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弁護士 園 高明

2026年06月18日

自転車の交通反則通告制度

園高明弁護士は2023年(令和5年)3月をもちまして当事務所を退所いたしましたが、本人の承諾を得て本ブログの掲載を継続させていただいております。

(丸の内中央法律事務所報No.48, 2026.1.1)

園高明法律事務所

弁護士 園  高 明

 今回は、令和8年4月1日から施行される自転車の交通違反に対する交通反則通告制度についてご説明します。

<自動車の交通反則通告制度>

 自動車を運転される方は交通反則通告制度を概ね理解されていると思います。いわゆる青切符(交通反則告知書)を切られた場合、反則金を銀行や郵便局で納付すれば刑事手続きは開始されず刑事事件としては終了します。しかし。赤切符を切られた場合、一般の刑事手続きと同じで、警察署で捜査して検察庁に送致され、検察庁において取り調べが行われた後起訴、不起訴が決められ、起訴された事件については裁判所が判決によって有罪か否かを判断し、有罪であれば拘禁や罰金という刑罰が科されることになります。

 交通戦争と言われた昭和40年代、交通違反をすべて一般的な刑事手続きにより処理することは、警察、検察、裁判所の処理能力を大幅に超えるものでした。また、国民に対し、軽微な違反について刑事事件の被疑者、被告人として過度の負担を強いることになるうえ、罰金刑が科されると前科になりますから国民の多くが前科を有することになってしまうのも政策として望ましくないといえます。そこで、昭和42年から、自動車の交通違反では、定型的なもので警察官が客観的に現認可能で、違反の程度が軽微なたとえば駐停車違反、一時不停止、一般道での30km/h未満の速度違反などは、検挙された人が納得すれば、現認した警察官が青切符を切り、違反者が反則金を納付すれば、前記の刑事手続きは開始されないという交通反則通告制度が運用されてきました。

<自転車事故対策と自転車の取締り強化>

 自転車が関係する交通事故は、近時年間7万件前後で推移しており、歩行者対自転車の事故も年間3000件前後ありました。交通事故件数が全体に減少する中では、自転車が絡む事故は減少していませんでした。そこで、自転車事故に対する対策として、警察庁は、自転車の交通違反に対する指導・取締まりを強化し、検挙件数は令和元年が2万件余りであったものが、令和6年では5万件余りに増加しています。しかし、自転車の交通違反の取締り後赤切符を切って刑事手続きにより罰金を払わせる制裁は、自転車の交通違反に対するものとしては国民の負担が重すぎる場合がほとんどなので、いきおい指導警告にとどめる、あるいは検察庁に刑事事件として送致されても不起訴処分とすることが多くなります。しかし、指導警告だけでは取締りの効果が薄いし、不起訴処分となってしまえば責任追及が不十分になり、交通違反に対する抑止効果が薄いという面は否定できないところでした。また、自転車の交通ルールは、必ずしも国民に周知・徹底されているわけでもなく、危険性も高くないため知っているルールでも国民の遵法意識は高くないという面があるように思います。

 そこで、自動車で採用されている交通反則通告制度を自転車にも採用する改正道交法が令和8年4月1日から施行されることになりました。

<自転車に対する交通反則通告と指導警告>

 自転車についても、自動車と同様な交通反則通告制度(青切符)を導入することになった背景には、警察庁が明らかにする公式の理由の外にも、無謀な自転車の運転による交通事故の発生、マスコミ等による無謀な自転車の通行に対する非難の増大があるように思います。

 無謀な自転車運転に対する非難があるとしても、自転車の反則行為は、さほど危険を伴うものではないことも多いことから、警察官により反則行為が現認された場合、直ちに反則通告をするのではなく、指導警告にとどめる場合もあるということです。青切符を切るか、指導警告にとどめるかの運用が実際どうなるかは未知数ですが、「警察庁交通局の自転車への交通反則通告制度(青切符)の導入」についての「自転車ルールブック」では、交通違反が交通事故の原因となるような、歩行者にとって、危険性・迷惑性が高い悪質・危険な違反であったときは検挙(違反者を調べ青切符を交付する手続き)を行い、そうでないときは指導警告を行うとされています。例えば、自転車は歩道を通行することが可能な場合でも、スピードを出して通行する(歩道を通行する場合の徐行義務違反)といった違反でその態様が交通事故を引きおこす危険性が低いなど悪質・危険な違反に当たらないときは、原則として、現場で「指導警告票」を交付するなどの指導警告を行うとされています。

