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弁護士 園 高明

2017年09月06日

自動車運転の現在・過去・未来

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報No.31, 2017.7.1)

はじめに■

 今回は交通事故の法律相談から離れて、交通法学会や様々な機会に議論していることを踏まえ自動運転システムの現状と将来についてご説明しましょう。

 仕事でやむなく自動車の運転をする人、移動手段として自動車を選択して運転する人、自動車を操縦することを楽しむ目的で運転する人など自動車を運転する目的や理由は様々であり、また、複数の理由、目的がからむこともあるでしょう。

 私が自動車の運転免許を取得した40年以上前、自動車の運転は、まずクラッチを繋ぎスムーズに発進することから始まります。これが運転免許取得の実技編では初めの難関でした。クラッチペダルのない自動車はノークラといって、アメリカ車、ベンツ、ジャガーなどの高級外車に限られていました。その後、国産車にもオートマチックトランスミッション車(以下、「AT車」といいます。)が普及し始め、1991年11月には、AT車限定免許といって、クラッチペダルのない自動車のみを運転できる免許制度が導入されました。

 昔のAT車は、加速性能、燃費性能などがマニュアルトランスミッション車(以下、「MT車」といいます。)に比べ大きく劣ったこともあり、自動車の運転を楽しむという面からはマイナス点が多く、自動車運転を楽しみたい私は、AT車にはなじめませんでした。

 しかし、最近は、メカニズム的にはMTを基本としてエンジン、クラッチ、トランスミッションの制御を総合的に行い、クラッチペダルを廃止した先進的なAT車も登場し、ギアの変速速度では、プロドライバーのMT車をしのぐものもできており、速く走ることを目的とし運転を楽しむスポーツカーさえもクラッチペダルはなくなり、AT車限定免許でも運転できるようになっています。スポーツカーの代名詞ともいうべきフェラーリさえも、最近の車種は全車AT免許で運転することができます。

■自動運転の技術レベル■

 さて、ここからが現在、将来の自動運転の話題です。

 自動運転の技術レベルは、USAとドイツで若干ニュアンスの違いはありますが、概ね次の5段階に分かれています。日本でも、ほぼ同様のレベルに分けて議論されています。

レベル1(走行支援)自動走行の前段階:運転者は縦操縦又は横操縦のいずれかを持続的に行う。そのときどきで異なる部分的課題が一定の限度でシステムにより実行される。運転者、システムを持続的に監視しなければならず、いつでも、自動車操縦を監視し、自動車操縦を完全に引き受ける用意がなければならない。
 自動ブレーキ、前方車追従、車線維持機能を一つ有するものがこの段階です。

レベル2(一部自動走行・部分運転自動化):一定の時間又は特定の状況において、システムが自動車の縦操縦も、横操縦も引き受ける。運転者はレベル1と同様システムを持続的に監視しなければならず、いつでも自動車操縦を完全に引き受ける用意がなければならない。
 前車追従+車線維持機能を有するものがこの段階です。アダプティブクルーズコントロールとレーンキーピングアシストにより、高速道路上などで、前車に追従して走行できる機能で、運転者のハンドル、アクセルブレーキ操作は不要になります。運転免許取得の実技で苦労した縦列駐車、車庫入れの自動化もこのレベルです。また、近時実用化されつつある自動車線変更なども、このレベルですが、レベル3につながる技術です。

レベル3(高度自動走行・条件付き運転自動化):一定の時間又は特定の状況において、システムが自動車の縦操縦も、横操縦も引き受ける。運転者は、システムを監視する必要はない。運転者は運転課題を自ら引き受けなければならなくなる前に十分な時間的余裕を有する。システムは前もって運転者に注意を喚起する。自動運転の作動継続が困難なときに運転者に引き継がれる。

レベル4(完全自動走行・高度運転自動化):定義された特定の提供状況において、システムが自動車の縦走行及び横操縦を完全に引き受ける。
 運転者はシス
テムを監視する必要はない。システムはあらゆる場面において危険を最小にする状況が可能となる。運転者は、運転に全く関与せず、レベル3と比較して自動車の運転の意味が変 わってしまいます。

レベル5(運転者なし・完全運転自動化):自動化の最も進んだ走行。出発から目的地まで完全に自動車が引き受ける。運転者は不要で車内にいる人は全員乗客となる。
 レベル4は、人工知能(AI)、GPS等の進化により、自動車メーカーの開発によりある程度実現可能ですが、レベル5は、インフラの整備が不可欠となります。

■現在の自動運転■

 現在、日本で販売されている自動車は、自動運転レベル2の状態までというところです。レベル2では、あくまで人の運転が基本であり、人のエラーを機械がカバーするというものです。自動運転のベネフィットとされるヒューマンエラーによる事故を防止する機能は、このレベル1、2でもかなり大きいことは間違いありません。事故原因として約33%と多く、むち打ち症などの発生原因となる追突事故に対する自動ブレーキを装備した自動車の事故軽減効果は明らかでしょう。次にレベル3になると機械が最終的に対応できない状態になった時に、人の運転操作に委ねられるというものです。機械の限界を人がフォローするというものですが、イメージとしては、航空機のオートパイロットというところでしょうか。

