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弁護士コラム・論文・エッセイ

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弁護士 友成 亮太

2022年03月04日

遺産分割の全体像

(丸の内中央法律事務所報No.40, 2022.1.1)

1 相続と遺産分割

 一定の財産を持つ人が亡くなると、その人(被相続人といいます)の財産(遺産といいます)は法律で定められた範囲の配偶者や子、親や兄弟に引き継がれることとなり、これを相続といいます。例えば相続人が1人しかいないというような場合には、その1名の相続人が単独で遺産を相続するだけですが、遺産が複数の相続人へ相続される場合には、遺産が複数の相続人間で共有状態(財産を複数人で所有している状態)になります。そして、遺産の共有状態を解消し、相続人それぞれが遺産の一部または全部を単独で相続するよう、相続人間で協議し調整することを遺産分割といいますが、遺産分割には様々な問題が絡み合っていることもあり、裁判所の遺産分割手続を利用したからといって全ての問題が解決するわけではないという悩ましい事態も生じ得ることから、本稿では遺産分割の概要についてご紹介したいと思います。

2 遺産分割手続の選択

(1)  裁判所を利用するかどうか
 まず、複数の相続人間で遺産分割を行う場合に、必ずしも裁判所を利用しなければならないわけではありません。裁判所を利用しない遺産分割の総数が分かりませんが、2020年の死亡者総数が約137万人であるのに対し、新規受付件数が1万2760件であることに照らすと、裁判所を利用しない遺産分割の方が多いだろうと思います。裁判所を利用しない相続については、相続人間で任意に協議を行い、相続人間で合意をして遺産を分割するということになります。弁護士が関与することもありますし、関与しない場合も多くあります。裁判所を利用しない方が比較的穏やかな手続という印象がありますが、相続人間で合意できない場合には裁判所を利用せざるを得ません。

(2)  裁判所を利用した遺産分割
 次に、裁判所を利用した遺産分割については、調停手続と審判手続があります。
 調停は、裁判所を利用した話合いであり、調停委員という、最高裁判所が任命した臨時の公務員(弁護士、医師、大学教授など)の力を借りながら話合いによる解決を目指します。東京家庭裁判所では、申し立てられた事件のうち約50%が調停により解決されているようです。
  審判は、相続人それぞれの主張を踏まえて裁判所が遺産分割を定める手続であり、裁判所によって強制的に遺産分割の方法が決まります。東京家庭裁判所では、申し立てられた事件のうち約7%が審判により解決されているようです。
  そして、裁判所での遺産分割について、調停または審判のいずれを選択するべきかという問題がありますが、少なくとも東京家庭裁判所では、全ての事件について最初は調停から手続を進め、調停で合意できない場合には審判に進むという段取りで進んでいます。
 なお、裁判所を利用した場合、解決するまでの期間については、6か月以内の終了が約25%、1年以内の終了が約60%、2年以内の終了が約90%という統計があります。

(3)  裁判所を利用する前に解決すべき問題
 裁判所を利用した場合の手続の流れについては、後記3のとおりですが、裁判所に遺産分割を申し立てる前に解決すべき問題もあります。
 例えば、相続人の範囲について、相続放棄した相続人は相続人ではなくなりますし、子かどうか争いがある場合にも確定させる必要があります。遺言について効力に争いがある場合もあれば、遺産の範囲について争いがある場合もありますから、これらの問題については裁判所に対して遺産分割調停・審判を申し立てる前に訴訟等で解決しておく必要があります。
 そして、これらの問題を解決せずに遺産分割を申し立てた場合には遺産分割調停・審判を一旦取り下げることになります。東京家庭裁判所では、申立て後に取り下げられる事件が全体の約20%あるそうです。

(4)  裁判所による遺産分割では解決しない問題
 また、裁判所の遺産分割では、相続開始時の積極財産(プラスの財産)しか対象とならず、例えば①使途不明金、②葬儀費用、③遺産管理費用、④遺産から生じた収益(賃料等)、⑤債務(借金・負債)、⑥祭祀承継(お墓の問題)などについては、原則として裁判所の遺産分割ではなく、訴訟などの別の手続で解決する必要があります。遺産分割調停・審判を申し立てれば全て解決するわけではないというのが意外と知られていないポイントです。

(5)  税金の問題
 相続人間の遺産分割とは関連する別の問題として相続税の支払いの問題があります。上記の通り、裁判所を利用した遺産分割の場合には解決までに1年以上を要する場合もありますが、相続税の支払期限は被相続人が亡くなってから10か月以内ですから、遺産分割が終わる前に相続税を支払わなければならないということもあります。そのような場合には法定相続割合に従って暫定的に相続税を支払い、後日精算する必要があります。
 また、被相続人が亡くなる直前まで収入を得ていた場合には、亡くなってから4か月以内に準確定申告を行い納税する必要があります。
 このように、遺産分割には税金の問題も関連してきますが、遺産や収入の額によって申告・納税しなくて良い場合もありますから、早い段階で税理士など専門家に相談する必要があります。

