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~心の在り方と空海の教えから紛争を捉える~
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弁護士 友成 亮太

2026年06月18日

自分が変われば世界は変わる
~心の在り方と空海の教えから紛争を捉える~

(丸の内中央法律事務所報No.48, 2026.1.1)

1 なぜ紛争や対立が起こるのか

 気がつけば弁護士になって15年が経ち、その間、多くのご相談に与り、さまざまな経験をさせていただきました。その中で、頻繁に考えてきたことは、「なぜ紛争や対立が起こるのか」、「なぜ裁判で勝敗が決しても納得できないことがあるのか」という疑問です。最近になってようやく、自分なりの考えがまとまりましたので、一つの見解としてご紹介したいと思います。

 人が複数いれば、ときには意見がぶつかり、「白黒つける」という場面が生じます。裁判は、その典型で、証拠によって事実を認定していく仕組みです。そのため、事実として存在していても、証拠が足りない事実は裁判所に認定されない、ということが起こります。この場合、当事者には確かに存在している事実が裁判所からは見えない、という状態になります。

 言い方を変えれば、一つの出来事について、白く見える人もいれば黒く見える人もいて、白く見える証拠が多ければ裁判所は白だと認定するし、黒く見える証拠が多ければ裁判所は黒だと認定します。だからといって、認定されなかった側の人にとって、自分の見えていた事実が簡単に変わるわけではありません。「裁判所が分かってくれなかった」と感じやすいのは、ある意味当然でもあります。

このような見方を前提にすると、一つの出来事について、白という評価と黒という評価があったとしても、それらはお互いに正しく、両立し得るのではないかといえます。

 ところが、「自分には白く見えているから相手も白く見えるはずだ(黒く見えると言っているのは間違っている)」という考えに至ると、対立が生まれます。実際には、相手にとって黒く見えていたり、全く別の色に見えていたりするかもしれません。世界には色んな見え方があることを受け止めれば、紛争はもっと少なくなるのではないでしょうか。

 最近よく耳にする「多様性」という言葉は、本来「みんな違って良い」ということだと思います。「自分と違うのはおかしい」という方向へ向かってしまうと、その大切な部分が失われてしまいます。

2 なぜ人によって違う世界が見えるのか

 私が紛争や対立の原因として感じているのは、「人によって事実の見え方が違う」ということです。しかし、誰かの認識が正しくて、誰かの認識が間違っているという話ではありません。

 ある出来事そのものには、実は何も色がついていません。それが白に見えるか赤に見えるかは、「見る側のレンズ」によって変わるだけです。白い球でも赤いメガネで見れば赤く見えるのと同じです。

 「自分はそんなメガネをかけていない」などと思われるかもしれません。しかし、人は誰でも、育った環境や経験、習慣を経て、いつの間にか潜在意識や思い込みという名前の色眼鏡を持っています。そして、無意識のうちに「自分の見え方が正しい」と決めつけてしまいがちです。

たとえば、誰かが微笑んだときに、「好印象を持ってくれている」と捉えるか、「馬鹿にして笑っている」と捉えるかは、自分次第です。湧いてくる感情も全く違います。後者を選べば腹が立ち、対立につながりますが、その感情は自分自身の評価から生まれたものであって、相手が作ったものではありません。

 イギリスの心理学者リチャード・ワイズマン博士の実験でも、複数の人に同じ状況を経験させた結果、「運が良い」と思っている人はチャンスに気づきやすく、「運が悪い」と思っている人は気づきにくいという傾向が示されています。この実験結果で重要なのは、「どんな経験をするか」より、「どう認識しているか」で世界の見え方が変わる、という点だと思います。

 したがって、まずは自分の見えている世界が「自分のレンズを通した世界だ」と気づくだけでも、人との関係や日常の感じ方が変わってくるのではないかと思います。

3 弘法大師空海の即身成仏思想

 真言宗の宗祖である弘法大師空海は、「即身そくしん成仏じょうぶつ」という書物の中で、生きたまま仏の境地に達する思想(即身成仏)を説いています。空海の作った(詩)は、次のように述べています。

