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弁護士 山本 昌平

2013年01月01日

法科大学院を巡る議論についての雑感

(丸の内中央法律事務所報No.22, 2013.1.1)

□ 皆様、新年あけましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になりました。本年もどうぞよろしくお願い致します。

  法曹養成制度の中核として平成16年(2004年)に導入された法科大学院の制度ですが、今年で9年目を迎えます。新しい制度として定着してきた反面、様々な問題点や課題も明らかになってきており、現在、政府の法曹養成制度検討会議等において法科大学院の制度改革に関して議論されております。

そこで、今回は、関係機関において検討されている内容を元に法科大学院改革を巡る議論について、若干感想を述べたいと思います。

□ 平成24年7月19日付で中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会が公表した「法科大学院教育の更なる充実に向けた改善方策について(提言)」(この提言は法曹養成制度検討会議の場にも提出されております)では、主な課題として2つ取り上げております。①一つ目は、法科大学院間における差の拡大、②二つ目は、法学未修者と法学既習者間における差の拡大です。

 ①の具体的内容については、法科大学院間で司法試験合格状況に大きな差が生じていることと(司法試験の平均合格率の半分を仮指標に設定した上で、指標を超える大学の平均は約50%、指標を下回る大学の平均は約15%)、入学者選抜の競争率倍率が2倍に満たない法科大学院が未だ存在していること(平成24年度入学者選抜の実績で13校)、②の具体的内容については、標準修業年限での修了率において、両者の間で差があり、かつ、その差が拡大してきていること(既習者9割、未修者6割)、司法試験の合格率において、両者の間で相当な差が生じている(司法試験の累積合格率は既習者6割~7割程度、未修者は3~4割程度。もっとも未修者の司法試験合格者数は増加している)が指摘されております。

□ この2つの課題に対し、今後の改善策としては、以下のとおり、おおきく4点提言されております。

 ①法科大学院教育の成果の積極的な発信として、(ⅰ)法科大学院の教育の成果を広く社会に発信する取組を促進すること、(ⅱ)法科大学院修了者が広く社会で活躍できるよう支援するため、進路状況の正確な把握、就職支援の充実方策を推進すること、②課題を抱える法科大学院を中心とした入学定員の適正化、教育体制の見直し等の取組の加速として、(ⅰ)課題を抱える法科大学院へのフォローアップ等の対応を強化、(ⅱ)法科大学院への公的支援について、入学定員の充足状況を新たな指標とするなど更なる見直しの実施、(ⅲ)組織改革の加速が促進されるよう、組織見直しのモデル及びその推進方策を提示、③法学未習者教育の充実として、(ⅰ)法学未修者教育に関する優れた取組の共有化の促進、(ⅱ)効果的な従業等の教育手法の確立や入学前の教材開発など、法学未修者教育の充実実施を検討するための新たなWG(ワーキンググループ)の設置、④法科大学院教育の質の改善等の促進として、(ⅰ)適性試験の内容の検証など入学者選抜の改善を推進、(ⅱ)教員の資質能力向上の取組の充実、実務家教員の配置割合や適正なクラス規模の検討など質の高い教育環境を確保、(ⅲ)認証評価結果の積極的な活用を通じた法科大学院教育の改善を推進、(ⅳ)司法修習終了直後の法曹有資格者に対する支援など法科大学院による継続教育への積極的な取組の促進があげられております。

□ これらの取組については、法科大学院への入学者が減少する中で、喫緊の課題として早急に対応すべきであることは言うまでもありません。特に法学未修者に対するフォローアップは十分に行われるべきです。1年間で法学の基礎を学び、2年次以降は法学既習者と肩を並べ学ぶことは、一部の優秀な学生を除き、実際はかなり難しいといえます。また、学生に対する財政的支援の一層の充実も求められます。さらには、法曹資格を得ていない修了者の就職支援も重要な課題です。

□ しかし、この問題は単に法科大学院という専門職大学院の教育改善の問題に止まりません。法科大学院は将来法曹資格を得ようと志して入学するものですから、入学して法曹資格を得ようする希望者が、一定のリスクテイクをしても、チャレンジできるだけの環境が必要となります。

 ところが、法曹資格を得た後の環境は、現在の経済環境と相まって残念ながら非常に厳しいと言わざるを得ません。裁判官、検察官、弁護士の法曹三者は、過去10年間で1万4154人増加し、うち1万3237人が弁護士ですが、その増加分に見合った法的需要が顕在化していないとの指摘があります(日本弁護士連合会が法曹養成制度検討会議に提出した資料より引用)。法的需要の開拓については、弁護士自身による自助努力にて行うことが基本とされていますが、他方でこれまでに経験したことのない弁護士の急激な増加を踏まえると、今後も弁護士個々人の問題としてよいかは疑問があります。弁護士の裁判外への活動のフィールドとして企業、官庁、地方公共団体や海外分野への進出などこれまでにない新たな動きがありますが、急激な増加とマッチしているとはいえない状況です。また、新人弁護士の就職難も報道されるなど、法曹資格取得後に広がる世界の視界が決して良好とはいえないでしょう。司法試験の合格率の低迷の問題もありますが、法曹資格取得後の問題がより影響が大と思われます。

 このような状況下では、法科大学院に入学して、リスクテイクをしてでも法曹資格を得ようする動きが敬遠されること(入学志願者の減少)に対し簡単に非難はできないでしょう。

□ こうしてみてきますと、法科大学院改善の問題は、たんに教育機関の改善の問題にとどまらず、法曹界の全体の問題でもあるのです。

 そうしますと、法科大学院教育の改革を教育関係者だけですすめるだけではなく、その修了後の諸課題も視野に入れて関係機関が密接に連携の上、取り組むべき課題であるといえます。この課題に対する対策については、これまで多方面で議論がなされてきておりますが、私は、この問題に対しては、法曹特に弁護士の社会的役割や職務について、もっと広く社会に理解してもらうことが重要視されてもよいのではないかと思っております。今までの弁護士は、社会に対しアピールするという点では、ともすれば受け身になりがちでしたが、若手弁護士の中には今までの弁護士が取り組んでいなかった領域に果敢にチャレンジして成果をあげている例もあります。これまでの弁護士の役割に加え、新たな役割・貢献についてもきちんと社会に認識してもらう努力が必要です。また、法曹志願者を増加させるためにも、法律専門家・プロフェッションとしての弁護士のやりがいなど、"弁護士魂"ともいえる熱いハートの部分も積極的に伝えていくべきだと思います。プロフェッションの最後の拠り所は、このハートの部分だからです。さきほど厳しい環境であることを述べましたが、今までの法廷を中心とした活動領域に加え、法律専門家たる弁護士が社会の役に立てる場面はまだまだたくさんあります。この厳しい環境は逆に21世紀型の新たな弁護士像が生まれる機会でもあります。私自身、この機会を前向き・積極的にとらえ、一歩一歩着実歩んで行きたいと思います。

本年もどうぞよろしくお願い致します。

 最後までお読み頂きましてありがとうございました。

以 上

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