
2023.10.25
(H29-⑶)
被告の株主であった原告は、被告の定時株主総会(以下「本件株主総会」という)の招集通知に、事業報告及び計算書類の一部を為す個別注記表が添付されていなかったことを理由として、会社法831条1項1号に基づいて、本件株主総会における被告計算書類を承認する旨の決議(以下「本件決議」という)の取消しを求めて提訴した。
取締役会設置会社においては、定時株主総会の招集通知に際して、株主に対し、計算書類、事業報告、監査報告を提供しなければならない(会社法437条)。また、計算書類、事業報告及びそれらの附属明細書、監査報告を定時株主総会の日の2週間前の日から5年間、本店に備え置いた上(同法442条1項1号)、営業時間内における株主のこれらの法定備置書類の閲覧、謄本の交付請求に供さなければならない(同条3項)。
法定備置書類の本店への備置きや株主によるその閲覧、謄本の交付は、株主の株主総会への準備を目的とするものであり、会社法の規定に違反して備置きがされなかったときは、これを定時株主総会招集手続の一環と解して、その懈怠は原則として決議取消原因に当たるものと解すべきである。もっとも、それが実質的に株主の態度決定の準備を不能にさせるようなものでないときは、裁量棄却(同法831条2項)の事由に当たり得るものと解される。
本件では、定時株主総会の招集通知に際して提供されるべき計算書類の一部である個別注記表、事業報告が欠けており、計算書類の附属明細書の閲覧、謄本の交付要求が拒絶され、法定備置書類の備置きの不備があり、これらは本件株主総会の招集手続における瑕疵に当たるが、個別注記表については本件株主総会に先立って原告に送付されており、定時株主総会の招集通知に際して提供されるべき計算書類については追完されたといえる。もっとも、その他の点についてはなお瑕疵が認められることに加え、決算に関する監査報告書の記載は、株主が決算を承認するか否かを判断するに当たって重要な参考資料となるところ、第35期の決算に関して作成された監査報告書には、現在の会社の対応では監査不能である旨が記載されているのみであり、実質的には監査報告の提供があったとは言い難く、このことも踏まえれば、別紙決議目録記載1の第35期の計算書類の承認に関する株主の実質的な準備は不能であったというべきである。
そうすると、本件決議1に関する瑕疵は重大であるから、決議への影響の有無を論ずるまでもなく取り消されるべきである。