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弁護士コラム・論文・エッセイ

弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 園 高明

2025年02月14日

交通関連の話題から

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報No.46, 2025.1.1)

1 はじめに

 自動車等車両を取り巻く環境も変化が激しく、マスコミで取り上げられる話題も多くなっています。前回及び前々回は、後遺症の損害賠償について専門性の高い内容でしたので、今回は、マスコミに取り上げられた話題について雑感風に説明してみます。

2 マイクロモビリティ

 従来から取り上げられてきた車両は、自動車、自動二輪車、バイク型の原動機付自転車(原付バイク)、軽車両としての自転車が主なものでした。しかし、最近では従来のこのような種類とは異なるペダル付原動機付自転車(モペット)、電動キックボードなどのマイクロモビリティが登場してきました。自動車運転免許を取得した人は、車両についての大まかな法規制は頭にあると思いますが、近時登場したマイクロモビリティの法規制については、よくわからないのが実情と思いますので概要を説明します。

(1) ペダル付原動機付自転車 

   電動アシスト自転車がバイクではなく自転車として開発・発売された経緯は、昨年10月、NHKの新プロジェクトXで放送されました。自転車とは、ペダル又はハンドクランクを用いかつ人の力により運転する二輪以上の車であって、かつレールによって運転しない車であるものとされています。電動アシスト自転車は、ペダルをこぐ人の力によりモーターが作動し人の力を補助するにすぎないから人の力により運転する自転車とされたわけで、モーターのみによる運転はできません。

   これに対し、ペダル付原動機付自転車は「自転車」ではなく「バイク」であって道路交通法上、原動機付自転車に分類されます。後記(2)の基準を満たすものは特定小型原動機付自転車に該当することになりますが、これに該当しないものは一般原動機付自転車として扱われます。なお、ペダル付原動機付自転車が特定小型原動機付自転車と認められるためには最高速度の基準を満たす必要があり、原動機による最高速度だけではなくペダルを漕いでも時速20kmを超える速度を出すことができないことが要件となっています。

   ペダル付原動機付自転車は、原動機を使用せずに走行することも可能ですが、ペダルを用いて人の力のみによって走行し又はスイッチを切り替えて電動アシスト自転車モードで走行したとしても原動機付自転車の「運転」とみなされます。原動機付自転車としてナンバープレートの表示、一般原動機付自転車を運転することができる運転免許及び運転免許証の携帯、一般原動機付自転車の交通ルールとして乗車用ヘルメットを着用すること、原則一番左側の車両通行帯を通行すること、道路運送車両法に定められている保安基準に適合した制動装置(前後輪)、前照灯、制動灯、尾灯、番号灯、後写鏡、方向指示器、警音器等を備えていること及び自賠責保険(共済)の契約締結が必要で、基本的には、原付バイクと同じ規制があることになります。

(2) 電動キックボード                     

   電動キックボードは電気式モーターを動力源とするので、道路交通法では、これも原付バイクと同じ原動機付自転車に分類されます。原動機付自転車は、一般原動機付自転車と特定小型原動機付き自転車とにわかれます。特定小型電動機付自転車は、他の交通の通行を妨げるおそれのないもので、運転に高い技能を要しない車ということです。①車体の大きさが長さ190cm幅60cm以下②電動機の出力が0.60kW以下③最高速度が時速20km以下④最高速度を変更できないこと⑤AT機構であること⑥最高速度表示灯の備えがあることです。この要件を満たす電動キックボードは特定小型原動機付自転車となり、運転免許は必要ありませんが、16歳未満の者は運転できません。公道を走る場合には、道路運送車両法の保安基準に適合し、ナンバープレートを取り付け、自賠責保険(共済)に加入する必要があります。ヘルメットの着用は自転車と同様努力義務になります。

