
2023.11.07
(H-25-⑷)
クオンタム・エンターテイメント株式会社(以下、「被告」という)は、吉本興業株式会社(以下、「旧吉本」という)の株式について公開買付けを行い、旧吉本の8割を超える株式を取得し、平成22年1月28日、旧吉本の臨時株主総会において旧吉本株式(普通株式)を全部取得条項付種類株式とする旨の決議を成立させた(以下、「本件株主総会決議」という)。その後、被告と旧吉本は、平成22年4月19日、被告を吸収合併存続会社、旧吉本を吸収合併消滅会社、効力発生日を同年6月1日とする吸収合併契約を締結し、同日、旧吉本は被告に吸収合併された(以下、「本件吸収合併」という。なお、被告は合併後に「吉本興業株式会社」に商号変更)。
原告らは、旧吉本の株主であるところ、平成21年10月19日(本件株主総会決議の前)、被告、旧吉本及び両者の取締役らに対し、全部取得条項付種類株式に関する議案を株主総会に付議することの差止めと、慰謝料の支払いを求める訴訟を提起した(差止め請求は後日取下げ)。
また、原告らは、平成22年4月15日、旧吉本に対し、本件株主総会決議の無効確認及び取消訴訟を提起した(本件吸収合併後、被告が旧吉本を訴訟承継)。
なお、原告らは、本件吸収合併に対する無効確認の訴えは提起していない。
ア 株主の地位を失った者による株主総会決議無効及び取消しの訴えの可否
全部取得条項付種類株式に関する株主総会決議の無効確認(以下、取消しの場合を含めて「無効確認等」という。)判決が確定すると、株主たる地位を奪われた者の地位を回復させ、これを内容とする定款変更等も無効となる。したがって、全部取得条項付種類株式の取得によって株主たる地位を奪われた者には、基本的に株主総会決議無効確認等の訴えを提起する訴えの利益がある。
しかし、本件では、本件吸収合併に対する合併無効の訴えが法定の期間内に提起されていない。したがって、この吸収合併は、もはやその効力を争うことはできず、有効な合併として扱われるべきことが対世的に確定している(会社法828条、838条参照)。すなわち、本件吸収合併により、旧吉本が解散したことが対世的に確定しており、原告らは、もはや株主たる地位の前提となる旧吉本の消滅を争うことができないのである。
そうすると、本件株主総会決議の無効を確認したとしても、旧吉本が消滅したことは覆らず、原告らには、旧吉本の株主の地位や合併契約における請求権等、対世的に確認すベき権利、地位がないことに帰する(東京高判平成22年7月7日・判時2095号128頁参照)。
株主総会決議無効確認等の訴えにおいても、原告らの具体的な権利又は法的地位を保護するという確認等の訴えの必要性がなければならず、これを離れて株主総会決議無効確認等の訴えの利益があるということはできない。
したがって、本件株主総会決議の無効確認等を求める訴えは、訴えの利益を欠くものとして不適法である。