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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 友成 亮太

2013年01月01日

会社法改正と実務への影響

(丸の内中央法律事務所報vol.22 2013.1.1)

1 会社法改正の動向

 現行の会社法は、平成17年に制定されていますが、平成22年、当時の千葉景子法務大臣は、法制審議会において、「会社法制について、会社法が社会的、経済的に重要な役割を果たしていることに照らして会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保する観点から、企業統治の在り方や親子会社に関する規律等を見直す必要があると思われるので、その要綱を示されたい」と諮問し、これに応じて法制審議会会社法制部会が立ち上げられました。その後、会社法制部会は議論を重ね、昨年(平成23年)12月に中間試案を公表し、パブリックコメント手続を経て、本年(平成24年)8月、「会社法制の見直しに関する要綱案」を取りまとめました。同要綱案は、同年9月の法制審議会(総会)において決定され、法務大臣に対して答申されました。

 現在、政治情勢が不安定であることから、どのようなスケジュールで法改正が行われるかわかりませんが、遠からず法改正は実現することと思いますので、今回は、会社法改正の要点をまとめるとともに、実務的にどのような影響があるかという点について一言触れたいと考えております。

 なお、本稿で全てを網羅することは困難ですので、法改正の詳細につきましては、法務省のホームページをご確認ください。

2 会社法改正の要点

 (1) 企業統治の在り方に関して

ア 監査・監督委員会設置会社の創設

 株式会社の新たな機関設計として、監査・監督委員会設置会社という制度が創設されます。社外取締役の監督機能に着目したものです。

 監査・監督委員会設置会社は、取締役会及び会計監査人を必ず置かなければならず、監査役を置くことができません。そして、監査・監督委員会は、監査・監督委員3人以上で組織され、その過半数は社外取締役でなければなりません。加えて、監査・監督委員である取締役は、それ以外の取締役とは区別して株主総会の決議によって選任されます。

 また、監査・監督委員会は、株主総会において、取締役の選解任や報酬等について意見を述べることが出来ます。

 本制度は、現行法上、委員会設置会社という機関設計を選択する場合、監査委員会、指名委員会及び報酬委員会を設置しなければならないところ、3委員会を設置することは抵抗があるという指摘があるため設けられたものであり、取締役会と監査・監督委員会だけを設置すれば足りるという制度設計になっています。

イ 社外取締役等の要件厳格化

 社外取締役及び社外監査役(以下、「社外役員」といいます)の資格要件について、株式会社の親会社等又はその取締役、執行役若しくは支配人その他の使用人が認められないことになります。社外役員の要件を厳格化するものです。社外監査役については、株式会社の親会社等の監査役でないことも必要であるとされています。

 さらに、兄弟会社(株式会社の親会社等の子会社等)の関係者も社外役員にすることができず、株式会社関係者の配偶者又は2親等内の親族も社外役員にすることができなくなります。

 他方、現行法上、過去に会社又は子会社の役員及び従業員等であった者は社外役員になることが出来ませんが、今回の改正により過去10年間そのような関係になかった者については社外役員に選任できるよう要件が緩和され、また、会社と役員間の責任限定契約は、社外役員等のみならず、全ての取締役、会計参与、監査役又は会計監査人と締結することが出来ることになりました。

 これらの制度設計は、社外役員の独立性を図ろうとするものです。現行法では、「社長等に対してプレッシャーをかけることが出来る社外役員は、経営者より弱い立場の人は不適格であり、経営者より強い立場の人が望ましい」との考えから、親会社関係者を社外役員として適任であると考えていました。ところが、海外では、社外役員は「社長等と利害関係がない人」に任せるべきであるという考え方が一般的であり、利害関係のある親会社関係者は社外役員として不適切であると考えられていました。このことから、今回、世界の趨勢に合わせ、社外役員の要件を厳格化する方向で改正が行われることになりました。

ウ 社外取締役を置かない場合の開示

 社外取締役に関しては、会社法において設置を義務化するべきかどうか議論がなされていましたが、結論としては見送られました。但し、公開会社かつ大会社かつ有価証券報告書を提出しなければならない監査役会設置会社は、社外取締役を設置しない場合、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を事業報告の内容としなければならないことになりました。

 また、法制審議会では、「金融商品取引所の規則において、上場会社は取締役である独立役員を1人以上確保するよう務める旨の規律を設ける必要がある」との附帯決議も行われており、国会でも決議される予定です。

エ 監査役に関する内部統制システムの充実化

 株式会社の業務の適性を確保するために必要な体制(内部統制システム)について、監査をさせる体制や監査役による使用人からの情報収集にかかる規定の充実・具体化を図るとともに、その運用状況の概要を事業報告の内容に追加しなければならなくなりました。

オ 会計監査人の選解任等に関する監査役の権限付与

 監査役又は監査役会は、株主総会に提出する会計監査人の選解任及び会計監査人を再任しないことに関する議案の内容について決定権を有することになりました。

カ 支配株主の移動を伴う募集株式発行等における規制

 公開会社が、特定の引受人に株式の割当てを行うことで、当該引受人が総株主の議決権の過半数を有することになる第三者割当ての場合、会社は当該引受人の名称等を払込期日の2週間前までに通知又は公告により株主に開示しなければならず、その開示の日から2週間以内に、総株主の議決権の10分の1以上の株式を有する株主が反対の意思表示を通知したときは、株主総会の普通決議を経なければならないことになりました。但し、当該公開会社の財産の状況が著しく悪化している場合に、その会社の存立を維持するため緊急の必要がある株式発行については株主総会の決議を経なくても構わないこととされています。

