
2023.10.25
(H29-⑹)
X₁及びX₂は、X₁が代表取締役を務める会社が株式会社MIRAIシステム(以下「被告」という)に対して出資をすることと引き換えに、被告の取締役に就任した。しかしながら、その後、被告の資金繰りの悪化や被告代表者Aによる不適切な経理処理が行われたこと等により、原告ら及びAとの関係が悪化し、原告らは、被告との関係を解消すべく、Aとの間で交渉を続けていた。
このような中、原告らは、被告から平成24年11月以降の報酬の支払いを受けることができなかったとして、被告に対し、同月分から平成26年1月分までの役員報酬の支払い等を求めて提訴した。
本件では、被告定款には役員報酬の金額に関する定めはなく、この点に関する株主総会決議も為されていなかったことから、原告らの報酬請求権が発生しているか否かが問題となった。
被告の定款に取締役の報酬の金額の定めがないことは、前記認定のとおりであり、被告において原告らに対する役員報酬の支払について株主総会の決議がされたことについては、これを示す議事録や株主に対する招集通知等の客観的な証拠はなく、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
しかし、会社法361条1項の趣旨は、取締役の報酬の支払額、具体的算定方法や具体的内容について、取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するために、これを定款又は株主総会の決議で定めることとし、株主の自主的な判断に委ねることにした点にあるから、株主総会の決議を経ないで取締役に対する役員報酬等が支払われた場合であっても、株主総会の決議事項について株主総会に代わり意思決定をする等実質的に株主権を行使して会社を運営する株主がおり、その株主によって取締役に対する報酬の支払が決定された場合には、上記趣旨を全うすることができるから、株主総会の決議を経た場合と同視できるといえ、当該役員報酬の支払は適法になるというべきである。
そこで、このような観点から、原告らに対する報酬の支払について、定款の規定及び株主総会の決議に代わる全株主の同意があったといえるかについて、検討する。
前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、原告らが被告に対して出資をした当時の被告の株主構成は、Aが過半数を超える株式を保有し、その他の株主は、被告の非常勤の取締役と従業員のみであり、実質的にはAの意向に従ってあらゆる株主総会の決議事項について決定することが可能な構成となっていたこと、被告の株主から株主総会の不開催や役員報酬の支払について異議が述べられた形跡がないこと、Aも被告から役員報酬を受領しているところ、被告はAに対して役員報酬の返還を請求していないことが認められ、これらのことからすると、被告においては、株主総会の決議事項がすべてAの意思によって決定され、A以外の株主は、株主総会の不開催にも異議を述べず、経営に関心を持たない株主であり、Aに対して株主総会の決議事項の決定を委ねていたものであって、役員報酬の支払及びその額の決定についても同様であったと推認することができる。
そこで、Aが被告から原告らに対する役員報酬の支払及びその額を決定したかについて検討する。
前記認定事実によれば、Aは、被告から原告らに対する役員報酬の支払とその額について、遅くとも平成22年頃までには認識していたにもかかわらず、異議を述べなかったものである。
そして、前記認定事実によれば、原告らは、被告の取締役に就任して以降、被告の預金口座からの振込送金の明細や経理書類一式、月次試算表を被告に送付し、平成24年4月頃からは原告らの役員報酬を含む全ての給与振込額等を被告宛てに報告し、毎決算期にはAと決算内容について打合せをする等していたのであるから、Aは、被告による原告らに対する役員報酬の支払及びその額を認識し、これに異議がある場合にはその申出をする機会が十分にあったにもかかわらず、本件本訴が提起されるまで、被告から原告らに対する役員報酬の支払やその額について異議を述べた形跡はない。
このようなAの態度からすれば、Aは、被告が原告らに対して(中略)役員報酬を支払うことに同意していたものというべきである。