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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例株主、取締役の地位の喪失について争われた事例(7件)一覧 > 保全抗告審で取締役の地位に関する株主総会決議について取消原因があるとされた場合における決議の効停止の仮処分決定が相当とされた事案(名古屋高決平25・6・10 判例時報№2216・117)
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保全抗告審で取締役の地位に関する株主総会決議について取消原因があるとされた場合における決議の効停止の仮処分決定が相当とされた事案(名古屋高決平25・6・10 判例時報№2216・117)

2023.10.26

(H27-⑹)

 ① 事案の概要

 原告は、取締役会及び監査役会設置会社である被告の取締役の地位にあり、その任期は平成24年4月1日から平成25年3月31日までの事業年度に関する定時株主総会の終結時までであった。被告の代表取締役は、平成24年9月29日付招集通知を発し、同年10月7日を開催日とする臨時株主総会を招集したところ、かかる通知には、決議事項として取締役の解任の件及び同選任の件との記載が為されていたが、解任対象の取締役は明記されていなかった。被告は、同日株主総会を開催し、原告を取締役から解任する旨の決議を行った。

 これに対し、原告は、以下の事実が株主総会決議取消事由に該当すると主張し、解任決議の効力を停止する旨の仮処分命令の申立てを行った。①被告は取締役会設置会社であるのに株主総会の招集について取締役会の決議を欠くこと、②招集通知には解任対象の取締役の記載がなく、目的事項の記載を欠くものであったこと、③株主総会において原告の解任理由について質問があったにもかかわらずこれに答えておらず、取締役の説明義務違反があること。

 名古屋地裁は原告の申立てを相当と認め、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの解任決議の効力停止の仮処分を発令したところ、被告は、これを不服として保全異議を申し立てた。しかし、原決定が上記仮処分を認可したため、被告は、名古屋高裁に保全抗告を申し立てた。

② 判決要旨

ア 被保全権利の有無

 (ア) 招集決議の欠缺について

 本件総会の招集に当たり、抗告人において取締役会の決議がされ、その日時・場所が代表取締役に一任された事実の疎明がないことは、原決定のとおりであるから、これを引用する。

 この点、抗告人は、従前、抗告人の株主総会の具体的な日時・場所は代表取締役に一任される運用が続いていたことが考慮されるべきである旨主張する。

 しかし、本件総会は、抗告人の代表取締役が、平成24年7月10日、昭和53年以来代表者を務めていたD(相手方の実兄)から、相手方の甥であるAに交代した後、わずか3か月弱で開催されたもので、同族会社である抗告人の経営を巡って、親族間で新たな利害対立や経営方針についての意見の相違が生じ得る状況にあったといえるし、実際にも、昭和48年以来取締役を務めていた相手方の解任が諮られるなど、そこで決議された内容も関係者にとって重要なものであったことを考慮すると、仮に抗告人の株主総会に係る従前の運用が主張のとおりだとしても、これをもって、本件総会の招集に係る手続的瑕疵が不存在ないし治癒されたと評価することはできない。以上の判断に反する抗告人の主張はいずれも採用できない。

 (イ) 解任取締役の特定について

 また、本件決議は実質的に抗告人側提案に基づいて行われたと評価すべきところ、本件総会の招集に当たり、取締役解任を目的とするとの取締役会の決議がされておらず、その招集通知が目的事項(解任取締役の氏名)の記載を欠くものであり、本件決議が目的事項以外について行われたものであることは、原決定のとおりであるから、これを引用する。

 この点、抗告人は、会社法施行規則78条が、取締役が取締役の解任に関する議案を提出する場合には、株主総会参考書類には対象取締役の氏名を記載しなければならないと規定していることを指摘して、対象取締役の氏名は議案であって、議題の一部ではないと主張する。

 しかし、上記規定は、株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができること(書面による議決権の行使)を定めた場合において、株主総会招集通知に際して交付すべき書類について定めたものであり(会社法301条1項、同法施行規則65条)、それ以外の場合において、対象となる取締役の氏名を明示する必要がないことを示すものとはいえない。むしろ、取締役の解任は、必然的に、特定の取締役についての決議となるから(たとえ取締役全員を解任する場合であっても、解任対象となる取締役が特定されていることには変わりがない。)、特段の事情がない限り、あらかじめ対象となる取締役を明示しておく必要があるというべきである。

 以上の判断に反する抗告人の主張は、いずれも採用できない。

 (ウ) まとめ

 以上のとおりであるから、その余の取消事由の有無について判断するまでもなく、本件決議は違法(会社法298条1項、4項違反、同法299条4項違反)であり、相手方はその取消請求権(被保全権利)を有する。

イ 裁量棄却の要否

 本件総会に関しては、前記のような手続違背があると一応認められるところ、この違法が重大でないとも、本件決議に影響を及ぼさなかったともいえないことは、原決定のとおりであるから、これを引用する。抗告人の主張は、いずれも同判断を覆すものではない。

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