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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例株主総会及び招集手続における手続的な問題が争われた事例(24件)一覧 > 株主権を侵害する議事進行ないし取締役による虚偽説明が行われたことを理由として株主総会決議の取消請求を認容した上、上記行為が株主に対する不法行為に当たるとして、株主の会社に対する損害賠償請求を認容した第1審判決が、控訴審において是認された事例(東京高判平29・7・12 金融・商事判例№1524・8)(株式会社フジ・メディアホールディングス)
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株主権を侵害する議事進行ないし取締役による虚偽説明が行われたことを理由として株主総会決議の取消請求を認容した上、上記行為が株主に対する不法行為に当たるとして、株主の会社に対する損害賠償請求を認容した第1審判決が、控訴審において是認された事例(東京高判平29・7・12 金融・商事判例№1524・8)(株式会社フジ・メディアホールディングス)

2023.10.20

(H30-⑴)

① 事案の概要

 株式会社フジ・メディアホールディングスが、取締役の選任及び退任取締役らに対して役員賞与を支給する等の株主総会決議を行ったところ、株主であるXらが、以下のような理由から、上記決議の取消しと不法行為に基づく損害賠償を求める訴訟を提起した。

  

 ・子会社の従業員である株主らに質問をさせ、一般株主の質問時間を剥奪した上、一方的に質疑を打ち切ることによって一般株主の株主権を侵害した。

 ・取締役が株主総会の開催日や役員賞与について虚偽の説明を行い、これによって取締役の説明義務に違反した。

 第1審判決はこれらの請求をいずれも棄却したため、Xらがこれを不服として控訴した。

② 決定要旨

  当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。(中略)

 2 当審における控訴人らの補充主張に対する判断

  ⑴ 補充主張⑴について

  

 ア 控訴人らは、原判決が、本件株主総会における従業員株主によるヤラセ質問を認定しながら、これを理由に本件各決議の方法が著しく不公正であると断ずることはできないと判示した点につき、①A議長が、意図的かつ偏頗的に従業員株主を選択して指名した事実を考慮していない、②一般株主の質疑応答に約53分が充てられた点について、議案数や質問希望者数等に照らせば、十分な時間が充てられたとはいえない、③従業員株主によるヤラセ質問が一般株主による質問を誘引する側面も否定できないとしたのは真実に反するなどと主張して、被控訴人が、従業員株主にヤラセ質問を依頼し、一般株主に十分な質問をさせずに質疑を打ち切ったことは、決議の方法が著しく不公正なときに当たるから、本件各決議には取消事由があると主張している。

 イ しかし、A議長が、本件株主総会において、意図的かつ偏頗的に従業員株主を選択して指名したとの点については、原判決が適切に指摘するとおり、かかる事実を認めるに足りる的確な証拠はない上、(中略)、本件株主総会において実質的に質疑応答に充てられた時間は約1時間24分であり、これから動議及びその処理のための時間を控除すると約1時間16分であったところ、そのうち一般株主の質疑応答に約53分が充てられていることからすれば、A議長が殊更従業員株主の質問のために質疑応答時間を費やしたとはいえず、控訴人らの主張は採用できない。

 ウ また、議案数や質問希望者数等に照らせば、一般株主の質疑応答に十分な時間が充てられたとはいえないとの点については、(中略)約53分との一般株主の質疑応答の時間が短時間に過ぎるということはできない上、質疑応答の後半部分において一般株主がした質問内容は、本件株主総会の報告事項又は決議事項と関連性を有するとはいえない事項に関するものが続くようになっていたことなどに照らせば、一般株主の質疑応答に充てられた時間が不十分であったとまでは認められないから、控訴人らの主張は採用できない。

 エ さらに、従業員株主によるヤラセ質問が一般株主による質問を誘引する側面も否定できないとしたのは真実に反するとの点については、(中略)、従業員株主は決議事項又は報告事項と一定程度関係のある質問をしていたことが認められることからすれば、事前質問が多数寄せられていた等の控訴人ら指摘の点を踏まえたとしても、従業員株主による質問が、一般株主が決議事項又は報告事項に関する質問をする誘引となっている側面も否定することはできないとの原判決の判断は相当であり、控訴人らの主張は採用できない。(中略)

