


2025.09.18
亡Aは生前Y社の株式を65%保有していたが、養子であるX₁及びX₂にそれぞれ32.5%ずつ同株式を贈与又は遺贈した。
Xらは、Y社に対し、自身らが株主であることの確認と、亡Aが存命中である令和元年10月に行われたY社の取締役会及び監査役の廃止ならびにY社株式の譲渡承認機関をY社とすることの株趣旨総会決議(以下「本件各決議」という。)の不存在確認を求めて提訴した。
本判決は、本件の争点を次の3つとした上で、Xらの請求をいずれも認容した。
(争点1)亡Aは、平成17年頃、Xらに、それぞれYの株式3万1200株を譲渡したか。(株式譲渡の意思表示の有無)
(争点2)亡Aは、本件遺言により、Xらに対し、それぞれYの株式3万1200株を遺贈したか。(株式遺贈の有無)
(争点3)本件各決議は実際にされたといえるか。(本件各決議の有無)
2 争点1(株式譲渡の意思表示の有無)について
⑴ Xらの供述
Xらは、本件の証拠調べにおいて、要旨次のとおり供述した(中略)。
平成17年の秋頃、亡Aの自宅にXらが呼び出され、リビングで、いつもの世間話等をしたあと、亡AがテーブルにA4の紙を4枚並べて置き、株式をXらにやると言った。Xらの姉たちには不動産(家)をやっているので、Xらには株式をやる、会社は株主のものなので、自分の会社だと思って仕事に励むようにと述べた。
⑵ 本件贈与の意思表示の有無について
ア 本件贈与の意思表示については、これを直接の内容とする文書が作成されておらず、Xらの主張によっても、口頭によるものである。しかも、(中略)、Yの経営は専らY代表者に任され、(中略)、平成17年に本件贈与の意思表示がされたとされる後も、XらはYに対し株主としての行動を示しておらず、Yの株主総会が現実に開かれていないことにも何らの反応も示していない。(中略)、Xらは、P社及びQ社の経営を任されており、Yの経営にはほとんど関与していなかったといえる。
イ しかしながら、(中略)、Yにおいては、平成18年以降、亡Aの指示により、本件株主構成記載をするようになり、その後も多くの場面で繰り返し表示してきた。亡Aが従前Yの株式を全部保有していたことは争いがなく、Y代表者(乙山冬夫)においてもそのことは認識していたのであって、その亡Aから、株主構成について指示を受けて本件株主構成記載をしたことは、会社として、株主の異動があったことを認識し、これを表示したものというべきである。(中略)Yにおいては株券が発行されておらず、会社法所定の要件を満たす株主名簿を会社が整備したと認めるに足りる証拠もなく、Yの会社としての対応としては、本件株主構成記載が対外的に示された株主構成であるというほかない(そうであるからこそ、(中略)、Y代表者が本件株主構成記載を前提とした対応を行ったり、亡Aの相続税申告においても、亡AがYの株式を全部保有していたとする単純な申告をすることができなかったものといえる。)。亡A以外の者が本件株主構成記載を指示したとしても、Yがこれに応じるとは考え難い。そして、亡Aがこのような指示をしたことは、本件贈与の意思表示をしたことを十分基礎づける。この点、平成16年11月22日付けの本件遺言において、「株式の情」という表現の意図するところが不明瞭であるとしても、「会社も引つぎ」との記載もあり(中略)、亡AがXらにYの持分(株式)を相続させたいとの意図を有していたことがうかがわれた。これを平成17年に至り生前に実現させたものとして矛盾がない。
身分関係についてみても、(中略)、亡Aは、平成18年、Xらと養子縁組を締結しており、このことも、亡AとXらとの関係がこのころ法的に変化したことがみてとれる。
さらに、(中略)、丙川も、亡Aから、一部の株式を保有させるとの発言を聞いている。
ウ このように、本件株主構成記載及びこれが亡Aの指示によって記載されたものであること、Xらの供述及び本件遺言の記載を総合すると、亡Aは、平成17年頃、本件贈与の意思表示をしたものと認めるのが相当である。
Yは、本件株主構成記載は名義上のものであると述べるが、亡Aが平成18年の段階でいわゆる名義株を使用する理由は見当たらず、本件株主構成記載が単なる事実上のものであるとはいえない。XらがYの経営に携わっていなくても、取締役に就任しなくても、株主たり得るのであって、この点のYの主張を採用することはできない。本件贈与に係る贈与税が申告されていないとしても、この事実から本件贈与の意思表示があったといえないということはできない。
したがって、この点のXらの主張は、理由がある。
3 争点2(本件遺言による株式遺贈の有無)について
この争点については、判断する必要がない。
4 争点3(本件各決議の有無)について
Yは、本件各決議として、亡Aの同意によって本件各決議が適法にされたものと同視できるというが、(中略)、平成18年以降Xらが一部の株式を保有し、(中略)その割合は全体の65%に及ぶものであるから、亡Aの同意があったからといって、本件各決議があったということはできない。
ここで、(中略)、Xらは、Yに対し、従前から株主としての行動を示しておらず、実質的には、Yの支配をXら及びその他株主のために亡Aが行っており、Xらを含めた株主もこの構造を容認してきたものであるから、従前のYの経営は、実質的には株主の意図に基づいて行われてきたものというべきである。
しかしながら、(中略)、平成29年以降、亡Aは、認知症の傾向を有しており、(中略)Yの経営から遠ざかりつつあった亡Aの状況を踏まえ、さらに、本件各決議がYの組織構造を法的に変更する内容を有することからすると、この時期においては、亡Aの同意のみによって、他の株主の意思確認が代替されたとまでいうことはできない。
したがって、この点のXらの主張は、理由がある。