   特定小型原動機付自転車は歩道の通行はできませんが、特例特定小型原動機付自転車(最高時速が6km以下)では、その最高速度表示灯が点滅により表示しているなど要件をみたせば、「普通自転車等及び歩行者等専用」の道路標識等が設置されている歩道の通行が可能となります。

  * マイクロモビリティに関する交通事故の責任等に関しては、藤井裕子弁護士著「Q&Aマイクロモビリティによる交通事故の責任・保険・過失相殺」(新日本法規)が参考になります。

3 自転車の危険運転

 これまでも、自転車が加害者となる事故についての刑事事件では、過失致死(傷)罪なので、故意に近いような重過失がある場合以外は、刑事事件として立件されることはほとんどありませんでした。しかし、悪質な自転車運転による事故の発生が増え、道路交通法に違反する悪質な乗り方に対する社会の批判も高まり、昨年11月1日からの改正道交法に基づく危険な運転取り締まりが始まりました。当初は、指導を中心とした運用のようですが、罰金等の処罰も始まることになると思います。

 悪質な危険運転としての飲酒運転も問題ですが、ここでは携帯電話の使用について触れておきます。違反行為は①携帯電話機等を手に持ち通話のために自転車を運転した場合、②画面に画像が表示された携帯電話機等を注視しながら運転した場合です。なお、停止していた場合は運転に含まれません。違反した場合は6か月以下の懲役刑(*)又は10万円以下の罰金です。また、これら違反により事故などの交通の危険を生じさせた場合は1年以下の懲役刑又は30万円以下の罰金になります。人身事故でいきなり懲役刑になることはないとは思いますが、過失致死(傷)罪よりは警察による摘発は確実に増加するはずで、罰金刑の金額は決して軽くはなく、自動車のような講習を受けず、遵法意識が強くない自転車やマイクロモビリティの運転に対しても、規制や取締りが強化されており、道交法を無視した安易な行動は慎みたいものです。

*改正刑法では、身体の自由を奪う刑罰は拘禁刑(懲役・禁固の制裁面より被告人の更生面を重視した刑)ですが、実施は令和7年6月1日からです。

4 一般道路での高速運転による危険運転致死罪

(1)異常な高速と危険運転行為の解釈

   一般道路の直線路(制限速度時速60km)での極端な速度違反(194km)による事故が自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条2号の「その走行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させた」として危険運転致死罪(1年以上の有期懲役刑)の適用があるか裁判で争われています。「走行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させた」というのは、単に速度超過の大きさの問題ではなく、道路状況(例えばカーブ、凍結路面、ラリーシーンで見るような非舗装路、悪路)を鑑みて判断することとされてきました。従って、通常はブレーキを踏めば停止しうるアスファルト舗装の一般直線道路では、相当程度の高速(時速150km弱)でも「制御困難な高速度」の要件に該当しないと判断されていました。

  これに対し、被害者遺族から異論の声が上がり、署名活動の声に押されて検察も危険運転致死罪に切り替えて起訴(訴因変更)したことから、マスコミでも大きく取り上げられています。

(2)故意犯と過失犯の違い

   もっぱら交通事故被害者救済の立場で交通事故に向き合ってきた立場としては、被害者の気持ちはよく理解でき、被害者遺族が、自動車運転過失致死罪では、大幅な速度違反があっても死亡事故で4~5年程度の刑というのでは軽すぎるという意識になるのはよく理解できます。しかし、伝統的な刑法理論からすると故意犯と過失犯とは質的に異なり故意犯のほうが圧倒的に罪は重いというのは当然なのです殺人罪では、故意犯は人を殺してよいと思って人を殺害しているのです。一方、過失犯は誤って人を死なせてしまったので人を殺して良いと思ってはいません。社会が感じる罪の大きさ重さが決定的に違うので、与えられる罰(刑の重さ)も大きく異なるのが当然と考えられてきました。

