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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例株主総会及び招集手続における手続的な問題が争われた事例(24件)一覧 > 代表取締役が取締役会決議を経ることなく株主総会の場所及び開始時刻を変更したことが適法であるとされた事例(大阪地決令和2・4・22 資料版商事法務№435・143)(積水ハウス株式会社)
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代表取締役が取締役会決議を経ることなく株主総会の場所及び開始時刻を変更したことが適法であるとされた事例(大阪地決令和2・4・22 資料版商事法務№435・143)(積水ハウス株式会社)

2023.10.18

(R3-⑸)

① 事案の概要  

   S社の株主であるX及び同社の前取締役兼代表取締役Aは、X、Aその他9名を取締役に選任する旨の株主提案を行った。その後、S社は定時株主総会(以下「本件定時株主総会」という)の招集について取締役会において決議し、同総会の招集通知等を同社ウェブサイトで公表した上、株主に対してこれらの書類を郵送にて発送した。

   ところが、新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、緊急事態宣言が発出されたため、本件定時株主総会の開催が予定されていたホテルが休業し、同ホテルにおける開催が不可能になった。そこで、S社は、取締役会決議を経ることなく、本件定時株主総会の場所、日時を変更する旨(以下「本件変更」という)をウェブサイト上で公表したところ、Xは、①本件定時株主総会の2週間前までに本件変更にかかる招集通知が再発送されていない、②本件変更は取締役会決議に基づいていない、③コロナ禍における株主総会の強行は、Xの善管注意義務違反に該当する等と主張して、本件定時株主総会の開催禁止の仮処分命令の発令を申し立てた。

② 判決要旨  

1 招集通知後に株主総会の日時及び場所を変更したこと自体の違法について  

   「債権者の主張を出発点としても、本件定時総会招集決議を執行すべき債務者その他S社の代表取締役の権限の範囲は、本件定時総会招集決定の合理的解釈によって画定されるものというべきである。招集通知(中略)の最初の頁には、新型コロナウイルス感染症への対応として、「本定時株主総会運営に変更が生じた場合には、以下のウェブサイトに掲載いたしますので、ご出席の際にはご確認ください。」という一文が明記され、参照先のURLが記載されていたのであるから、本件定時総会招集決定は、新型コロナウイルス感染症の動向いかんによっては定時株主総会の運営に変更があり得ることを前提としていたことが明らかであり、変更をおよそ許容しない趣旨と解することはできない。以上と異なる債権者の主張は、採用することができない。」

2 取締役会決議によらないで株主総会の日時及び場所を変更した違法について  

   「前項に説示したところによれば、債務者限りで株主総会の日時及び場所を変更することの可否等も、本件定時総会招集決議の解釈により決せられることとなる。もとより、本件定時総会招集決議を執行するに当たり、株主の議決権行使が妨げられることとなるような恣意的な変更を許容する趣旨と解することはできないが、少なくとも本件のように、債務者が、当初予定していたホテル大宴会場の使用が事実上不可能になったこと(中略)に伴い、代替会場として、隣接する高層ビルの35階をフロアごと確保し、これに伴い、35階空きフロアへの移動時間を考慮して開始時刻を30分繰り下げる範囲で本件定時総会の開始時刻及び場所を変更するにとどまる本件変更は、本件定時総会招集決議の執行の域を逸脱するものとまではいえない。」

3 本件変更を前提とした本件定時総会開催の善管注意義務違反について  

   「本件変更までに、S社取締役会において本件定時総会招集決議の内容が変更されたとか、債権者その他取締役において本件変更までに本件定時総会招集決議の内容の変更を目的とする取締役会招集が求められていたにもかかわらず、債務者において、取締役会の意向を無視して、本件変更を前提とした本件定時総会開催に固執していたような事情が存在するのであれば別論というべきであるが、本件において、そのような事情はない。

(中略)  

   仮に、緊急事態宣言が、株主総会の開催自体を決定的に左右する事情変更と一般的に評価されているといえるのであれば、債務者に対し、取締役会を別途招集するなどして、本件定時総会招集決議に従った業務執行をすべき義務を解除させ、本件定時総会に関し、流会、延会や継続会を含めた時宜に応じた柔軟な業務を執行可能とする授権を得ることに向けて尽力すべき義務について検討する余地がある。しかし、緊急事態宣言が迫る情勢下で令和2年4月2日に経済産業省及び法務省から公表された「株主総会運営に係るQ&A」(中略)では、既に招集通知を発送済みの株式会社を念頭に、株主総会を開催すること自体は黙示的に肯定しつつ、感染拡大防止策として、株主に来場を控えるよう呼びかけることの可否、会場に入場できる株主の人数制限等、会場規模縮小を念頭に置いた出席者の事前登録制、発熱や咳などの症状を有する株主対応等についての検討がされており、緊急事態宣言がされた後に公表された令和2年4月14日改訂版でも、実質的変更はされていない。開催予定日が緊急事態宣言後となった他社の株主総会においても、その開催が一律かつ当然に見送られている状況にはない現状を踏まえる限り、緊急事態宣言が、株主総会の開催自体を決定的に左右する事情であると一般的に評価されているということはできない。S社取締役会も、取締役候補者選任をめぐっては鋭く対立しているものの、緊急事態宣言前後を通じて、本件定時総会を開催する方向で異論なく準備を進めてきたと認められるのであり、それまでの債務者の認識と前提を全く異にする義務を肯定することは困難であるというべきである。」

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