそも、高速道路では時速80キロメートル以上の高速で自動車が走行することが予定されているのであり、そこに車両を止めておくことは危険極まりないから、駐停車した側にも相応の過失が認められるべきであるとの価値判断の対立の中で、従来は何らかの落ち度があって駐停車した場合を念頭に置き、過失割合をA60%:B40%としていました。しかし、別冊判例タイムズ38号では、駐停車に過失もなく、事故後の運転車の義務を尽くしている前記①について326図、駐停車に過失はないが、事故後の運転車としての義務を尽くしていない②について324図、駐停車に過失がある場合の③について320図を設け、駐停車することについての過失の有無と路側帯等への退避義務違反、停止表示器材設置義務違反を組み合わせて類型化しています。

従来の別冊判例タイムズ16号の基本類型に修正要素を加味した場合の基準と比べ過失割合の結論が大きく異なるわけではないようですが、整理はしやすくなりました。

 なお、別冊判例タイムズ38号には、最近増えている自転車と歩行者事故の過失相殺基準、昨年8月号(23号)で触れた駐車場内事故の過失相殺基準など新類型の基準表も登載されています。今後の交通事故損害賠償の算定に当たっては、この基準により過失相殺を判断していくことになります。

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