   この点で、危険運転致死罪は、人を殺して良いと考えているわけではなく、人を殺すという点では故意犯(殺人罪)ではなく、過失犯(過失致死罪)の範疇にはいります。危険運転致死罪も危険な運転をしているという認識・認容は必要でその点では故意犯ともいわれますが、殺人についての故意犯とは異なります。殺人罪の普通の量刑(殺人にはいろいろの態様があり、動機、理由、殺害方法も多様なので標準的な殺人を想定するのは難しいですが、私が弁護士になった昭和のころは、計画殺人ではなく、無関係の当事者に突発的に生じた一人に対する殺人事件を前提)は懲役12年が一応の目途で、動機、犯行態様等の諸要素を考えて量刑をきめるような印象がありました。しかし、最近は、裁判員裁判の影響で量刑も重くなる傾向であるともいわれています。危険運転致死罪が適用されても、単純に危険な速度で運転して死亡事故となった場合、殺人罪との比較でいえば懲役12年よりはそれなりに軽い量刑でないとおかしいということにはなると思います。

(3)自動車運転過失致死罪の量刑

   自動車運転過失致死罪では、前方不注視などの通常の過失では禁固3年で多くの場合執行猶予がつきます。この過失の内容に、飲酒、無免許、極端な速度違反、事故後のひき逃げ(報告義務違反、救護義務違反)などの要素が加わると刑期が伸び執行猶予がつかなくなるというのが現在の量刑の傾向であると思います。裁判官は、拘禁刑(懲役・禁固)の上限が7年でも、あまり重い刑にしてしまうと今後発生するより悪質な事件とのバランスを失する可能性があると考え上限に余裕がある量刑を選択します。古い話になりますが、故田中角栄氏のロッキード事件では、職務権限の大きさ、収賄金額(当時の5億円)、社会に与えた影響、被告人の反省のなさからみてもこれ以上ないほど収賄事件として悪質なものでしたが、東京地裁の量刑は、受託収賄罪の上限の懲役5年ではなく4年でした。殺人罪などは別として、有期刑のように刑期に幅がある場合は、上限の刑期が選択されることは原則ありません。自動車運転過失致死罪の刑期の上限は7年ですが、実質的に速度超過が著しく危険な行為だから上限の7年を課すとはならないのです。従って、重く処罰するには、危険運転行為にあたると判断する必要があることになります。

(4)危険運転致死罪の成否

   法律的にはどちらの判断も可能とは思いますが、普通は余り危険のない一般の直線道路でどの程度の速度違反があれば、「走行を制御することが困難な高速度」で自動車を走行させたといえるのか、道路の要素等がどのように考慮されるのかが注目されていました。

   路面が平坦でグリップ力が高いサーキットでも超高速走行していれば、ハンドルは敏感になり路面や風の影響を受けやすくなります。また、直線路でもフルブレーキを踏めば、タイアグリップは減速方向に使用され操舵は効かなくなります。ブレーキとハンドル操作を少し誤れば直線でもスピンする可能性があります。個人的な古い話ですが、時速200kmは時速100kmとは全く違う世界であることをサーキットで体験しました。しかも、走路幅も広く路面も良いサーキットとは違い道路状況の悪い一般道路の直線では、時速194kmを出す行為は、制御することが困難な走行といえるのではないかと思っていました。

   昨年11月28日、本件について大分地方裁判所で判決がありました。判決では、危険運転致死罪が適用されて懲役8年が言い渡されました。検察官の求刑は懲役12年でしたが、検察主張の妨害運転行為を認めず懲役8年とされました。懲役12年は、殺人罪の刑であり、殺意はないが喧嘩などで傷害の故意があった場合の傷害致死罪の量刑に近いといえるかもしれません。検察が様々な実験により直進していても時速194kmでは制御が困難になることを立証できたことが大きかったと思います。この点は、前記のとおり体験的にも納得できるところです。危険運転行為となる速度の数値基準設定など構成要件明確化に向けた法改正の議論とともに今後が注目されるところです。

 

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