 

(ろく)(だい)無碍(むげ)にして (つね)瑜伽(ゆが)なり

四種(ししゅ)(まん)() 各々(おのおの)(はな)れず

(さん)(みつ)加持(かじ)すれば速疾(そくしつ)(あらわ)

重重(じゅうじゅう)帝網(たいもう)なるを(そく)(しん)と名づく

 「六大」とは、物質世界を構成する「地・水・火・風・空」の五つに精神的原理としての「識(心)」を加えた六つの要素のことであり、それらの要素が障害なく常に溶け合っている(無碍・瑜伽)状態が世界の本質である、と説きます。

 「四種曼荼」は、大日如来を中心とする宇宙の構造を4つの角度から表現した4種類の曼荼羅(まんだら)図(大曼荼羅、三昧耶(さんまや)曼荼羅、(ほう)曼荼羅及び羯磨(かっま)曼荼羅)を指しており、それらも互いに分離できません。

 「三密」とは、身体((しん)(みつ)、言葉(()(みつ)、心(()(みつ)の働きを指し、身体で印(仏を示す指の形)を結び、口で真言を唱え、心で念じれば、仏と衆生が即座に感応し、生きたまま仏になれる、と説かれています。

 さらに空海は「重重帝網」という状態を即身成仏であると説明しますが、「帝網」とは帝釈天が住む宮殿を飾る網のことであり、結び目の一つ一つが宝珠になっています。つまり、自分の中に仏(世界)があり、仏(世界)の中に自分がいて、互いに網のように重なり合って連関しているという世界観こそが即身成仏であると説明します。

 このような考えは、人体の血管や神経が網のように張り巡らされていることや、社会における人間関係が網のように繋がっていることに照らすと、理解しやすいのではないかと思います。そして、網は一点が動けば全体が揺れるように、世界は連動しています。物質世界と精神世界が融合し、互いに影響し合うという空海の世界観も身近に感じていただけるのではないかと思います。

4 自分が変われば世界は変わる

 以上を踏まえると、自分の世界の見え方は、自分自身の変化によって変えることができるし、そもそも自分が変われば世界そのものが変わるとも考えることが出来ます。

 鉄鋼王アンドリュー・カーネギーの依頼で成功者の共通点を調査したナポレオン・ヒルは、「思考は現実化する」というベストセラーを執筆しました。

 また、次のような有名な言葉もあります。

  心が変われば態度が変わる。

  態度が変われば行動が変わる。

  行動が変われば習慣が変わる。

  習慣が変われば人格が変わる。

  人格が変われば運命が変わる。

  運命が変われば人生が変わる。

 私自身、数年かけて、自分の思考を見直す実践を続けてきました。その中で気づいたコツは、「~すべき」という固定的な考えから一歩離れ、「~したい」とか「~ありたい」という方向に意識を変えることでした。すると、公私ともに多くの変化が生まれたと感じています。世界が網のように繋がっているのなら、自分が変われば世界も変わるはずです。

5 最後に

 日常をよく観察すると、世の中には、「~すべき」という「べき論」で溢れています。その「べき」に従えない自分に苛立ったり、「べき」に従わない相手に腹を立てたりすることもあります。しかし、その感情の揺らぎこそ、「べき」を見つけ、本当に必要なのかを見直す良い機会かもしれません。

 その「べき」は、自分が今後も抱えていたい価値観でしょうか。一度、別の見方を受け入れてみるだけで、世界が大きく違って見えることがあります。肩の力が抜けることも増えるはずです。

慣れ親しんだ考えを変えることは容易ではありませんが、迷ったときこそ「自分がどうしたいのか」と心に問いかけるだけで、なりたい自分が見えてくると思います。少しでも皆さまの心が軽くなり、悩みの解決に向けて一歩踏み出すきっかけになれば嬉しく思います。

<参考文献>

・梅原猛著『空海の思想について』講談社学術文庫

・さとうみつろう著『神さまとのおしゃべり』サンマーク文庫

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