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弁護士コラム・論文・エッセイ

弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 園 高明

2023年03月31日

現代自動車事情雑感

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報No.42, 2023.1.1)

 今回は、自動車の近い未来とカーボンニュートラル(以下、「CN」といいます。)について少し考えてみたいと思います。

<自動車と脱炭素・CN>

 自動車に関しては、ガソリン、軽油を燃焼させてエンジン(以下、内燃機関のエンジンをさします)を動かすことで排出される二酸化炭素が世界的な問題になっており、脱炭素社会に向けて、CNの標語の元、クリーンエネルギーが大きな課題として取り上げられています。前回もEV(電気自動車)の回生ブレーキに関して少し触れましたが、動力を取り出す際には、全く二酸化炭素を発生しないEVも発電に化石燃料を使用すれば、結局EVを動かすために二酸化炭素を排出してしまうことになります。今回は自動車エンジンのCNについて触れてみようと思います。

<水素燃料>

 水素燃料は水素の酸化・燃焼により発生するエネルギーを使う燃料で、水素と酸素とを反応させると出てくるのはエネルギーと水で二酸化炭素を出しません。しかし、自然界にある石油などの一次燃料と異なり、水素は、他のエネルギーを使って作る際に二酸化炭素を出してしまう可能性があるので水素燃料を作る方法が問題になります。EVでも電気を作る際二酸化炭素を出す可能性があるのと同じ問題があります。風力発電や太陽光発電など再生可能エネルギーを使用して水素を造る場合には二酸化炭素の排出はなくグリーン水素と呼ばれます。また、木材、トウモロコシなどから作るバイオマス燃料は、燃焼により二酸化炭素を出しますが、植物が成長する過程で二酸化炭素を吸収するためトータルの二酸化炭素量を増やさないので、CNの燃料ということになります。

<FCL(Fuel Cell Vehicle)と水素エンジン>

 水素を利用する自動車にFCL(Fuel Cell Vehicle)があり、燃料電池車(トヨタミライなど)は、水素タンクから供給された水素と大気から供給された酸素を反応させて発電し、その電気でモーターを回します。タンクへは水素ステーションにおいて水素が供給されます。水素エンジンは、従来のエンジンにタンクから水素を供給し水素を燃焼させてエンジンを動かすものです。ガソリンスタンドで給油するのに近い短時間で水素の充填が可能で、EVでは、充電に長時間を要するのと大きく異なります。

 <自動車の歴史とエンジン>

 自動車の歴史はエンジンの歴史でもあります。エンジンの開発には長年の研究、実績と技術の積み重ねが不可欠で、簡単には新規参入ができない分野でした。現在でも優れたエンジンを造ることができるのは、欧米や日本のメーカーなど一部に限られています。

 ところが、EVの分野は、基本的にモーターにより動力を得ますからエンジン開発のノウハウは全く必要がありません。したがって、エンジン、自動車製造のノウハウがない会社でも参入が可能となります。テスラなど新興メーカーが参入できるのはエンジン開発がいらないからです。エンジンで500PSの出力、優れた耐久性、許容できる燃費性能などを得ようと思えば、技術の積み重ねがないと不可能ですが、EVのモーターでは容易に得ることができます。EVの先駆けであるテスラモデルSがデビューした2012年当時、これと同等のエンジン出力を有するのは、BMW7シリーズ、メルセデスベンツSクラス、ジャーガーXJシリーズと長い歴史と技術の蓄積のあるメーカーの最高級車種であり、新興メーカーの二作目の車種が動力性能に関しては肩を並べることができたのです。

<エンジン車とEVの違い>

 エンジンは、回転数によるトルクバンドがあるので、高速に達するには別に変速機が必要で、機構的にも複雑になりコストもかかります。また、加速も一直線とはいきませんが、EVでは、モーターは回転の上昇がそのまま速度に直結しているので低速時の加速はエンジン車に比べて圧倒的に速いなどのメリットもあります。一方で、EVは原則として変速機がないため最高速はあまり伸びないという特徴があります。自動車の最高速は、多くの国では制限速度を大幅に超えた領域の話なので事実上デメリットはなく、加速の鋭さが重要と言えるかもしれません。昨年9月にたまたまポルシェのEVタイカンに乗り、ローンチコントロールを使っての全力加速を体感しましたが、怖さを覚えるほどのものでした。

 ヨーロッパでは、多くの国で自動車の電動化に向けて舵を切っており、将来的にはエンジン車は製造が禁止される方向性が示されています。現在の自動車産業は、メーカーと自動車部品を供給するサプライチェーンが国の経済や社会を支える大きな基盤としての役割を果たしています。エンジン車からEVへの展開はサプライヤーの変更が必要になり、メーカーが培ってきたサプライチェーンと一体としてどう成長していくかが問われることになります。ポルシェは、スポーツカーメーカとして著名ですが、EVのタイカンの発表にあたっては、この問題についての言及があり、自動車メーカーにとっても大きな課題として意識されています。

<モータースポーツと自動車>

 私は自動車が大好きなことは事務所報や事務所ホームページでも触れてきました。自動車が好きといえば、速い自動車が好き、スポーツカーが好き、モータースポーツが好きということになります。私は、長らくJAFのモータースポーツ審査委員会の審査委員を務めてきました。

