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債務者が株主総会で議長を務めること等を差止を求める仮処分命令申立が却下された事例(東京地決令3・2・17 金融・商事判例№1616・16)

2023.10.17

 

① 事案の概要

   Y₁は、A社の代表取締役であり、債務者Y₂、Y₃及びY₄は、A社の取締役である。
 Xは、投資事業有限責任組合であり、本件申立6か月前からA社の株式を行き続き有する株主である。
 Xは、令和2年11月25日、A社に対し、①債務者ら4名を取締役から解任すること、②取締役4名を選任すること、及び③A社の商号を変更することを株主総会の議題(以下「本件議題」という)とする臨時株主総会(以下「本件臨時株主総会」という)の招集を請求し、同日、裁判所に対して株主総会招集許可の申立を行った。
 これを受け、A社は、請求から8週間以内の日に株主総会を開催することを基本方針とすること等を適時開示して、同総会における議決権行使の基準日を同年12月31日と定める旨の公告をした。
 こうした中、令和4年1月14日、A社は、A社を株式交換完全親会社とし、C社を株式交換完全子会社とし、A社がC社の完全親会社であるD社に対して、C社の全ての発行済株式と引き換えにA社の株式を交換する旨の株式会社簡易株式交換契約(以下「本件簡易株式交換」という)を締結した。本件簡易子株式交換が実現した場合、D社がA社の筆頭株主となるところ、A社は、本件臨時株主総会において、D社の議決権行使を認めるかどうか等を検討する旨を適時開示した。
  これを受け、Xは、本件簡易株式交換を仮に差し止める仮処分決定を得たため、A社は、本件臨時株主総会の開催を令和3年2月24日に延期する旨を公表し、本件議題に本件簡易子株式交換の兼を追加した上で、株主総会の招集通知を発送した。
 以上の事実関係において、Xらは、①Yらが、本件臨時株主総会において議長を務めてはならない旨、及び②株主総会の開会及び閉会の宣言、議案の採決その他会社法315条に規定する議長の権限を行使してはならない旨主張して、これらを仮に差し止める仮処分命令を申し立てた。

② 決定要旨
3 被保全権利について

 ⑴ 本件申立ての内容が会社法360条1項の「当該行為」にあたるかについて

 ア 債務者らは、本件申立ての内容がいずれも株主総会の議長の個別の行為ではなく特定されていないことから、会社法360条1項の「当該行為」に当たらず、不適法である旨主張する。

 イ そこで検討するに、取締役の違法行為差止請求権(会社法360条1項)は、株式会社の取締役が株式会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為(以下、会社の目的の範囲外であること及び法令又は定款違反を併せて「法令違反等」という。)を行い又は行うおそれがある場合に、当該行為を差し止めることを内容とするものであるから、差止めの対象となる行為は、上記の法令違反等を行い又は行うおそれがあるものとして具体的に特定された行為であることを要し、その範囲を超えた行為の差止めを求めることはできないと解するのが相当である。

 ウ これを本件についてみると、Xは、債務者らが本件臨時株主総会の議長として取締役としての善管注意義務に違反し、その議事の全般に渡り権限を行使するおそれがあることを理由に、議長に就任することそのもの又は議長としての権限行使全般の差止めを求めているところ、Xが差止めの対象として特定する債務者らの行為は、債務者らの株主総会の議長としての権限の行使に関するものであり、議長の就任そのものを対象とするものではないといわざるを得ない。
 そうすると、Xが債務者らの議長への就任を仮に差し止める部分(申立ての趣旨の第1項)は、会社法360条1項の「当該行為」には当たらないというべきであり、理由がないというべきである。この点に関するXの主張は採用できない。

 エ 他方で、Xは、債務者らが株主総会の議長として権限を行使することの差止めも求めている(申立ての趣旨第2項)ところ、Xは、申立ての理由として、A社の取締役である債務者らが本件臨時株主総会の議事の全般に渡り取締役としての善管注意義務違反という法令違反をするおそれがあると主張しているから、申立ての対象は特定されており、会社法360条1項の「当該行為」に当たるというべきである。この点に関する債務者らの主張は、採用できない。

