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弁護士 友成 亮太

2019年02月25日

マンションの老朽化と建替え

(丸の内中央法律事務所事務所報No.34, 2019.1.1)

1 日本におけるマンション

 日本初の分譲マンションは、昭和28年に東京都が分譲した「宮益坂ビルディング」(東京都渋谷区)であり、民間としては昭和31年に分譲された「四谷コーポラス」(東京都新宿区)が日本初だそうですが、平成29年末時点の国土交通省の調査によれば、日本には約644万戸の分譲マンションがあるということですから(推定居住人口約1533万人)、現在、特に都心部においては、一軒家ではなくマンションに居住する生活スタイルが当たり前になっていると言っても良いでしょう。
 他方、国土交通省の調査によれば、平成29年末時点で築30年超のマンションが約185万戸、築40年超のマンションが約73万戸、築50年超のマンションが約5万戸もあるとのことであり、今後も老朽化マンションの増加が予想され、老朽化に伴う建替えを検討するマンションも増えてきているようですが、なかなか建替に至るのは容易ではありません。

2 マンションと法規制

 マンションに関しては、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」といいます)が昭和38年4月に施行されています。区分所有法には様々な規定が設けられております。例えば、大多数のマンションは分譲業者が予め定めたマンション管理規約により管理組合が運営されていると思いますが、これも区分所有法32条に基づくものです。また、多くの場合は国土交通省が定めた「標準管理規約」というモデルを管理規約として採用し、標準管理規約に基づいて運用されているマンションが多いと思いますが、これも区分所有法に沿って定められたものです。
 また、区分所有法に関連して、マンション管理の適正化の推進に関する法律、マンションの建替え等の円滑化に関する法律、被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法などが制定・施行されています。

3 マンションの建替決議

 マンションは、1棟の建物について、複数人が部屋ごとに分割所有するというものです。民法では、1つの物について「単独所有」または「共有」しかありませんが、区分所有法では、マンション各戸の所有者(以下「区分所有者」といいます)が単独所有する部分と、複数の区分所有者が共有する部分を区別し、前者を「専有部分」、後者を「共有部分」と呼んでいます。そして、マンションの建替は、取壊しと再築であり、民法の原則からすれば区分所有者全員の同意を得なければなりません(民法251条)。ところが、マンションの建替えの場合にも区分所有者全員の同意が必要であるならば、建替えは事実上不可能といって良く、このような民法上の原則を修正する規定が区分所有法に設けられています。
 マンションを建替えるためには、集会において、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の賛成が必要です。区分所有者の5分の4というのは人数ですが、議決権は原則として1人1票ではありません。区分所有法上、マンションの集会における議決権は、共有部分の持分割合とされており(同法38条)、共有部分の持分割合は専有部分の床面積の割合とされていますから(同法14条)、専有部分が広い人は議決権を多めに保有していることになります(但し、規約により異なる定めが設けられている場合もあります)。
 したがって、区分所有法上、マンション建替決議のためには、区分所有者の人数の5分の4と、区分所有者の所有する面積での5分の4の賛成が必要ということになります。逆に言えば、マンションは、区分所有者の一部(5分の1未満)の反対があってもなお建替えられるということになります。
 なお、建替えを決議する集会の前には説明会を開催しなければならず、その手続等についても区分所有法に定められています。

4 マンションの建替えに反対した区分所有者

 上記の通り、マンションは、一部の区分所有者が反対しても建替えることができますが、建替えに反対した区分所有者に対しては、建替決議後、催告しなければならないことになっており、催告を受けた日から2か月以内に反対から賛成へ意見を変更することが出来ます(区分所有法63条1項、2項)。
 催告を受けても建替に反対のままだった区分所有者(催告後回答しなかった者を含む)に対しては、建替賛成の区分所有者または建替賛成の区分所有者全員が指定する買取指定者(例えば建替えに協力するデベロッパーなど)が区分所有権及び敷地利用権の売渡を請求できることになっており、その場合、「時価」での売買契約が自動的に成立することとされています(区分所有法63条4項)。この場合の「時価」とは、建替決議の存在を前提とする時価であり、建替前の状態での時価ではないと考えられており、当事者間で協議が整わないときは裁判所で解決するほかないでしょう。
 なお、建替えに反対し、上記売渡請求を受けた区分所有者は、退去に時間を要する場合もありますので、裁判所に対して明渡しの猶予を求めることができ(区分所有法63条5項)、また、建替決議から2年以内に建物取壊し工事が行われなかった場合には、再売渡請求をして区分所有権及び敷地利用権を買い戻すことが出来ることになっています(区分所有法63条6項)。

5 マンション建替事業

 マンションの建替については、区分所有者間で上記のような手続をとり、建替賛成者だけが建替マンションを所有しているという状態になるわけですが、複数の区分所有者が所有するマンション全体を建替えるわけですから、旧マンションの権利関係を新マンションに移転させることも容易ではありません。
 このような手続については、区分所有法とは別に、マンションの建替え等の円滑化に関する法律が定めており、同法に従ってマンション建替組合を設立し、マンション建替事業を進めることができるようになっています。実際には、区分所有者だけで建替え進めるというより、建替えに協力する管理会社、デベロッパーや建築会社とともにマンションの建替えを進めていくことになるでしょう。

6 最後に

 冒頭述べましたとおり、今後は老朽化マンションが増加する傾向にあるといえ、マンション建替えに関する話題も増えることが予想されることから、マンションの建替えについて、若干の制度を紹介致しました。
 マンションの建替えに際しては、建替えに賛成する各区分所有者が費用を負担して建て替えることになるため、高齢の区分所有者が反対になりやすいという話も耳にします。住居に対する思い入れは人それぞれですが、建替えできないまま朽ち果ててゆくのもまた不幸なことですから、法律を上手く活用して建替えに取り組んでいくことが望ましいのではないかと思います。

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