• 事務所概要
  • 企業の皆様へ
  • 個人の皆様
  • 弁護士費用
  • ご利用方法
  • 所属弁護士

弁護士コラム・論文・エッセイ

弁護士コラム・論文・エッセイ

ホーム弁護士コラム・論文・エッセイ山本弁護士著作 一覧 > 「適性試験を御存知ですか?」
イメージ
弁護士 山本 昌平

2012年08月01日

「適性試験を御存知ですか?」

(丸の内中央法律事務所報No.21, 2012.8.1)

□ 暑中お見舞い申し上げます。

 夏本番、皆様、如何お過ごしでいらっしゃいますでしょうか。

「適性試験」といいますと、入社試験や職業選択の参考とするための適性を測る試験をイメージされる方も多いと思います。

しかし、ここで取り上げる適性試験は、法科大学院の入学試験としての試験です。

今回は、私自身運営に関与している、法科大学院入学試験としての適性試験をテーマに取り上げてみたいと思います。

□ 平成16年(2004年)4月にスタートした法科大学院は、志願者数が毎年減少傾向にあり、新規募集を停止する法科大学院も数校現れるなど、法科大学院制度は試練の時期を迎えております。

 この法科大学院は、もともと「21世紀の司法を担うにふさわしい質の法曹を確保するため、司法試験という『点』による選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた『プロセス』としての法曹養成制度を整備することとし、その中核として、法曹養成に特化した大学院」(平成13612日付司法制度改革審議会意見書(以下「司改審意見書」といいます)より引用)を設けるという考えの下、開設されました。

 そして、司改審意見書によりますと、法科大学院の目的は、「司法が21世紀の我が国社会において期待される役割を十全に果たすための人的基盤を確立することを目的とし、司法試験、司法修習と連携した基幹的な高度専門教育機関とする。」ことであり、教育理念としては、「法科大学院における法曹養成教育の在り方は、理論的教育と実務的教育を架橋するものとして、公平性、開放性、多様性を旨としつつ」、豊かな人間性の涵養・向上、専門的法知識、法的分析能力、法曹としての責任感や倫理観の涵養等の基本理念を統合的に実現するものでなければならないとされておりました。

□ また、入学者選抜においては、司改審意見書では「公平性、開放性、多様性の確保を旨とし、入学試験のほか、学部成績や活動実績等を総合的に考慮して合否を判定すべきである。」「多様性の拡大を図るため、法学部以外の学部の出身者や社会人等を一定割合以上入学させるべきである」という理念が掲げられ、入学試験においては「法学既修者であると否とを問わず、全ての出願者について適性試験(法律学についての知識ではなく、法科大学院における履修の前提として要求される判断力、思考力、分析力、表現力等の資質を試すもの)を行い、・・・その際、適性試験は統一的なものとすることが適切である」と指摘しておりました。この考えを踏まえ、「法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律」(平成14年法律第139号)は、第2条1号において「法科大学院において、法曹の養成のための中核的な教育機関として、・・・入学者の適性の適確な評価及び多様性の確保に配慮した公平な入学者選抜を行」う、と規定しました。

□ これらを踏まえ、実施されているのが、「法科大学院全国統一適性試験」なのです。この適性試験は、平成23年度より法科大学院協会、公益財団法人日弁連法務研究財団、公益社団法人商事法務研究会の3者で組織する適性試験管理委員会によって、年2回実施されております。平成15年度~平成22年度までは、大学入試センターが実施する適性試験と、適性試験委員会が実施する適性試験の2つが併存しておりましたが、平成23年度からは、実施団体が適性試験管理委員会に一本化されました。□ では、この適性試験とはどのような試験なのでしょうか。

 適性試験は、「法科大学院におけるリーガルトレーニングに耐えうるだけの資質・能力を備えているか、履修の前提として要求される判断力・思考力・分析力・表現力等の能力を備えているか」(適性試験管理委員会「2011年法科大学院全国統一適性試験実施報告書」より引用)を測るものですから、それらを的確に試せる内容の試験でなければなりません。

 現在の適性試験は4つのパートから構成されております。第1部が「論理的判断力を測る問題」、第2部が「分析的判断力を測る問題」、第3部が「長文読解力を測る問題」、第4部が「表現力を測る問題」の4部で、試験時間はいずれも各40分、試験方式は第1部から第3部がマークシート方式、第4部が筆記試験(ライティング)となっております。また、問題数は、これまでのところ、概ね第1部が24問程度、第2部、第3部は大問が4つで、問題数の合計が各24問程度、第4部は1問となっております。

□ では、実際に出題された問題をみてみましょう(適性試験委員会実施 平成19年(2007年)法科大学院統一適性試験 第1部第15問を引用)

「1~5のうち、つぎの見解と整合しないものを1つ選びなさい。

教養とは、ドイツ語のBildungの訳語で、古今東西の古典として評価の高い思想書や文学書を読むという方法を通じて行われる自分自身で人格形成をはかる行為である。教養主義の全盛期は、戦前の旧制高校においてであり、戦後、旧制高校が廃止された後も続いたが、1970年頃の大学紛争以後急速に没落した。

1. 学歴があることと教養があることは、必ずしも一致しない。教養は単に受験秀才であることを超えるものとして求められた面がある。

2. 高度経済成長期を経て、大学生が急速に増加するとともに、大学生は知的特権者としての地位を失い、教養主義は薄れていった。

3. 教養とは、読書を通じて人生いかに生きるべきかということを考える行為だが、吉川英治の「宮本武蔵」のような通俗的な小説は、教養書とはみなされなかった。

4. 近年の若者は、文学書や思想書を読まなくなったが、それに代わるものとして、ボランティア活動に参加して自分探しをしており、それもまた教養といえる。

5. 旧来型の教養主義を復活させるのは困難であるが、専門ごとに細分化された実用的知識を超えた教養を身につける必要性は存在している。」

□ 皆様、如何だったでしょうか。易しいとの印象をお持ちになりましたか、それとも難しいとの印象をお持ちになりましたか(解答は本稿の末尾に記載してあります)。本番の試験では、第1部ですと、1問あたり1分~2分程度で解答する必要があります。興味をお持ちになった方は、是非、公益財団法人日弁連法務研究財団のホームページから検索してみて下さい。

□ 他方で、この問題で本当に適性を測れるのかとお思いの方がいらっしゃるかもしれません。

 実施団体である適性試験管理委員会は、これまでの適性試験の結果の分析に加え、米国で50年以上の歴史があるロースクール入学のための適性試験(Law School Admission Test)を実施している団体(Law School Admission Council Inc.)とも提携し、日々、精度を高める努力をしておりますが、今後一層精度を高める努力が求められております。

 現在の法科大学院の入学試験は、適性試験に加え、小論文、面接、学部の成績、これまでのキャリアなど様々な要素を用いて総合的に判断している上、適性試験の比重も各法科大学院で全く異なるので、適性試験の成績が、そのまま入学後の成績に直結しているとは速断できないえでしょうが、法的知識を前提とする司法試験とは異なり、①法的知識を問わないで、かつ、②法科大学院でのリーガルトレーニングに耐えうるだけの判断力・思考力・分析力・表現力等を、③全国統一の尺度・スケールで的確に測定するという命題をいかに実現させるか、実施団体に課されている課題です。

 そのためには、適性試験のスコアと法科大学院入学後の成績や新司法試験との結果との相関性について、関係機関と連携の上、調査・公表するなど、今後一層信頼される試験制度にすべく、その責務を果たすべきと思料しております。

 最後までお読み頂きありがとうございました。(正解は4 難易度中程度)

以 上

ページトップ