3 裁判所による遺産分割の流れ

(1)  遺産分割の段階的進行
 遺産分割は、複数の問題を全て解決していく必要がありますが、同時並行的に複数の問題を解決しようとすると、かえって長期化したり紛糾することから、裁判所では、問題を一つずつ解決していく方法(段階的進行モデル)が採用されています。裁判所を利用しない遺産分割であっても、このような思考過程を踏んで解決していくことが問題の整理に有用であると考えます。

(2)  相続人の範囲
 相続人は、配偶者及び子が第1順位の相続人であり、子がいなければ親(または祖父母)、親や祖父母もいなければ兄弟姉妹が相続人となります。
 そして、例えば認知症になってしまっている等、手続に参加する能力に問題がある相続人がいれば成年後見人等の選任を検討する必要がありますし、不在者がいれば不在者財産管理人の選任を検討する必要があります。
 また、相続人が未成年者である場合には、親権者が参加したり、親権者と未成年者の利益が相反する場合に特別代理人の選任を検討する必要があります。

(3)  遺産の範囲
 裁判所の遺産分割では、不動産、現金、預貯金、借地権及び有価証券については当然に分割協議の対象になりますが、貸金、賃料債権、使途不明金、相続債務及び葬儀費用等については相続人が合意しない限り分割協議の対象になりません。相続人が合意して初めて分割協議の対象となる財産がある場合には、その取り扱い(訴訟等の別の手続を利用するかどうか)を検討する必要があります。

(4)  遺産の評価
 遺産のうち不動産等の価値に変動がある財産が含まれている場合には、その評価をする必要があり、相続人間で評価について合意できない場合には裁判所の鑑定手続を利用することになります。
 また、遺産の分割方法や、特別受益又は寄与分の主張の有無によって、相続開始時の評価及び遺産分割時の評価それぞれを決めなければならない場合もあります。

(5)  各相続人の取得額
 遺産分割は、原則として法定相続割合に従って分割されることになりますが、特別受益又は寄与分の主張がある場合には、法定相続割合が修正されることになります。
 特別受益は、被相続人の生前に遺産の前渡しとなるような贈与を受けた相続人がいる場合、その贈与を相続開始時の遺産に加えて評価し、贈与財産については当該相続人が相続済みであると評価して全体の遺産分割を検討することです。一般的には住宅購入資金、挙式費用などが特別受益に該当します。
 寄与分は、相続人の一部が被相続人のために財産的な貢献をした場合に、当該相続人の相続割合を増やして遺産分割を検討することです。類型として、家事従事型、療養看護型、金銭等出資型、扶養型、財産管理型があるといわれています。

(6)  遺産分割の方法
 相続人の範囲、遺産の範囲、遺産の評価及び各相続人の取得額がそれぞれ解決した後、最後に遺産の分割方法を決めることになります。
 具体的には、①遺産を相続人毎に別々に相続させる「現物分割」、②遺産を現物で相続人に相続させ、それにより生じた不公平については相続人間の金銭の支払で調整する「代償分割」、③遺産を売却した上で金銭で分割する「換価分割」、④遺産を複数の相続人で共有して相続する「共有分割」があります。
 相続人間の協議により解決する場合は①ないし④のいずれの分割方法でも構いませんが、審判で分割する場合には①→②→③→④の順番で検討して分割方法が決まります。

4 遺言がある場合

 以上述べてきた遺産分割手続は、被相続人が遺言を遺していない場合の遺産分割の流れであり、遺言がある場合には遺言に従って遺産を相続していくことになります。但し、遺言があったとしても遺産の全部について記載されていない場合、相続人間で遺言と異なる遺産の分け方を希望する場合等には、遺言だけで遺産分割が解決しませんから、相続人間で遺産分割協議をしなければなりません。
 また、相続人には遺言によっても奪うことのできない相続割合として「遺留分」という権利があり、例えば複数の相続人のうち1人に遺産の全てを相続させる遺言が遺されていたような場合には、他の相続人の遺留分を侵害することになりますから、遺留分を侵害された相続人(遺言によって少ない遺産しか相続できない相続人)は遺産を相続した相続人に対して遺留分侵害額請求権を行使することができます。この権利に関しては民法改正があり、2019年7月1日以降発生した相続については金銭請求のみ可能であり、同日以前の相続については遺産の一部を直接得ることのできる権利(遺留分減殺請求権)とされています。

5 遺産分割の終了後

 遺産分割が終わった場合、特別な事情がない限りは遺産分割をやり直すことはできません。相続関係のご相談に与っていると、「嫌々承諾した遺産分割をやり直したい」「言いくるめられて相続手続が終わっていた」などというお話も伺いますが、気乗りしていなかったとしても遺産分割手続が終わってしまったら、その後に遺産分割をやり直すというのは原則できません。
 したがって、遺産分割については、将来後悔しないためにも十分に検討した上、必要であれば専門家に相談して進めていく必要があるといえます。

6 最後に

 以上の通り、遺産分割に関しては、複数の問題を解決しなければならず、複雑な問題に発展することも多々あります。また、分割協議の過程で相続人間の人間関係が悪化する事態もお見受け致します。そのような事態が生じないためにも、遺産を遺す方は遺言により遺志を明確にすることを検討された方が良いのではないかと考えますし、相続人の立場におかれた方も適宜のタイミングで専門家に相談された方がよろしいだろうと考えます。いわゆる「争族」が少しでも減って欲しいと願う今日この頃です。

以上

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