  ⑵ 補充主張⑵について  

 ア 控訴人らは、原判決が、議案の裁決に移る直前の時点(中略)の「修正動議」との発言に関し、A議長が明確に認識できるような状況の下で修正動議の提出があったということはできないのみならず、A議長が修正動議の提出を無視して黙殺したということはできないと判示した点につき、本件株主総会の録音内容(中略)や映像(中略)によれば、A議長や会場の挙手状況を把握していた者が修正動議を明確に認識できなかったとは認められないなどと主張する。

 イ しかし、控訴人らが指摘する各証拠(中略)によれば、(中略)、控訴人ら指摘の時点で「修正動議」との発言があったことがうかがわれるものの、その頃、株主席で白い服を着た男性が挙手していたが、数秒程度で手を下ろし、その後、同人は修正動議を提出する意思を示す言動をしていなかったものであり、その他に修正動議を提出する意思を明確に示す発言をしたり、挙手等の動作をしたりした者がいたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、A議長が明確に認識できるような状況の下で修正動議の提出があったということはできないのみならず、A議長が修正動議の提出を無視して黙殺したということはできないとした原判決の判断は相当である。(中略)

  ⑶ 補充主張⑶について  

 ア 控訴人らは、原判決が、会社法314条の取締役等の説明義務は、株主総会において株主から説明を求められたときに生じるものであり、事前質問については説明義務を負わないと判示した点につき、会社法314条の趣旨は事前質問についても通用するものであり、しかも、本件のように、控訴人らを含む一般株主が、従業員株主のヤラセ質問や、A議長による質疑の一方的打ち切りなどによって、質問の機会を奪われている場合には、事前質問が株主総会における質問に代わるものといえるから、本件でも、会社法314条の趣旨を類推して、取締役等の説明義務が認められるべきであると主張する。

 イ しかし、(中略)、会社法314条の取締役等の説明義務は、株主総会において株主から説明を求められたときに生じるものであり、事前に株主から一定の事項について書面等により質問を受けていたとしても、当該事項について説明する義務を負うものではないと解するのが相当であるから、上記アの控訴人らの主張は採用できず、したがって、同主張を前提とするその余の主張も採用できない。(中略)

  ⑷ 補充主張⑷について  

 ア 控訴人らは、原判決が、株主のした事前質問について会社がした回答の内容が虚偽のものであり、その結果、決議の内容が影響を受けたような場合には、株主総会の議事運営が著しく不公正であることによって決議の方法が著しく不公正なときに当たる場合があり得ると判示した点につき、株主が誤った認識をしたまま議決権を行使した可能性が認められる場合には決議の方法が著しく不公正なときに当たるというべきであり、決議の内容が影響を受けた場合に限定すべきではないと主張する。

   そこで、以下順次検討する。

 イ 本件回答①について

   控訴人らは、本件事前質問①(本件株主総会は平成26年6月17日には開催可能なのではないかとの質問)に対し、被控訴人が、本件株主総会において、「法定の監査日程などの関係により開催日は6月末となります」と回答したところ(本件回答①)、同回答は6月末以外の開催は不可能であるとの説明をしたに等しいが、本件株主総会は平成26年6月17日以降であれば開催することが可能であったから、本件回答①の内容は虚偽であると主張する。

   しかし、(中略)、本件回答①は、法定の監査日程の確保の関係だけではなく、その他の準備作業等の事情をも考慮して、株主総会開催日を6月末にしたとの趣旨を述べるものと理解すべきであり、控訴人らが主張するように平成26年6月16日から同月26日までの間に本件株主総会を開催することが不可能である旨を説明したものとは必ずしも認められず、その内容が虚偽であるとはいえないから、控訴人らの主張は採用できない。

 ウ 本件回答②について

 

 ア 控訴人らは、本件事前質問②(役員賞与の個人別支給額を明らかにするよう求めた質問)に対し、被控訴人が、本件株主総会において、「個々の支給額は昨年と比較しまして約15パーセント減額しております」などと回答したことにつき(本件回答②)、本件回答②の内容は虚偽であり、同回答の内容が、本件株主総会における第4号議案ひいては第2号議案に対する株主らの議決権行使に大きな影響を与えたと主張する。

