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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例株主総会及び招集手続における手続的な問題が争われた事例(24件)一覧 > 提案議案の削減を求められるなどしたことを以って株主提案権の侵害に基づく損害賠償請求が一部認容された事例(東京地判平26・9・30 金融・商事判例№1455・8)(HOYA株式会社)
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提案議案の削減を求められるなどしたことを以って株主提案権の侵害に基づく損害賠償請求が一部認容された事例(東京地判平26・9・30 金融・商事判例№1455・8)(HOYA株式会社)

2023.10.26

(H27-⑴)

① 事案の概要

 HOYA株式会社(以下「被告会社」という。)の株主(以下「原告」という。)が、被告会社の平成20年度定時株主総会である「第71期株主総会」、平成21年度定時株主総会である「第72期株主総会」、平成22年度定時株主総会である「第73期株主総会」に際し、①71期株主総会については、自らの提案に係る議案が招集通知に記載されなかったこと、②72期株主総会については、提案議案の削減を強要され、これに応じて削減したにもかかわらず、残る議案のうち一部が招集通知に記載されなかったこと、③73期株主総会については、提案議案の内容が改変されて招集通知に記載されたことにより、株主提案権が害された旨主張し、被告会社及び同社の取締役・執行役らに対し損害賠償を求めた。

 なお、以下では、個人被告らをそれぞれ次のとおり呼称する。

 被告乙山、被告丙川、被告丁田、被告戊原、被告己沢、被告庚林、被告辛谷、被告壬村、被告葵島、被告春野、被告夏山

2015年版  図版-01neo.jpg

2015版  地裁01.jpg

② 決定要旨

ア 71期株主総会について

 (ア) 被告会社が71期提案を招集通知に記載しなかったことに正当な理由があったか否かについて

 解任の有無は、当該株主総会における当該取締役の権利義務等法的地位に影響する可能性があり、また、仮に、株主総会の終結をもって取締役が任期満了により退任したとしても、新たな取締役が選任されず、取締役が欠けたり、法律又は定款で定めた取締役の員数が欠けた場合、任期満了により退任した取締役は新たに取締役が就任するまでなお取締役としての権利義務を有する(会社法346条1項)のに対して、解任された取締役の場合は、上記権利義務を有しない。

 このように、取締役が任期満了により退任する場合と解任決議により終任する場合とでは、法律上も取扱いが異なっており、当該株主総会の終結をもって任期が満了するという理由で、解任決議を行う必要がないということはできない。

 したがって、71期株主総会に関して、被告会社が71期提案を招集通知に記載しなかったことに正当な理由があったとはいえない。

イ 72期株主総会について

 (ア) 被告会社が72期提案1を72期提案2に削減するよう強制したか否かについて

 原告は不本意ではあったかもしれないが、任意に72期提案1を72期提案2に削減しているというべきである。原告が、本件72期協議以前に、本件72期協議の際の被告会社担当者と株主提案に関して話合いをしたことがありその際も原告の株主提案を会社の意見に従って変更するなどしたが、その時は被告会社担当者による強要等はなかったことも、原告が本件72期協議においても任意に72期提案1を72期提案2に削減していることを裏付けるというべきである。

 したがって、72期株主総会に関して、被告会社が72期提案1を72期提案2に削減するよう強制したとはいえない。

 (イ) 72期不採用提案を招集通知に記載しないことに原告が同意していたか否かについて

 被告会社が、原告に72期不採用提案を株主提案として招集通知に記載しないことを通知した後、原告が何ら異議を述べなかったという事実が認められるにしても、上記事実をもって72期不採用提案を招集通知に記載しないことに原告が同意していたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

 (ウ) 72期不採用提案を招集通知に記載しなかったことに正当な理由があるか否かについて

 a 取締役解任議案について

 上記アアと同様の理由により、被告会社が取締役解任議案を招集通知に記載しなかったことに正当な理由があるとはいえない。

 b 取締役の株式保有義務条項議案について

 取締役の株式保有義務条項は、会社法331条2項に違反するから、被告会社が取締役の株式保有義務条項議案を招集通知に記載しなかったことには正当な理由がある(同法305条4項)。

 c 倫理規定条項議案及び特別調査委員会設置条項議案について

  

 ⒜ 議案が株主の提出に係るものである場合で株主が会社法305条1項による請求に際して提案の理由を株式会社に通知したときは、株主総会参考書類にその理由を記載しなければならないが、当該提案の理由が明らかに虚偽である場合又は専ら人の名誉を侵害し、若しくは侮辱する目的によるものと認められる場合には、記載する必要はない(会社法施行規則93条1項3号)。他方、株主総会参考書類には、議案も記載しなければならないが、議案の記載には上記のような制限はない(同規則73条1項1号)。

  このような同規則の規定からすれば、議案の提案理由に個人の名誉を侵害するような表現が含まれているとしても議案自体を招集通知に記載しないことは許されないというべきである。なお、倫理規定条項議案及び特別調査委員会設置条項議案は、議案自体からは個人の名誉を侵害する議案であるということを読み取ることはできない。

 ⒝ また、倫理規定条項については、会社の業務執行に関する倫理規定として何を規定すべきかまでは議案で明らかにされていないから、会社の業務執行に関する倫理規定を作成することで足りる内容のものであり、特別調査委員会設置条項についても、調査対象は原告の父の行為と企業倫理という抽象的なものではあるが、これらについて何らかの調査をする調査委員会を設置することで条項の内容を充足できるものであるから、両条項が取締役の定款遵守義務を困難にする程度に不明確であるということはできない。

 ⒞ したがって、被告会社が倫理規定条項議案及び特別調査委員会設置条項議案を招集通知に記載しなかったことには正当な理由があるとはいえない。

d インデックス型コールオプション利用義務条項議案について

 インデックス型コールオプション利用義務条項議案とその提案の理由を併せ読むと、原告が、ストックオプションを取締役、執行役及び被告会社の内部関係者に発行する場合、行使価格が日経平均株価や産業分野の株価とリンクするストックオプションを利用することを求めていることが読み取れるのであって、そうである以上、同議案は取締役の定款遵守義務を果たすことができる程度には明確であったというべきである。

 したがって、被告会社がインデックス型コールオプション利用義務条項議案を招集通知に記載しなかったことには正当な理由があるとはいえない。

ウ 73期株主総会について

(ア) 被告会社の招集通知が本件和解の内容に沿うものか否かについて

 上記争いのない事実等及び認定事実のとおり、原告は、平成23年4月21日頃、73期修正議案を招集通知に記載することを知った際、本件変更についても認識し、また、本件和解前半部分は既に被告会社の取締役会で株主総会で取り上げられることが決定していた議案であるのに対して、本件和解後半部分は本件和解に至る過程で原告と被告会社との間で協議し、73期提案1からの文言の変更に合意したが、取締役会による決定が未了である議案であることも認識していた。そうであるとすれば、原告自身も本件和解前半部分は被告会社の取締役会で既に招集通知への記載が決定されていた議案、すなわち同日頃原告が認識した73期修正議案を指すものと考えていたと見るのが自然である。原告が本件和解前半部分で本件和解後半部分と同様に「相当する」という文言を用いることを認識していたこと及び本件仮処分申立てにおいては73期修正議案に対応する73期提案の議案が申立ての趣旨から除外されていることもこれを裏付ける。

 よって、被告会社の招集通知は本件和解の内容に沿うものであり、73期株主総会に係る原告の請求はその余の点を判断するまでもなくいずれも認められない。

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