 ⑵ 株主総会の議長としての取締役の権限の行使が違法行為差止請求権の対象となるかについて

 ア Xは、債務者らが取締役の地位に基づき本件臨時株主総会の議長に就任し、その議事の全般に渡り権限を行使することを仮に差し止める仮処分命令を求めているところ、債務者らは、そもそも、株主総会の議長の権限の行使は株主総会の機関としての権限の行使であり取締役の業務執行行為に当たらず、違法行為差止請求権の対象とはならない旨主張する。

 イ そこで、前記(1)の説示を踏まえ、申立ての趣旨第2項について、株式会社の取締役が定款の定めに基づき株主総会の議長に就任する場合に、議長としての権限の行使が、取締役の違法行為差止請求権の対象となるかを検討する。
 株主総会の議長と会社との関係についての明文の規定は存在しないが、株主総会の議長は、株式会社の最高意思決定機関である株主総会の開会から閉会に至るまでの議事の全般に渡り、その秩序を維持し、議事を整理すること等の権限を有する(会社法315条)ことから、会議体である株主総会の一機関であるとともに、会社の機関の一つであるということができる。そして、株主総会ごとに議長を選任する煩雑さを回避するために、あらかじめ会社の代表取締役等が議長に就任する旨を定款で定めることも有効であると解されるところ、会社の取締役が当該会社の定款の定めに基づき株主総会の議長に就任する場合には、当該取締役は、会社の機関の一つであるといえる株主総会の議長としてその議事進行等の事務を行うこととなるから、その権限の行使は、会社の業務執行の一環であるとみることができるというべきである。そうすると、株式会社の定款の定めに基づき取締役が株主総会の議長に就任する場合には、当該取締役は、取締役としての善管注意義務(会社法330条、民法644条)として、議長としての権限を適切に行使し、株主総会を適正かつ公平に運営すべき義務を負うと解するのが相当である。
 そして、違法行為差止請求権の対象である取締役の法令違反には、取締役としての善管注意義務違反の行為も含まれると解されること、前記の株主総会の議長の権限には一定の裁量があると解されることからすると、取締役が議長に就任し、その権限を行使するに当たり、裁量権を逸脱濫用して議事の全般に渡り法令違反等の行為を行い又はそのおそれがあることその他の被保全権利及び保全の必要性の各要件の疎明がなされた場合には、当該取締役に株主総会の議長として権限を行使させることを許容するのは相当ではないから、取締役が株主総会の議長として権限を行使すること全般についての差止めを求める事も許容されると解するのが相当である。
 したがって、株主総会の議長としての取締役の権限の行使が違法行為差止請求権の対象になるというべきであるから、債務者らの主張は採用できないというべきである。

