
2023.10.25
(H28-⑹)
有限会社大澤果実店(以下「上告人」という)は3000株の株式を発行していたが、このうち2000株(以下「本件準共有株式」という)についてはA及び被上告人の共有状態にあった。本件準共有株式については、会社法106条本文の規定に基づく権利行使をする者の指定、及び上告人に対する通知はなされていなかったものの、上告人がAによる本件準共有株式についての議決権行使に関して同意したため、Aは、上告人の株主総会において本件準共有株式の議決権を行使した。これに対し、被上告人が決議の方法等に法令違反があると主張し、上記株主総会決議の取消を求めて提訴した。
第1審は、会社法106条但書きにより上記議決権行使が適法なものになるとして被上告人の請求を棄却した。これに対し、原審は会社法106条但書きについて同上本文の規定に基づく指定及び通知を欠く場合でも、共有者間において権利の行使に関する協議が行われ、意思統一が図られている場合には、株式会社の同意を要件に当該権利行使を認めたものであるところ、本件はかかる場合に該当せず、本件議決権行使は不適法であるとして、第1審判決を取り消した。これに対して、上告人が上告を行ったのが本件である。
会社法106条本文は、「株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。」と規定しているところ、これは、共有に属する株式の権利の行使の方法について、民法の共有に関する規定に対する「特別の定め」(同法264条ただし書)を設けたものと解される。その上で、会社法106条ただし書は、「ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。」と規定しているのであって、これは、その文言に照らすと、株式会社が当該同意をした場合には、共有に属する株式についての権利の行使の方法に関する特別の定めである同条本文の規定の適用が排除されることを定めたものと解される。そうすると、共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において、当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、株式会社が同条ただし書の同意をしても、当該権利の行使は、適法となるものではないと解するのが相当である。そして、共有に属する株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、民法252条本文により、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられるものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、本件議決権行使は会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたままされたものであるところ、本件議決権行使の対象となった議案は、①取締役の選任、②代表取締役の選任並びに③本店の所在地を変更する旨の定款の変更及び本店の移転であり、これらが可決されることにより直ちに本件準共有株式が処分され、又はその内容が変更されるなどの特段の事情は認められないから、本件議決権行使は、本件準共有株式の管理に関する行為として、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられるものというべきである。
そして、前記事実関係によれば、本件議決権行使をしたBは本件準共有株式について2分の1の持分を有するにすぎず、また、残余の2分の1の持分を有する被上告人が本件議決権行使に同意していないことは明らかである。そうすると、本件議決権行使は、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられているものとはいえず、民法の共有に関する規定に従ったものではないから、上告人がこれに同意しても、適法となるものではない。