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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例株主、取締役の地位の喪失について争われた事例(7件)一覧 > 主位的に取締役たる地位を有することの確認と株主総会決議の決議の不存在を、予備的に同決議の取消しを求める訴えが、いずれも却下または棄却された事例(東京高判令元・10・17 金融・商事判例№1582・30)
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主位的に取締役たる地位を有することの確認と株主総会決議の決議の不存在を、予備的に同決議の取消しを求める訴えが、いずれも却下または棄却された事例(東京高判令元・10・17 金融・商事判例№1582・30)

2023.10.19

(R2-⑴)

① 事案の概要

 Yは、平成30年6月21日の第70期定時株主総会(以下「本件総会」という)において、X₁、A、B、C、D、E、Fを取締役に選任する旨の議案(以下「本件会社提案」という)を行ったところ、後述のJから、A、B、C、S、R、Tを取締役に選任する旨の修正動議が提出され、これが可決された(以下「本件決議」という)。

 これに対し、X₁が、主位的にX₁、D、E、Fが取締役たる地位を有することの確認と本件決議の不存在確認を求め、予備的に本件決議の取消しを求めて提訴した。

 ところで、本件決議の経緯は次の通りであった。

【事前の議決権行使】 

 ・Yには従業員の持株会(以下「本件持株会」という)があったところ(保有議決権数1226個)、本件持株会は、電子投票により、本件会社提案に賛成する議決権行使をした。

 ・H銀行(保有議決権数1987個)及びI生命(保有議決権数113個)は、それぞれ本件会社提案に賛成する旨の議決権行使書を送付した。

【本件総会当日の議決権行使】 

 ・Yの株主であるK、L、M、Nの代表取締役として出席したJは(保有議決権数合計8141個)、本件会社提案のX₁、D、E、Fについて反対、本件修正動議に賛成として議決権を行使した。

 ・P(保有議決権数400個)の職務代行者として出席したOは、Jと同様の議決権行使をした。

 ・I生命の担当者は、投票用紙を提出せず、H銀行の担当者Qは、Y担当者に対して「傍聴に来ているだけである」旨説明し、何も記載せずに投票用紙を渡した。

【議決の経緯】  

   本件総会の会場の使用時間内に投票の集計が終了しなかったため、Y本社において総会が継続された。その際、Oは、議長不信任、議長交代、定款に定められている候補者も全て否認する旨の動議を提出する旨の発言をし、さらにOを新たな議長にする旨発言した。Aがこれを諮り、可決された旨宣言したため、Oが議長となり、本件修正動議が可決された旨を宣言した。

【第1審の判決及び控訴審におけるYの主張】  

   原審は、X₁の主位的請求をいずれも棄却する一方、本件決議に取消事由があることを認めたため、当事者双方がこれを不服として控訴した。  
 控訴審において、Yは、①Aらが取締役を辞任したため、本件決議の不存在確認及び取消しを求める訴えは訴えの利益を欠く、②X₁らの取締役としての任期は満了したことから、X₁らは既に取締役としての地位を失っている、との主張を追加した。

② 判決要旨

  ⑴ H銀行の議決権行使は本件会社提案に賛成したものといえるか

 「書面による議決権行使の制度は、株主の意思をできるだけ決議に反映させるために株主自身が株主総会に出席することなく議決権を行使できるよう設けられたものであるところ、(中略)、H銀行の担当者は、本件総会会場に入場したが、同銀行から議決権行使の権限を授与されておらず、本件会社提案及び本件修正動議についての投票の際、Yに対してその旨を説明しており、Yにおいても同銀行が議決権行使書と異なる内容で議決権を行使する意思を有していないことは明らかであったといえる。このような状況においては、上記のような書面による議決権行使の制度の趣旨に鑑み、会社において確認している株主の意思に従って議決権の行使を認めるべきであるから、投票による本件会社提案及び本件修正動議について欠席として扱い、事前に送付されていた議決権行使書に示されたH銀行の意思を従って、本件会社提案に賛成、本件修正動議に反対として扱うのが相当である。(中略)

 Yは、株主総会に傍聴者の入場を認めておらず、H銀行の職務代行者が本件総会に出席したのであるから、書面による議決権行使は撤回されたものとして取り扱われるべきであると主張する。

 しかし、Qは議決権の行使について何らの権限を授与されておらず、傍聴者として本件総会会場に入場したのであり、職務代行者として入場したとは認められないから、Qが本件総会会場に入場したことや投票前に議場を退場しなかったことをもって、事前の書面による議決権の行使が撤回されたものと認めることはできない」

  ⑵ 本件会社提案を可決する決議が成立したかについて

 「株主総会の決議は、定款に別段の定めがない限り、その議案に対する賛成の議決権数が決議に必要な数に達したことが明白になった時に成立するものと解すべきであって、必ずしも、挙手・起立・投票などの採決の手続をとることを要するものではない(最高裁判所昭和42年7月25日第3小法廷判決・民集21巻6号1669頁)。したがって投票という表決手続を採った場合も含めて、議長の宣言は決議の成立要件ではなく、決議は、会社が株主の投票を集計し、決議結果を認識し得る状態となった時点で成立すると解すべきである。(中略)

 そして、本件会社提案のうち、X₁らを取締役に選任する旨の決議は、前記の通り決議の成立要件を満たすことからすれば、(中略)、同議案を可決する決議が成立したと認められる。」

  ⑶ Aらの辞任について

 「Aらが令和元年5月8日にYの取締役を辞任したことが認められる。そうすると、Aらを取締役に選任するとの本件決議が存在しないことの確認を求める訴え及び同決議が存在しないことの確認を求める訴えについては、特段の事情のない限り、訴えの利益が失われたというべきところ、(中略)、本件において上記特段の事情を認めることはできない。

  ⑷ X₁らの取締役任期の満了について

 「確かに、第71期総会の招集を決定した取締役会にX₁らは出席の奇怪を与えられていないから(中略)、同窓会の招集手続には瑕疵があることになるが、(中略)、Yの取締役(中略)を構成員とする取締役会において招集が決定され、代表取締役(中略)が招集決議に基づき招集されていることを考慮すると、手続的瑕疵が著しく、株主総会決議が法的に不存在とまではいえない。

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