• 事務所概要
  • 企業の皆様へ
  • 個人の皆様
  • 弁護士費用
  • ご利用方法
  • 所属弁護士

企業の皆様へ

企業の皆様へ

ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例株主総会及び招集手続における手続的な問題が争われた事例(24件)一覧 > 株主総会への代理人弁護士の代理出席の可否、委任状の一部無効扱い及び議長不信任決議を取り上げなかったことを理由とする決議の取消請求が棄却された事例(東京高判平22・11・24 資料版商事法務№322・180)
イメージ

株主総会への代理人弁護士の代理出席の可否、委任状の一部無効扱い及び議長不信任決議を取り上げなかったことを理由とする決議の取消請求が棄却された事例(東京高判平22・11・24 資料版商事法務№322・180)

2023.11.08

(H23-⑶)


①事案の概要

 本件は、大盛工業と業務提携関係にあった株主との間の紛争であり、①大盛工業が株主の求めた弁護士の代理出席を認めなかったこと、②株主が持参した委任状の一部に添付資料(議決権行使用紙等)がないことを理由に無効として取り扱ったこと、③委任状に本人の押印がないことを理由に無効として取り扱ったこと、④大盛工業において費用を負担してまで、会社側提案に賛成した一部の株主の相続関係を積極的に調査し、議決権行使書用紙と委任状の委任欄の名義が異なる株主に議決権を行使させたこと、⑤議長不信任の動議を採り上げなかったこと、が争点である。

②判決要旨 

 2 争点①(弁護士の代理出席の拒絶による本株主総会決議の違法性の有無)について

   この点に関して東京高裁は以下のとおり判示した。
 「弁護士等のように、そのような高い信頼の下にある職種の者であって、具体的に株主総会をかく乱するおそれのない者については、株主でない者であっても代理人となることを許さなければならないとすれば、株式会社は、株主総会に株主ではない代理人が来場した際には、その都度その者の職種を確認し、株主総会をかく乱するおそれの有無について個別具体的に検討しなければならないことになるが、どのような職種の者であれば株主総会をかく乱するおそれがないと信頼することができるのか、また、そのような信頼すべきと考えられる職種に属していながらも、当該来場者に株主総会をかく乱するおそれがあると思料される場合に、どのような要件の下に出席を拒むことができるのかなど、明確な基準がないままに実質的な判断を迫られ、その結果、受付事務を混乱させ、円滑な株主総会の運営を阻害するおそれがある。しかも、正当な権利行使とかく乱の行為とが具体的事案において戟然と区別することが難しいこともあるところ、実質的な判断基準を持ち込むことにより、経営陣に与する者の出席を許し、与しない者の出席を許さないなど恋意的運用の余地を与え、株主総会の混乱を増幅する可能性もある」
  東京高裁は以上のとおり判示し、大盛工業が弁護士らの出席を拒絶したことを以て、本件株主総会決議に法令違反があるとは言えないとした。
 

 3 争点②(本件委任状のうち添付資料のないものを無効として取り扱ったことによる本件株主総会決議の違法性の有無)について

   大盛工業の株式取扱規程では、株主が請求その他の株主権行使をする場合、当該請求等を本人が行ったことを証する証明資料等を添付し、又は提供するものとされており、大盛工業では、この株式取扱規程に基づき、議決権行使書用紙が添付されている委任状については、代理権を証明する資料が添付されているものとして有効と取り扱い、議決権行使書用紙が添付されていない委任状であっても、これに匹敵する代理権を推認させる資料がある場合には、有効なものとして取り扱っていた。本件では、大盛工業が、委任状のうち議決権行使書用紙又はこれに匹敵する代理権授与の証明資料を欠いたものを無効として取り扱ったことが争点になった。この点について東京高裁は以下のとおり判示した。
 「被控訴人(注:大盛工業)においては全国株懇連合会が策定したモデル定款等に依拠して株主総会における株主の議決権行使を規律するという実務が既に存在し、その取扱いに不合理な点も見出せない」と判示し、委任状のうち議決権行使書用紙又はこれに匹敵する代理権授与の証明資料を書くものとして無効と取り扱った本件株主総会決議に法令違反はないと判断した。
 

 4 争点3(本件委任状のうち押印のないものを無効として取り扱ったことによる株主総会決議の違法性の有無)について

  本件では、大盛工業が委任状のうち2名分(議決権数230個)に署名はあるものの、押印を欠くことを理由に無効とした、本件株主総会決議に法令違反があるか否かが争われたところ、東京高裁は以下のとおり判示した。
 「本件株式取扱規程は、株主が代理人によって議決権の行使をする場合には、署名又は記名押印した委任状を添付する旨を定めるにとどまり、とどまるところ、「署名」の概念は、氏名を手書きすることを意味し、これに押印を添えるべきことまでを内容とするものではないから、署名に加えて押印まで必要である旨の定めはなかったといわざるを得ない」
 東京高裁は上記のとおり判示し、本件委任状のうち上記2名分(議決権数230個)については、有効なものとして取り扱い、当該委任状に係る議決権数を得票数に参入すべきであったとして、本件株主総会決議には取消原因となる法令違反があるとした。

