
2023.10.17
Yは、当初の目的を達成するために再度株式併合を行うこととした。具体的には、Y株式2株を1株に併合することとし(以下「本件株式併合」という)、平成31年4月23日、取締役会において、本件株式併合の承認と定款の一部変更を目的とする臨時株主総会の招集を決議した(以下「本件取締役会決議」という)。
なお、本件取締役会当時のYの取締役は、G(代表取締役)、H、I、J、Kであったが、それぞれ本件株主らと次のような関係を有していた。
G:A社の発行済株式を全て保有。
H:B社の取締役を兼務。
I:C社の取締役を兼務。
J:B社の代表取締役を兼務。
K:C社の代表取締役を兼務。
そのため、Fを除く取締役らは、本件株式併合に関して利害関係を有するとして、本件取締役会決議には参加しなかった。
Yは、本件株主総会の開催に際し、議決権行使の基準日を定めないまま、同日付で招集通知を発し(以下「本件招集通知」という)、これが同月24日にEを含む全株主に到達した。本件招集通知には、「会社法第180条2項各号に掲げる事項」として、次の通りの記載が為されていた。
株式の割合:当社株式について、2株を1株に併合いたします。
効力発生日:2019年5月17日
効力発生日における発行可能株式総数:114株
ところで、令和元年5月8日、X社はEからY株式を譲り受け、その旨の名義書換が為された。その結果、同日時点のY株主は、A社、B社、C社、D社及びX社となった。
こうした中、同月8日、本件株主総会が開催され、本件株式併合に係る議案を含む全議案が可決された。同総会には、G、I、F及びXの代表社員であるEが出席した。なお、Iは本件株主らの委任状(いずれの議案についても賛成欄に○が付されている)に基づき、同人らの代理人として同総会に出席した。
同月17日、本件株式併合の効力が発生し、Xは、1株に満たない端数株式を保有することになったため、同年8月6日、主位的に、本件株式併合及び定款変更を可決した決議(以下「本件各決議」という)の取消し、予備的に本件各決議が無効であることの確認を求め、提訴した。
⑵ Xの主張⑵について
Xは、本件招集通知は会社法181条1項に基づく通知には当たらないと主張する。しかし、同項に基づく通知の趣旨は、株主に株式併合を予告して権利行使の機会を与える点にあるから、株主が会社法180条2項各号の事項を了知できる方法で通知すれば足り、一通の書面で複数の規定に基づく通知を兼ねることも可能であると解される。そして、上記のように解する限り、同項各号の事項が記載された本件招集通知は、会社法181条1項に基づく通知を兼ねているといえる。
したがって、Yは、本件招集通知の送付をもって同項の通知をしているから、Xの主張⑵は、理由がない。
⑶ Xの主張⑶について
Xの主張⑶は、Yが会社法181条1項に基づく通知をしていないことを前提として、株式併合の承認決議から効力発生日までの期間が8日間であり、同法182条の4の3項記載の20日に満たないことが同項及び同条4項違反に当たる旨をいうものであると解される。
しかし、Yが本件招集通知の送付(平成31年4月23日)をもって全株主に対して会社法181条1項の通知をしていると認められることは、上記(中略)で判示したとおりであるから、Xの主張⑶は、前提を欠くものである上、本件株式併合の効力発生日(令和元年5月17日)の20日前までに上記の通知が行われているから、同法182条の4の3項及び同4項違反に当たる旨のXの主張⑶は、理由がない。
⑷ Xの主張⑷について
Xは、Yが本件株式併合に係る所定の事前開示事項において貸借対照表を開示せず、または最終事業年度における貸借対照表をYの本店に備え置かなかったことが会社法施行規則33条の9の第2号ロに違反し、決議取消事由を構成すると主張する。
しかし、会社法施行規則33条の9の第2号ロは、株式会社が最終事業年度を定めていない場合の貸借対照表の開示義務を定めるのみであるから、最終事業年度がある株式会社には適用されない。
そして、Yは最終事業年度を定めているから(中略)、会社法施行規則33条の9の第2号ロは適用されない。
したがって、Xの主張⑷は、理由がない。
⑸ Xの主張⑸について
Xは、Yが平成31年4月23日に実施した自己株式の消却が「重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象」(会社法施行規則33条の9の第2号イ)に該当するとして、Yが本件株式併合に係る事前開示書面及び事後開示書面において当該自己株式の消却を記載しなかったことが、決議取消事由を構成すると主張する。しかし、会社法施行規則33条の9の第2号イの趣旨は、会社財産に重要な影響を与える事象を開示させることにより、1株当たりの価値の算定の参考となる情報を株主に提供する点にある。そして、自己株式には配当請求権や共益権がないこと(会社法453条、308条2項)、自己株式処分をする場合には新株発行と同様の規律に服すること(会社法199条参照)及び自己株式は貸借対照表の純資産の部の株主資本に係る項目の中で控除項目として表示され(会社計算規則76条2項5号)その資産性が否定されていることなどからすると、自己株式が消却されても1株当たりの価値の算定には影響しないと解するべきである。
