
2023.10.19
(R2-⑵)
非公開会社であるYには、次の書類を作成していた。
①平成28年4月2日付の「臨時株主総会」と題する書面
新株を発行する旨の記載がある。
②平成28年7月18日付の「株主総会」と題する書面
「1株100円で18,000株増資することを決定する」との記載がある。
もっとも、Yは、上記②の総会の開催に際し、株主に対して招集通知を発送していなかった。
また、Yは、平成29年5月16日付で、臨時株主総会議事録を作成しているところ、それには、普通株式18万株、募集株式の払込金額1株につき100円、募集株式と引き換えにする金銭の払込期日を平成29年6月25日、増加する資本金額1800万円として、募集株式を発行する(以下「本件新株発行」という)決議が可決された旨記載されている。
Eが募集に応じて募集株式の引き受けを書面で申し込んだので、Yは取締役会を開催し、本件新株発行に関する募集株式をEに割り当てる旨決議した。
これに対し、Cの死亡により、Cの保有する全ての株式を相続により承継し、Yの株主となったXが、Yに対し、本件新株発行が無効であることの確認を求めて提訴した。
本件新株発行に係る決議がされた平成29年株主総会について、Yは株主に対する事前の招集通知を発していないところ、その招集手続の瑕疵の重大性に鑑みれば、平成29年株主総会決議は法的に不存在と評価されるというべきである。
本件新株発行に関する平成28年7月株主総会決議に全株主が同意していたことを前提とすれば、平成29年株主総会の開催につき開催直前に口頭で通知された株主においても、平成29年株主総会決議に係る議案の議決権行使に対する判断を行うことは十分に可能であったとして、平成29年株主総会に係る招集手続の瑕疵は平成29年株主総会決議の不存在事由に当たらない旨主張するが、本件全証拠をもってしても、Iが平成28年7月株主総会決議に同意したことを認めるには足りず、かかる事実が認められない以上、上記株主に対する口頭の開催通知をもって、平成29年株主総会に係る招集手続の瑕疵を軽度なものと評価することはできない。
さらに、Yは、Xが平成29年株主総会決議に係る議案に対し反対の意思を表明していないことは、Xが同決議に賛成したものと評価すべきであり、そうであれば平成29年株主総会決議について全株主の同意が存在する旨主張するが、平成29年株主総会が全株主に対する事前の招集通知を欠いたものであることに照らせば、Xが平成29年株主総会の開催そのものに反対し、上記議案に対し何らの意思を表明しないことも十分に考えられるところであり、Xが上記議案に対し反対の意思を表明しなかったことをもって、Xが同議案に対し賛成の意思を表明したものということはできないから、Yの上記主張を採用することはできない。(中略)
以上述べたとおり、本件新株発行は、非公開会社がした会社法所定の株主総会による特別決議を欠いた新株発行であるところ、当該特別決議を欠く瑕疵は本件新株発行の無効原因に当たると解することが相当である。