 イ しかし、(中略)、本件回答②は株主に対する説明としては甚だ分かりにくいものであり、これを聞いた株主は、第4号議案に係る役員賞与の支給対象である役員全員について個々の支給額が前年度比で15パーセント減額されるものと誤解する可能性があり、株主に対する説明として適切であったとは言い難いものの、第4号議案については、あらかじめ被控訴人の役員賞与支給額の総額及び支給の対象となる取締役及び監査役の数が明らかにされており、そのことが招集通知において明らかにされていた上、A議長による同議案の上程の際にもこの点が明らかにされていたのであって、株主において第4号議案の内容自体について誤解する可能性はなく、そうした中で、Q総務部長において殊更虚偽の説明をしたとまでは認められない

   また、控訴人らは、原判決が、本件回答②が、A議長とB副会長の2名の連結役員賞与支給額につき、連結べースで支給される同役員らの賞与の合計額について前年度比の水準を説明したものであると認定した点につき、(中略)、A議長とB副会長の2名合計の連結べースでの賞与支給額は前年度比で25パーセント減であったものと認められ、本件回答②は全く根拠のない虚偽説明であることが明らかであると主張するが、(中略)各有価証券報告書の役員報酬等の記載はいずれも百万円未満を切り捨てて記載されていることが認められるから、同記載の金額を単純に比較しただけでは控訴人らの主張を裏付けるには足りず、控訴人らの主張は採用できない。

   さらに、控訴人らは、本件回答②の内容が、本件株主総会における第4号議案及び第2号議案に対する株主らの議決権行使に大きな影響を与えたと主張するが、(中略)、本件株主総会における議決権行使の個数は171万9035個であったところ、議決権の事前行使によって第4号議案に投じられた賛成票の数は126万0864個であり、第2号議案に投じられた賛成票の数は92万9187個ないし124万6156個であって、議決権の事前行使により既に過半数の賛成票を得ており、これらの賛成票は本件回答②を聞いて投票内容を決めたものではないから、本件回答②の影響を受けていないことは明らかである。したがって、本件回答②は、第4号議案及び第2号議案の成否自体に影響を与えたものとは認められない。(中略)

  (5) 補充主張(5)について 

 ア 控訴人らは、原判決が、本件各決議の方法に著しい不公正及び法令違反があるとはいえないとして、被控訴人の代表取締役又はその他の取締役若しくは従業員の行為が控訴人らに対する不法行為に当たるということはできないと判示した点を非難した上で、株式会社は、株主総会における株主の質問権を不当に侵害しないように注意すべき義務を負っているが、審議打ち切りの時点で、控訴人X1は質問をするために挙手しており、控訴人X2は知人が指名され質問した後に質問しようとしていたところ、被控訴人によるヤラセ質問と予告なしの一方的な質疑打ち切りにより、株主の質問権又は株主権を不当に侵害されたとして、不法行為が成立すると主張する。

   しかし、これまでに判示したところから明らかなとおり、本件株主総会において、被控訴人が、ヤラセ質問又は修正動議を無視した審議打ち切りによって、控訴人らの株主の質問権又は株主権を不当に侵害したものとは認められないから、不法行為が成立しないとした原判決の判断は相当である。

 イ また、控訴人らは、本件事前質問①に対する被控訴人の本件回答①及び本件事前質問②に対する本件回答②は、いずれも、その内容が虚偽であり、少なくとも説明としての適切さを欠くものであり、また、取締役等の説明義務に違反するものであるから、これらにより、株主の質問権又は株主権を不当に侵害されたとして、不法行為が成立すると主張する。

   しかし、本件回答①は、その内容自体、何ら虚偽ではなく、説明としての適切さを欠くものでも、説明義務に違反するものでもない。他方、本件回答②は、前記のとおり、説明内容として虚偽であるとか、説明義務に違反したものであるとはいえないが、適切さを欠くものであったことは否定できない。しかし、控訴人らにおいて、本件回答②により、株主として質問権等を含めいかなる権利侵害を受けたかについて具体的に明らかにしておらず、不法行為が成立しないとした原判決の判断は相当である。

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