したがって、自己株式の消却は、「会社財産の状況に重要な影響を与える事象」(会社法施行規則33条の9の第2号イ)に当たらず、Xの主張⑸は、理由がない。
⑹ Xの主張⑹について
Xは、本件創業家取締役らがYの立場において特別利害関係人として本件株式併合にかかる本件株主らとの協議ないし交渉に参加したことを前提として、Yが本件株主総会の参考書類に虚偽の事実を記載した旨を主張する。そして、Xは、本件創業家取締役らがYの立場において上記協議ないし交渉に参加したことを窺わせる事情として、本件株式併合に係る端数処理交付見込額がY純資産と乖離していることを主張する。
確かに、第1回株式併合及び本件株式併合は、Y株主を本件株主らのみとするYの非公開化を目的とした一連の取引であり、本件創業家取締役らは、本件株式併合後も継続してYの株主となる本件株主らの株主又は取締役であるから、上記各株式併合についてYと類型的な利益相反関係にあった(中略)。
しかし、Yは、第1回株式併合の実施及び第1回株式併合の諸条件等の決定手続における公平性を担保すべく、リーガル・アドバイザーとしてf法律事務所を選任してYの取締役会の意思決定の方法及び過程等について法的助言を受けつつ、本件株主らとの上記協議ないし交渉に臨んでいる上、端数処理交付見込額の公正性を担保すべく第三者算定機関としてみずほ証券株式会社を選任し、Y及び本件株主らから独立した外部の有識者を構成員とする第三者委員会を設置し、複数回にわたる協議・検討を経た上で本件端数処理交付額を1株あたり6750円と決定している(中略)。
そして、本件株式併合の端数処理交付見込額は、3億3643万3500円(6750円×第1回併合前の4万9842株)であり、この金額は、第1回株式併合の端数処理交付見込額と実質的に同額である(中略)。
このように、第1回株式併合においては、株式併合の公正性を担保するための措置が講じられ、客観的にみて公正な手続が実質的に履践された上で端数処理交付見込額が定められているから、第1回株式併合と日時が近接し、株式併合の目的を同じくする本件株式併合においても、特段の事情がない限り上記手続で定められた端数処理交付金額を尊重すべきである。
したがって、本件株式併合の端数処理交付見込額がY純資産額と乖離しているとしても、かかる見込額が著しく不公正であるとはいえず、本件創業家取締役らがYの立場において上記協議ないし交渉に参加したことを認めるに足りる証拠はない。
よって、Xの主張⑹は、理由がない。
⑺ Xの主張⑺について
Xは、本件株主総会にY取締役6名中3名が欠席したことをもって、欠席取締役に説明義務違反(会社法314条)が存在する旨を主張する。しかし、取締役の説明義務は、「株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合」(同条)に生じるものであるところ、Xは、本件株主総会において取締役に説明を求めた事実及び取締役が説明を拒絶した事実を何ら主張・立証していないから、Xの主張⑺は、理由がない。
⑻ Xの主張⑻について
Xは、本件各決議において、本件株主らが特別利害関係人として議決権を行使したことにより、Y純資産に満たない端数処理交付見込額での本件株式併合の承認決議が行われ、Xにとって「著しく不当な決議」(会社法831条1項3号)がされたから、かかる事実が決議取消事由に当たる旨を主張する。
しかし、本件株式併合の端数処理交付見込額が著しく不公正とはいえないことは、前記⑹で判示したとおりであるから、本件株式併合の承認決議は、「著しく不当な決議」(会社法831条1項3号)とは認められない。
したがって、Xの主張⑻は、理由がない。
⑼ Xの主張⑼について
株主総会決議取消しの訴えを提起した後、会社法831条1項所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張することは許されないと解されるところ(最判昭和51年12月24日第二小法廷判決・民集30巻11号1076頁参照)、Xは訴状において、特別利害関係人が議決権行使をしたことが決議取消事由を構成する旨を記載するが、同訴状において特別利害関係人の氏名は明らかにされておらず、訴状訂正申立書において特別利害関係人として主張されたのは、本件株主らのみである(Xの主張⑻)。一方、Xの主張⑼は、令和2年1月15日にXより提出された「準備書面1」と題する書面において初めて記載され、その後、第3回口頭弁論期日において主張されるに至ったものであることは当裁判所に顕著な事実であって、同事由に係るXの主張は、本件訴えの提訴期間請求後になされたものであるというべきであるから、Xが同主張をすることは許されない。