 ⑶ 債務者らに法令に違反するおそれがあるといえるかについて

 ア 債務者らが本件臨時株主総会の議長として権限を行使するといえるかについて
 Xは、債務者らについて、A社の定款の定めにより本件臨時株主総会の議長に就任する可能性があり、善管注意義務に違反して権限を行使するおそれがあるから、議長としての権限行使の全般を仮に差止めるべきである旨主張する。
 そこで、そもそも、債務者らが本件臨時株主総会の議長に就任するといえるかについて検討するに、(中略)、A社の定款14条1項には、株主総会の議長には原則として取締役社長が就任し、同条2項には、取締役社長に事故がある場合には、あらかじめ取締役会において定めた順序により他の取締役が議長に就任する旨が定められているところ、このような定款の定めが有効であることは前記(中略)のとおりである。そして、同規定の「事故がある場合」とは、物理的に株主総会に出席できない場合の他、当該人が自らの意思で欠席する場合も含むと解されることもふまえると、債務者らには、定款により本件臨時株主総会の議長となる資格があると一応認められる。
 しかしながら、A社の上記の定款の定めを前提とすれば、本件臨時株主総会の議長を務めるのは、原則としてA社の取締役社長である債務者Y₁であるといえること、審尋の全趣旨によれば、債務者らは、令和3年2月15日に行われた第3回審尋期日時点において、A社が定款14条2項による代理順序を定めておらず、本件臨時株主総会までに具体的にこれを定めるかどうかについても結論が出ていない旨述べていることや、一件記録を精査しても、債務者Y₁が本件臨時株主総会に物理的に出席することができず又は自らの意思で欠席する可能性があることを一応認めるに足りる疎明資料はないことからすると、債務者Y₁を除く債務者Y₂らが、A社の定款14条2項に基づき本件臨時株主総会の議長に就任しその権限を行使すると一応認めることはできないというべきである。
 したがって、本件申立てのうち債務者Y₂らが本件臨時株主総会の議長に就任し、その善管注意義務に違反するおそれがあるとして本件臨時株主総会の議長としての権限の行使全体を仮に差し止めることを求める部分は、前提を欠き、理由がないといわざるを得ない。

 イ 債務者Y₁が議長として善管注意義務に違反するおそれがあるといえるかについて
 Xは、A社の取締役である債務者らが定款の定めにより本件臨時株主総会の議長に就任した場合には、議長としての権限を行使するに当たり議事全般に渡り取締役として善管注意義務を負うといえるところ、債務者らが第1臨時株主総会の開催に当たり違法・不当な集計を行っていたことや、裁判所に対する株主総会招集許可申立事件の審理に当たり第1臨時株主総会の開催を誓約していたにもかかわらず、これを違法に中止したこと、Xの株主名簿閲覧謄写請求を違法に拒絶していること、不当な簡易株式交換を計画し仮処分によりこれを仮に差し止める旨の仮処分決定を受けていること、本件臨時株主総会の招集を不当に遅滞したこと等から、債務者らが本件臨時株主総会の議長に就任した場合には、採決を行わず株主総会自体を流会としたり、違法不当な集計を行ったりするなど、開会から閉会に至るまでの議事の全般に渡り、その裁量権を逸脱濫用して、議長としての権限を行使し、取締役としての善管注意義務に違反するおそれがある旨主張する。
 この点、債務者Y₂らが本件臨時株主総会の議長に就任することについての疎明がなく、この部分についての申立てに理由がないことは前記アのとおりであるから、債務者Y₁について上記のようなおそれがあるといえるかを検討するに、以下のとおり、いずれも本件臨時株主総会において債務者らが議長に就任した場合に、開会から閉会に至るまでの議事の全般に渡り、その裁量権を逸脱濫用して、議長としての権限を行使し、取締役としての善管注意義務に違反するおそれがあると一応認めることはできないというべきである。