 自動走行の事故としてアメリカで報告されている例があります。東京でも見かけることが多くなったバッテリー式電気自動車のテスラが、オートパイロット運転中、対向車の右折してくる大型トレーラーの白い側面を晴天の空と判別できず衝突した事故です。オートパイロット運転をレベル2のドライバー支援システムで、運転者はステアリングに手を置き運転を右折車の動向を監視すべきであるとすれば人の責任が大きくなるし、レベル3とみれば、危険な状態を認識できず、運転者に運転を引き渡さなかった自動車を製造したテスラ社の責任が大きいということになります。

 日本の経済産業省でも、レベル3での自動車メーカーの製造物責任が議論されています。A車がオートパイロットで高速道路を走行中、前方に植栽作業中の作業車が止まっていて、その手前がパイロンにより走行車線がクローズされている状況で、A車の自動運転システムは、進行方向のパイロンを検知し、右側に進路変更したところ、後続の大型トラックに遮られて検知できなかったB車が猛スピードで第二車線を走行してきたのを検知し、回避不能と判断し、運転権限を運転者に移譲しようとしました。しかし、人が対応するには遅すぎて衝突してしまったという事例において、自動車メーカーの製造物責任についての運転者、自動車メーカー双方の主張を想定し、法律上の問題点を議論しています。興味深いのは機械の判断のあり方です。このような状況で、作業車との距離がある場合、パイロンのほうにぶつかっても損傷が少ないので、進路変更をやめブレーキをかけるという選択をオートパイロットに期待できるのか。そのような選択をしなかったのはシステムの欠陥ということになるのか。人が普通に運転していた場合と同様の対応をしていれば欠陥にならないかなどが議論されています。

 このように自動運転のレベルが上がるにしたがって運転者の責任は軽くなり、自動車メーカーの責任は重くなります。現状では、自動車保険により、被害者、運転者は救済されることが多いので、自動運転の不具合について、自動車メーカーの責任を追及する訴訟が提起されたという話は聞いていません。しかし、ユーザーも高い費用を払って自動運転システムのついた自動車を購入したのに、システムの欠陥で損害を受けたとなれば、今後、自動車メーカーの責任を追及する場面も出てくるように思います。

■将来の自動運転と法整備■

 現在の自動車関連の法整備は、「自動車の運転には運転者がいなければならない」という自動車運転に関するウィーン条約により行われています。しかし レベル4に達した場合は、完全に運転が自動化され、自動車の運行に人が全く関与しなくなります。今までの法体系では対応できません。

 政府は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの会場の一部等でもレベル4の自動運転を実施できないか、その場合のインフラ及び法整備の検討を経済産業省、国土交通省、警察庁に命じています。

 レベル3までは、人が何らかの形で運転に関与し、運転者の注意義務違反(道交法70条:ハンドル、ブレーキその他装置を確実に操作し、道路、交通及びその車両等の状況に応じ他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転する義務(安全運転義務)違反)があり、自動車運転過失致死傷罪による刑事処罰は人に対してなされます。しかし、人の関与が想定されないレベル4では、人に対する道交法違反の罪や自動車運転過失致死傷罪は適用できないという問題があります。また、自動運転の場合の免許をどうするのかという問題もあります。自動運転のベネフィットとして高齢者、障害者の移動の確保がありますから、現在は運転者としては認められない視力の低い人でも利用できるようにする必要があります。

レベル4における民事責任■ 

 事故の民事上の責任に関しても、自動車事故による人身損害に関しては、現在、自賠法があり、この責任主体は、運転者ではなく、自動車の保有者などの運行供用者(以下、「保有者」といいます。)です。保有者は、自動車の保有者、運転者に過失がないこと、自動車に瑕疵(構造上の欠陥又は機能の障害)がないことを立証をしないと自賠法上の民事責任を免れることはできません。レベル4になると人の無過失は認められることになりますが、保有者は、自動車に瑕疵がない点について立証責任を負うことになります。完全自動運転で事故が生じた場合は、一応は自動車に何らかの欠陥があったということになります。しかし、このような場合にも今の自賠法の制度で自動車の保有者が責任を負うとすれば、自動車メーカーの責任を肩代わりすることになるのではないか。自賠責保険の保険料を負担している保有者から、自分の関与しないシステムの欠陥についての損害を負担することについて納得を得られるか。法律論としては、保有者(または自動車保険の引受会社)は自動車メーカーに対し求償できるという構成になりますが、交通事故の被害額は、100万円以下の少額のものが大多数なのにいちいち自動車メーカーに求償するのか。自動運転のノウハウは自動車メーカーにあるのに、ノウハウのない保有者、保険会社が求償権を行使して公正な結果が得られるのかなどが議論されています。

 また、自賠法の適用のない物損では、現行制度のままでは、運転者に過失がない場合には、運転者に対し損害賠償請求ができないことになります。

おわりに

 AT車を拒否してMT車にこだわる人がいるように、将来も、私と同様、運転を楽しみたいという人も一定数いるはずで、自動運転車と人の運転する自動車との混合交通になるのは明らかですから、その場合に損害賠償に関し適用される法律が異なるということに社会的合理性があるのか疑問もあります。

 いずれにせよこれらの問題に関しては議論が始まったところであり、社会的なベネフィットも高く全体として向かう方向は動かないと思われますので、自動車の運転についての個人の自由を尊重しつつも、合理的な制度ができるように議論していきたいと考えています。

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