 自動車について交通違反取締りを受けるドライバー感覚では、違反切符を切るか否かは形式的で、当該違反の具体的な危険を考慮して違反切符を切らないという運用がなされているとは思えないということではないでしょうか。自動車には交通法規を守らないことにより常に危険性はあるというのが警察の論理かもしれませんが、自転車は、自動車と違い、他人に危険を与える程度は低いので国民が納得できる運用を期待したいものです。

 なお、交通反則通告制度の対象となるのは16歳以上の者であり、16歳未満の場合は原則として指導の対象になります。

<主な反則行為>

 主な反則行為と反則金額について説明します。

(1)自転車の歩道通行

 自転車が歩道を通行できる場合は

① 道路標識・道路標示で歩道を通行することができるとされているとき

② 運転者が13歳未満、70歳以上、一定の身体障碍を有するとき

③ 車道又は交通の状況に照らして自転車の通行の安全を確保するため自転車が歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき

 です。この場合以外は、自転車は軽車両として、車道通行義務があり、歩道を走行していた場合には、通行区分違反として6,000円の反則金となります。

(2)自転車の逆走(右側通行)

 自転車は道路左側端によって走行する義務があるので、右側通行も通行区分違反として6,000円の反則金となります。

(3)赤信号無視

 市街地では頻繁に赤信号無視の自転車を見かけます。赤信号無視は6,000円の反則金になります。交通頻繁な市街地での信号無視は危険性が高いとして検挙される可能性があります。警察の重点取締地点は、交通事故の情勢、地域住民からの要望などを踏まえ警察署ごとに指定されます。

(4)速度超過

 自転車には、自動車のような法定最高速度(一般道では60km/h)はありませんが、道路標識等によって指定された指定最高速度に従う必要はあります。反則金は6,000円で、超過速度が15km/h以上30km/h未満の場合には7,000円から12,000円の反則金となります。

 スピードがでるロードバイクや下りの坂道では思わぬ速度が出ることがあります。自転車には速度計はありませんが、速度違反か否かについて速度計などで知っている必要はないので取締りを受ける可能性はあります。もっとも、自転車の速度違反についてどのような計測、取締り方法になるかは未知数ですが。

(5)携帯電話使用等(保持)

 携帯電話の使用、保持しての運転(携帯電話を手に保持して通話したときや画面を注視したとき)は事故につながるおそれが高く、12,000円と高額の反則金とされています。

 しかし、携帯電話の画面を注視していて近くの歩行者に接触しそうになったが歩行者が危険を感じて避けたため事故に至らなかったなど具体的危険を生じさせた場合には、もはや反則事件ではなく、妨害運転として赤切符による刑事手続きの対象となりえます。

<青切符の処理がなされない場合> 

 反則行為の対象外の重大な違反行為、例えば、酒酔い運転、酒気帯び運転、あおり運転等による妨害運転などは赤切符の対象となり刑事手続きが開始されます。

<自転車の交通違反と自動車運転免許の違反点数>

 運転免許点数制度は、自動車等の運転者の交通違反や交通事故に一定の点数を付けて、その過去3年間の累積点数等に応じて免許の停止や取消等の処分を行う制度です。これは、行政処分手続きで刑事処分手続きとは別の制度です。自動車では交通違反について反則金額、罰金額とともに違反点数が規定されており、自動車運転者は、交通違反の反則金又は罰金の支払いとともに違反の累積点数による運転免許の停止、取消が気になるところです。しかし、運転免許が不要な自転車については自動車のような違反点数の定めはないので、仮に自転車の信号無視などで検挙されたとしても、自動車の運転免許について違反点数が課されることはありません。

 ただし、運転免許を有する者が自転車で酒酔い運転などの悪質・危険な運転をした場合には、自動車等を運転することが著しく道路の危険を生じさせるおそれがあるとして6か月以内の期間運転免許の効力を停止されることがありうる(道交法103条1項8号)とされています。

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