(ア) すなわち、前記認定事実(3)ア及びウによれば、債務者Y₁は、A社の代表取締役として、裁判所に対する株主総会招集許可申立事件の審理において、令和2年11月20日の第1臨時株主総会の開催を誓約していたにもかかわらず、前日にこれを中止する旨適時開示し、実際に第1臨時株主総会が開催されていないのであるから、債務者Y₁は、上記の誓約に違反したといわざるを得ない。
 しかしながら、上記の誓約違反は第1臨時株主総会の開催に関するものであって株主総会の議事進行に関するものではないこと、債務者Y₁が、法令定款の定めに従い適法に本件臨時株主総会を開催し、実際に開催される本件臨時株主総会において何ら不当違法な行為を行う考えがない旨の陳述書(中略)を改めて提出していることもふまえると、上記の事情から、直ちに、債務者Y₁が、本件臨時株主総会の議事の全般に渡り議長としての権限を逸脱・濫用し、善管注意義務に違反して行使するおそれがあるとの高度の疎明があるということはできないというべきである。
(イ) 次に、(中略)、A社は、第1臨時株主総会前日において、株主側の委任状のうち、議決権行使書の添付の無いもの及び会社側の委任状が添付されているに過ぎないものを一律無効とする取扱いとし、(中略)株主側の委任状又は議決権行使書面の有効性の判断を留保している。(中略)、A社は、定款16条の定めに基づき、第1臨時株主総会の招集通知において、委任状を提出する際には本人確認書類として議決権行使書面の添付を求めているといえるところ、本人確認書類として議決権行使書面の添付を必要とし、これを遵守しない委任状を無効とする取扱いも許容されると解されること、Xの主張する上記以外の集計の違法・不当の内容は、あくまで第1臨時株主総会前日における暫定的な集計状況において有効性判断を留保していたものに関する部分を論難するものにすぎず、第1臨時株主総会の決議がなされた場合に実際に無効なものとされたとは必ずしもいえないことも踏まえると、債務者Y₁が進んで本件臨時株主総会における投票結果の集計に当たり違法不当な行為を行うと直ちには認められないというべきである。
  したがって、Xの主張する上記の事情によって、直ちに債務者Y₁が議長としての権限を逸脱・濫用し、善管注意義務に違反するおそれがあるとの高度の疎明があるとはいえないというべきである。
 (ウ) さらに、Xは、A社の株主名簿閲覧謄写仮処分及び証拠保全手続での対応や、簡易株式交換手続を仮に差止める仮処分命令が発令されていること、本件臨時株主総会の招集を不当に遅延していることから、債務者らが本件臨時株主総会の議長に就任した場合に、その議事の全般に渡り取締役としての善管注意義務に違反する旨主張する。 
  しかしながら、Xの指摘する事情はいずれも株主総会の議事進行に関するものではなく、本件臨時株主総会の議決権の行使の基準日時点の株主名簿については、仮処分決定に対する異議審の判断等を踏まえて閲覧謄写が既になされていること、本件簡易株式交換についても本件臨時株主総会において承認議案が定められていること、本件臨時株主総会の招集の遅延については、疎明資料(中略)によれば、令和3年1月7日、新型コロナウイルス感染症について、東京都内等に緊急事態宣言が発令され、その後令和3年2月2日にその期間が3月7日まで延長されていることが一応認められ、適切な会場の確保が難航したとしてもやむを得ない面があることも否定できないこともふまえると、これらの事情から債務者Y₁が本件臨時株主総会において善管注意義務に違反して議長としての権限を行使するおそれがあると推認することができる程度の高度の疎明があるとはいえない。
 (エ) Xは、債務者Y₁を含む債務者らが、本件の審理に当たり和解を拒んだことから、議長として取締役の善管注意義務違反のおそれが推認される旨主張する。
  審尋の全趣旨によれば、Xは、令和3年2月12日の第2回審尋期日に当たり、債務者らに対し、別紙「和解条項(Draft20210211)」を提案し、これに対し、債務者Y₁がかかる提案を受け入れることができない旨記載した陳述書(中略)を提出していることが認められるが、上記の和解条項案には、委任状の本人確認書類について、議決権行使書面以外にA社の委任状や運転免許証等を認めることや、有効な委任状の受付期限を令和3年2月22日午後6時以降とするなど、本件臨時株主総会の招集通知に記載されている事項とは異なる内容が含まれるなどしており、個別の株主との間で和解をすることが相当ではないと判断したことが不合理であるとまではいえないこと及び前記イのとおり、債務者Y₁が、法令定款の定めに従い適法に本件臨時株主総会を開催し、実際に開催される本件臨時株主総会において何ら不当違法な行為を行う考えがない旨の陳述書(中略)を改めて提出していることも踏まえると、上記の事情から、債務者Y₁が、本件臨時株主総会において善管注意義務に違反して議長としての権限を行使するおそれがあるとの高度の疎明があるとはいえないというべきである。

ウ その他、Xはるる主張するが、いずれも前記判断を左右するものとはいえず、採用できない。

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