
2018年08月31日
園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。
(丸の内中央法律事務所事務所報No.33, 2018.8.1)
私の少年時代は、自動車はあこがれの対象でした。身近に見て触れ、乗る対象として認識できないころは、あこがれは、常にヨーロッパのレーシングカー、スポーツカーでした。
1970年には、ヨーロッパの超弩級のレーシングカーポルシェ917、フェラーリ512Sが日本の富士スピードウェイを走りました。
この両車のルマン24時間レース(今年はトヨタがやっと総合優勝した)の対決を描いたスティーブマックイン主演の「栄光のルマン」は、感動ものの映画でした。実際にルマンのレースで撮影車を走らせた素晴らしい音と映像でレースファン、フェラーリファン、ポルシェファンを魅了しました。
私にとって、やはりこの時代のクルマが一番魅力的に感じられ、夢に見る欲しい車には、いつもこの時代のクルマがランクされます。
クラシックカーというと、フェンダーがボディーと一体となっていない第二次大戦前のクルマをイメージするかもしれませんが、戦後でも1970年代までのクルマはネオクラシックといって、ササビーズなどの有名なオークションで取引の対象となっています。
ところで、数か月前、「スクランブル」という映画が公開され、私は、最近ビデオで観賞しました。B級映画で、富豪のクラシックカーを盗むという内容ですが、走行シーンも実に痛快で、主役はブガッティ57Sクーペアトランティークとフェラーリ250GTOという戦前、戦後のクラシックカーの金看板(もちろん、撮影に使用されたのはレプリカ)です。
クーペアトランティークは1936年製で2台(又は3台)あり、1台は著名なクラシックカーコレクターでもあるかのラルフローレン氏が所有しています。250GTO(この時代のフェラーリは1気筒あたりの排気量にV型12気筒エンジンのシリンダー数12を乗じて3000ccが250GTの由来)は36台あり、所有者の履歴とともに存在が確認されています。当然、ラルフローレン氏は、250GTOも所有しています。
このような超希少なクルマの取引は当事者間で秘密裏に行われ、取引価格は公開されないので実勢価格は不明ですが、250GTOは1度だけオークションで落札されたことがあり、2014年8月のオークション落札金額は3811万5000ドルでした。
ブガッティとフェラーリといえば、先日、サッカーワールドカップのスーパースターを紹介する番組で、クリスチャーノ・ロナウドがブガッティベイロン(約2億円)を、リオネル・メッシが40億円のフェラーリを所有していると報じられていました。ブガッティベイロンは、先の戦前のブガッティとは直接の関係はなく、ポルシェ一族につながるDrピエヒがフォルクスワーゲンのCEO時代にブガッティの名前を買い、執念で作り上げた世界最速のスーパースポーツカー(1001馬力で最高速400km/h以上)です。また、40億円のフェラーリの写真が紹介されていましたが、250GTOではなく最新の「フェラーリ488ピスタ」で、どこか情報の混乱があったのでしょう。
クラシックカーも路上に出れば事故にもあいます。ここではクラシックカーが損傷した場合の損害賠償として裁判で争われた例をご紹介しましょう。
一つめはアルファロメオTZ1(1964年製)です。
TZ1は、当時のスポーツカーレース向けに100数台製作されたアルファで、フェラーリ250GTOと同様、サーキット専用のレーシングカーではなく、ぎりぎり一般道路でも使えるクラシックカースポーツカーとして高い人気があります。この時代のレース向けに製作されたスポーツカーの定番、鋼管フレーム構造・アルミボディーの車体について、原告は、ボディー全体の取り替え、全塗装の必要性を主張したのに対し、裁判所は、板金修理、部分塗装が相当として903万円余の請求に対し、90万3000円を修理損害としました(大阪地判平20年3月27日 自保ジャーナル1753号21頁)。
実際に小衝突でボディーの一部が損傷した場合の修理方法はアルミボディーであるからといって特別なわけではないので妥当な判決と思います。
二つ目は、ホンダS800の時価額が争われた例です。
被害車と近似する車両を販売する場合小売価格が250から270万円であること、被害者が日々丹念に手入れし磨き上げていたことから事故前における被害車の外観・機能は販売会社の小売りにも耐えるものと推認できるとして1967年式ホンダS800について270万円の時価と認めています(神戸地裁平成3年5月28日判決 交通民集27巻3 号606頁)。今ではS800も立派なクラシックカーで2017には2万~4万ドル位で落札されています。
ちなみに、日本車で最も高価なクラシックカーはトヨタ2000GTで、2014年8月には115万5000ドルで落札されていますが、クラシックカーの全体的な相場は2015年をピークに下がってきております。
因みに、歴史的価値のあるクラシックカーか単なる古い車かが争われた裁判例があります。クライスラーインペリアルルバロン100万円(東京地判平成16年12月22日 交通民集37巻6号1760頁)、フォードファルコンフューチュラ2ドアセダン(改造車)290万円(横浜地判平成18年9月29日 自保ジャーナル1707号18頁)はいずれもクラシックカーとは認められませんでした。
クラシックカーには世界的な市場があり、クラシックカーのオークションに出品されるかが一つの目安になります。このような世界のオークション結果をまとめた雑誌に「CLASSIC CAR AUCTION YEARBOOK」があり、これに掲載されていれば、価値の認められたクラシックカーという評価ができると思います。なお、クライスラーインペリアルルバロンやフォードファルコンフューチュラは私が見た範囲では、同誌には掲載されていませんでした。