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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例株主総会及び招集手続における手続的な問題が争われた事例(24件)一覧 > 事前警告型買収防衛策の廃止に関する株主提案を株主総会の招集通知に記載すること等を命じる仮処分命令の申立てを否定した事例(東京高決令元・5・27 資料版商事法務№424号118頁)
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事前警告型買収防衛策の廃止に関する株主提案を株主総会の招集通知に記載すること等を命じる仮処分命令の申立てを否定した事例(東京高決令元・5・27 資料版商事法務№424号118頁)

2023.10.19

(R2-⑼)

① 事案の概要

 Yにおいては、Y株式等の大規模買付行為に関する対応方針(いわゆる事前警告型買収防衛策である。以下「本対応方針」という)を継続する旨の決議がされていたところ、Yの株主であるX(有価証券の保有、運用及び投資等を目的とする株式会社)は、平成31年4月9日、Yに対し、会社法303条2項、305条1項に基づき、次の株主提案を行った(以下「本件株主提案」という)。

 ①本対応方針の廃止の件(以下「本件議題」という)を令和元年6月17日開催予定のYの定時株主総会(以下「本件株主総会」という)の会議の目的とすること。
 ②本件議題及び議案の要領、提案の理由を本件株主総意の招集の通知及び参考書類に記載すること。

 しかしながら、Yは、本件株主提案は適法性に疑義があるとして、株主総会では取り上げることを予定していない旨の適時開示を行ったため、Xが、本件議題に係る議案提案権及び本件議題に係る議案要領通知請求権(以下、併せて「本件議題提案権等」という)を被保全権利として、本件株主総会の招集通知及び株主総会参考書類に本件議題及び議案の要領、提案の理由の全文を記載することを命じる旨の仮処分命令の申立てを行った。

 原審がこれを却下したため、これを不服としたXが抗告したのが本件である。

② 決定要旨

 「会社法303条2項は、株主は「一定の事項」を株主総会の目的とすることを請求することができると規定しているところ、この議題提案権は、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求する権利である以上、その対象となる一定の事項は、株主総会の権限の範囲に属する事項に限られ、提案された議題が株主総会の決議事項でないときは、当該会社は、それを株主総会の議題とする必要はないと解される。また、同胞305条1項は、株主は、「株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知すること」を請求することができると規定しているところ、「株主総会の目的である事項」について株主に議案要領通知請求権を認めているので、その対象となるのも、やはり株主総会の権限の範囲に属する事項に限られる(中略)。

 そうすると、Xによる本件対応方針を廃止する旨の本件議題を本件株主総会の目的とすること及び本件議案に係る議案の要領を通知することを求める旨の本件株主提案等が認められるためには、本件対応方針の廃止が相手方の株主総会の権限の範囲に属する事項である必要がある。(中略)

 この点、本件対応方針の廃止はいわゆる事前警告型買収防衛策の廃止であるところ、それ自体について、会社法において株主総会で決議すべきものと定められた事項であるとは認められない(中略)。

 したがって、Xによる本件対応方針を廃止する旨の本件議題を本件株主総会の目的とすることなどを求める旨の本件提案検討が認められる前提として、本件議題である本件対応方針の廃止が株主総会の権限に属する事項であるというためには、本件対応方針の廃止が、Yの定款(本件定款)において、株主総会で決議すべき事項と定められている必要がある。(中略)

 取締役会設置会社において、業務執行の決定を株主総会決議事項とする旨の定款の定めは経営を担う取締役会の判断権限を例外的に制約するものであることからすると、その範囲は厳格に解するのが相当である(中略)。

 本件定款第15条1項において株主総会で決議することができるとされている「当会社の株式等(金融商品取引法27条の23第1項に定めるものをいう。)の大規模買付行為へ対応方針」には、その廃止は含まれていないものと解するのが相当である(中略)。そうすると、本件議題である本件対応方針の廃止は、本件定款においてYの株主総会で決議すべき事項と定められたものではなく、Yの株主総会の権限の範囲に属する事項に含まれないから、Xが株主総会の議題として提案することができるものではなく、Xによる本件議題提案権等は認められないということになる(中略)。

 仮に、本件定款15条1項において株主総会で決議することができるとされている「当会社の株式等(金融商品取引法27条の23代1項に定めるものをいう。)の大規模買付行為への対応方針」に本件対応方針の「廃止」が含まれるとしても、(中略)単に定款の買収防衛策についての決議に関する定めがあることをもって、株主総会にその導入等の具体的な権限を付与したものであるとまで直ちに解することはできず、定款の定めをした当該株式会社の状況を踏まえて、解釈すべきことになる(中略)。

 本件定款15条1項は、(中略)取締役会が本件対応方針を導入するに当たって、株主総会において株主の意思を確認すべきものと考えたところ、(中略)これを有効に行うことができるようにするために設けられた規定であるというべきであって、株主総会に本件対応方針の導入等についての権限を付与するものではないものと解するのが相当である(中略)。

 また、仮に本件定款15条1項が、(中略)買収防衛策の導入等を決定する権限を株主総会に付与するものであると解するとしても、(中略)Yの取締役会も(中略)決定する権限を併存的に有しているものと解されるから、その権限は株主総会に専属的に属するものではない(株主総会は排他的権限を有していない)ということになる(中略)。

 本件定款15条1項は、株主総会の専属的権限とは解されない事前警告型買収防衛策である本件対応方針の導入等について、これを株主総会に提案するか否かの判断権限を取締役会に留保しているものと解するのが相当であり、株主にその議案を提案する権限は認められないものと解するのが相当である(中略)。

 そうすると、Yの株主総会が、本件定款15条1項により、本件対応方針(中略)の導入等を決定する権限を有しているとしても、Xは、本件対応方針を廃止する旨の本件議題の提案等をする本件議題提案権等を有していないことになる。

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