 そして、募集新株予約権の場合にも同様の規制が設けられました。

 その他、仮装払込みによる募集株式の発行が行われた場合、当該引受人及び仮装払込みに関与した取締役は、仮装した払込金額の全額の払込みを行わなければならず、当該引受人はそのような出資の履行が行われなければ株主権を行使することが出来ないことになりました。

キ 監査役の監査の範囲に関する登記

 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社は、その旨を登記しなければならなくなりました。

 

(2) 親子会社に関する規律等に関して

ア 多重代表訴訟制度の創設

 新たな制度として、完全親会社(100%株主)の100分の1以上の株式を有する株主は、子会社の取締役、監査役、発起人及び執行役などを訴えて損害賠償を請求することが出来る制度が創設されます。この場合における子会社とは、完全親会社の総資産額の5分の1を超える株式帳簿価額を有する子会社です。

 現行法上、親会社の取締役は、子会社の取締役を監督する義務を負うのか、どの程度の義務を求められるのか、規定はありませんでした。しかし、完全親会社が株主として子会社の取締役等に対して責任追及を行わず、結局親会社の株主が不利益を被ることもあり得ると指摘されており、子会社の取締役が放任状態にあるのではないかと疑う学識経験者と、実務では一定の規律は働いていると考えている経済界との対立がありました。そこで今回、一定の場合に限り、親会社株主が子会社役員に対して直接の責任追及を行うことが出来ることになりました。

イ 組織再編等の差止請求権の拡充

 新たな制度として、①全部取得条項付種類株式の取得、②株式併合、または③略式組織再編以外の組織再編が法令又は定款に違反する場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主に差止請求権を与える制度が創設されます。

 現行法上、略式組織再編については、明文の規定で差止請求権が認められていますが、略式組織再編以外の組織再編については、特にそのような規定がありません。しかし、略式組織再編以外でも違法不当な組織再編が起こりうることから、本制度が創設されました。

ウ 会社分割等における債権者の保護

新 たな制度として、分割会社(吸収分割会社又は新設分割会社)が、承継会社(吸収分割承継会社又は新設分割設立会社)に承継されない債務の債権者(残存債権者)があることを知りながら会社分割を行った場合、当該債権者は承継会社に対して、承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求することが出来る制度が創設されます。

エ 公開買付規制に違反した株主による議決権行使の差止請求制度の創設

 新たな制度として、株主が金融商品取引法上の規制の一部(公開買付規制及び公開買付者の全部買付義務)に違反した場合、その違反する事実が重大であるときは、他の株主が議決権の行使差止めを請求できる制度が創設されます。

3 実務への影響について

上 記以外にも様々な改正がなされますので、実務に対しても一定の影響を与えることになると思いますが、3点取り上げるとすれば次のとおりです。

(1) 社外役員の資格確認

 今回の改正により、親会社や兄弟会社の関係者を社外役員に選任することが出来なくなります。そのため、現在、社外役員として親会社の関係者を選任している場合には、その人事を見直す必要があります。特に、監査役会設置会社では、監査役の半数以上が社外監査役でなければならないとの定めがありますから、社外監査役が親会社の関係者である場合には注意しなければなりません。

 また、上場会社は、社外取締役を設置しないのであればその理由を説明しなければならなくなりますので、社外取締役の選任をするのか、例えば今回新たに創設される監査・監督委員会設置会社に変更するのか等、人事や制度設計の検討が必要であると思われます。

 他方、従来と異なり、社外役員は、過去10年に会社との関係がなければ選任することが出来るよう規制緩和されますので、今までは社外役員として認められなかったような候補者も社外役員として選任できることになります。

(2) 内部統制システムの充実化

 現行法では、内部統制システムの構築について、取締役会等の決議を要求するにとどまっています。ところが、今回の法改正においては、監査役の関係に限ってではありますが、内部統制システムの運用状況について、事業報告に記載しなければならないということにされています。

 今回の法改正において、監査・監督委員会設置会社及び多重株主代表訴訟を制度として創設するとともに、社外役員の独立性及び監査役の権限を強化していることなどからすれば、今後会社法は、会社自身の内部統制機能に期待する方向で解釈及び運用され、また、内部統制システムについても充実・具体化を求められていくのではないかと考えます。

 したがって、会社法上内部統制システムの整備が義務付けられている大会社はもちろんのこと、そうではない会社においても、内部統制システムの構築及び運用について、充実化を図るべく検討されてはいかがかと思います。

(3) 多重代表訴訟に対する対応

 従来、子会社役員は、株主である親会社から訴えられるリスクは少なかったといえます。ところが、一定の場合に限られているとはいえ、今後、完全親会社の株主が子会社役員を直接訴える可能性がありますので、会社の大小にかかわらず、多重代表訴訟の対象となる役員がいるかどうか確認しておく必要があると考えます。

 また、株主が直接訴えることが出来る以上、親会社としては、今後ますます子会社の業務執行が適正であるかどうか出来る限り監督する必要があるだろうと思われます。

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