 5 争点4(会社側提案の賛成の一部株主についてのみ、会社において費用を負担してまで積極的に調査し、議決権行使書用紙と委任状の委任欄の名義が異なる株主に議決権を行使させたことによる本件株主総会決議の違法性の有無)について

   本件では、大盛工業の創業者であったMは、同社の株主であるとともに、同社の株主である有限会社広栄企画(以下「広栄企画」という)の取締役であったが、平成21年3月に死去したところ、本件株主総会決議において、M名義の株式については、議決権行使書用紙には株主としてMの名が記載され、Mの相続人から提出された委任状には議決権行使書としてNの名が記載されており、また広栄企画名義の株式については、議決権行使書用紙にはMの名が記載されていたが、広栄企画の提出した委任状には取締役としてNの名が記載されていた。
 そこで、議決権行使書用紙と委任状の委任欄の名義が異なる株主に議決権を行使させ本件株主総会決議をしたことが違法ではないかが問題となった。また、大盛工業は、一部の株主であるMの相続人を顧問弁護士に調査させており、その費用負担をしたことが株主平等の原則に反しないかも争われた。この点に関して東京高裁はM名義の株式に関して以下のとおり判示した。
 「M名義の株式について見ると、株主名簿等の名義書換えをしていない株主に対し、会社が権利行使を認めることは差し支えない(最高裁判所昭和30年10月20日第1小法廷判決・民集9巻11号1657頁参照)から、Mの相続人を株主として認めることに問題はなく、その上で、上記相続人の代理人として、議決権の行使を委ねられたNにおいて、議決権行使書用紙を添付した委任状を提出していた以上、被控訴人(注:大盛工業)が株式取扱規程に従って議決権を行使させたことに問題はなく、本件決議にその点での瑕疵は存在しない。この点、控訴人(注:株主)は、被控訴人においてMの相続人が誰であるかを会社の費用負担の下に調査したことが株主平等原則に違反し、本件決議の違法性を基礎付けると主張するが、控訴人の主張は、株主権を行使する株主が誰であるかを決定する局面と、株主権の代理行使をする場面を敢えて混同させる主張であって理由がない。
 続いて広栄企画名義の株式に関しては、「法人における議決権行使者は、法人から適法に授権された者であることが株式取扱規程等に従って確認され、その確認されたところにより権利行使されているのであれば、そのような議決権行使をさせたことに違法な瑕疵はないというべきである」
 東京高裁は以上のとおり判示し、Nが株式取扱規程から見て適式の委任状に議決権行使書用紙を添付して提出し、議決権を行使したのであるから、本件決議に瑕疵はないと判断した。

 6 争点5(議長不信任の動議を採り上げなかったことによる本件株主総会決議の瑕疵の有無)について

   この点に関して東京高裁は以下のとおり判示した。
 「本件株主総会における議長不信任動議は、被告代表者の議長としての能力や議事進行の不備その他の議長としての適格を疑わせる具体的事情を挙げて行われたものではなく、これを提出した株主は、単に、被告代表者が本件株主総会の冒頭に議長を務める旨述べた際、拍手や了解の声がなかったことを指摘したにとどまり、それ以上に不信任の理由を具体的に述べるようなことは一切なかったものであり、動議の提出について、「動議である」旨の発声をした者はいても、その発言が不規則発言としてではなく、自ら正式に動議を提出したものではないし、その後の推移をみても、「社長代われ」、「経理責任者に交代」、「議長交代」等の不規則な発言が何度かあったものの、議長不信任の動議が明示的に提案されることはなかったというのであって、関係証拠を検討しても、本件株主総会における被告代表者の言動が決議に不当な影響を与えた可能性があることをうかがわせるような事情も見当たらない。
 これらの諸点に照らすと、本件における議長不信任の動議は、合理的な理由に基づく動議ではないことが一見して明白なものであったと認められ、これを議場に諮る必要があったものとはいえないから、被告代表者が議長不信任動議を議場にはかることなく議事を進行したことのみをもって、議長の議事整理に関する裁量の逸脱、濫用があったということはできず、また、本件決議の方法が著しく不公正なものであったとまでいうこともできない」

 7 結論

   このように、弁護士らの代理出席を拒絶したこと(争点1)、本件委任状のうち添付資料のないものを無効として取り扱ったこと(争点2)、会社側提案の賛成の一部株主についてのみ、会社において費用を負担してまで積極的に調査し、議決権行使書用紙と委任状の委任欄の名義が異なる株主に議決権を行使させたこと(争点4)、議長不信任の動議を採り上げなかったこと(争点5)は、いずれも本件決議の取消事由に当たらないとしたが、本件委任状のうち署名はあるものの押印を欠くものを無効であるとしてその議決権の個数を出席議決権数に含めなかったこと(争点3)は、違法であると判示した。

   しかしながら、争点の3の瑕疵は、議決権行使の集計方法の誤りに止まるものであるから、違反する事実が重大なものであるとまでいうことはできないこと、委任状のうち署名はあるものの押印を欠くことを理由として無効とされたのは、わずか株主2名、議決権数230個分(有効議決権行使議決権総数57万4818個の約0.04%)に過ぎないこと等から、争点3の瑕疵が本件株主総会決議に影響を及ぼすものでないことは明らかであると判示し、株主の請求を棄却した。

ページトップ