 モータースポーツというと、世界ラリー選手権(WRC)が昨年11月、愛知でラリージャパンとして12年ぶりに開催され、トヨタの勝田選手が3位表彰台に上がり大いに盛り上がったことをご記憶の方もいるでしょう。世界耐久選手権には最も有名なルマン24時間レースがあり、このレースでは昨年トヨタが5連覇を達成しています。ルマン24時間と言えば、1964~1967年にかけてフェラーリP、P2、P3、P4のPシリーズとフォードGT40の激突(映画「フォード対フェラーリ」)、1970~1971年のポルシェ917対フェラーリ512の激突(映画「栄光のルマン」)に胸を熱くしました。

 F1選手権では、1990年前後にはマクラーレンホンダのアイルトンセナが世界チャンピオンになり、空前のF1ブームがありました。いまだに「セナ」の名前に接する機会が多いのは、アイルトンセナの神がかり的レースに惹かれた人が多かったからではないでしょうか。2021年はレッドブルレーシングと組んだホンダエンジンのフェルスタッペンがワールドチャンピオンになっており、2022年も同様にチャンピオンになっています。2022年は正式にはホンダエンジンを名乗っていませんが、エンジンについてはホンダが全面的にバックアップしています。

<FIA/JAF>

 このような自動車の世界選手権を統括するのが、国際自動車連盟(FIA)であり、日本国内のモータースポーツを統括するのが(一社)日本自動車連盟(JAF)になります。JAFといえば、自動車が故障した場合、バッテリーが上がって動かなくなった場合に救援に駆け付けてくれる組織として認識している方が多いでしょう。このようなロードサービス部門の外にモータースポーツ部門があり、日本国内の四輪のモータースポーツを統括しています。

 因みに、二輪のモーターサイクルレースは別組織で、日本では(一社)二輪車普及安全協会が統括しています。

 モータースポーツには、様々な規則があり、規則違反があると競技でのペナルティーや、失格などによる順位の変更、罰則などが課されるのですが、モータースポーツ審査委員会は、サーキットなどの競技場での現場の裁定に対し提起された控訴を判定する機関です。

 個人的にはモータースポーツは大好きでしたが、競技に参加するほどの運転テクニックも資金もありませんので競技経験はありませんが、昔は、サーキットには時々出かけていました。トヨタが買収して改修する前の富士スピードウェイ(昔はFISCOと言っていました)は、Bコーナーから最終コーナーを立ち上がり長いホームストレートの直線をほとんど全開で走行できる区間を経て第一コーナーでの強烈なフルブレーキというのが印象に残っています。JAF機関誌のJAFメイトで法律相談のコラムを担当していたことから、JAFのモータースポーツ審査委員会にお誘いをいただきました。

<CNとエンジンの今後の可能性>

 EVの加速は鋭いし、タイカンはポルシェの造る自動車として品質、安心感は絶大なものがありますが、自動車の運転を趣味的にとらえてきた私としては、やはりエンジン内の爆発が鼓動として伝わる心地よさには離れがたいものがあります。一方で、CNの問題は後戻りができませんから、エンジンでCNの課題がクリアーできないかという取り組みがモータースポーツの分野でも始まっています。自動車メーカーは自動車の性能を向上させる場としてモータースポーツに取り組んできました。1964年にホンダがF1に挑戦した際使われた標語が「走る実験室」でした。現在の自動車技術もほとんどはモータースポーツという極限状況と競争という切磋琢磨により向上してきました。EVの分野でもフォーミュラEで世界選手権(EVのF1ともいわれる)が開催されていますが、日本国内では、エンジン車のような競技車両によるレースはありません。

<水素燃料のレース車両>

 トヨタは、2021年から圧縮した気体水素をエンジン内に噴射して燃焼させるエンジンを搭載してスーパー耐久選手権(略称S耐)に参戦しています。2022年9月3~4日ツインリンクもてぎで開催された際、FIAの担当者がレースにおけるCNの取り組みについて視察に来ており、JAFの関係者と意見交換の場が設けられました。写真は、S耐で給油(ガソリンをいれるのではなく、気体の水素をタンクに充填する)作業中のものです。水素が万一漏れた場合には、炎上の危険が高い(気体水素の爆発炎上事故といえば、飛行船ヒンデンブルグ号が有名)ので、ガソリン給油以上に安全対策がほどこされていました。車両両脇は、岩谷産業がバイオマスから作った水素を充填したタンクです。当日は、豊田章男社長もお見えでした。因みに、トヨタは、WRCの第9戦ベルギーで、水素エンジン車をテストしてモリゾウ(豊田章男社長)がドライバーを務めて参加しました。

スーパー耐久選手権での給油の様子.jpg

 エンジンによるCNの取り組みは、二輪車メーカーのホンダ、川崎重工なども賛同しており、ディーゼルエンジンを得意とするマツダはバイオディーゼル燃料(BDF)によりS耐に参戦しています。BDFは植物由来の燃料であり、CNの燃料ということになります。レースを重ねるごとに技術は進歩し、例えば、水素の充填時間、航続距離なども大幅に進歩してきているとのことでした。

 EVや水素燃料等の普及には社会的インフラの整備が不可欠ですが、EVの電車のような加速感や音はどうもなじめず、長くエンジンに親しんできた身としてはエンジンの将来にも希望を持ちたいと思います。

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