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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例訴えの利益の有無が争われた事例(4件)一覧 > 株主総会決議の不存在確認に関して訴えの利益が否定された事例(東京地判令和3・1・25 金融・商事判例№1615・48)
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株主総会決議の不存在確認に関して訴えの利益が否定された事例(東京地判令和3・1・25 金融・商事判例№1615・48)

2023.10.18

(R4-⑶)

① 事案の概要 

   平成29年10月10日、Yは、臨時株主総会(以下「平成29年株主総会」という)を開催し、同総会において、Aを取締役及び代表取締役に選任する旨の議案が出席株主の全会一致によって可決された(以下「平成29年株主総会決議」という)。

   その後、平成31年3月25日、Yは再び臨時株主総会を開催し(以下「平成31年株主総会」という)、AのFに対する借受金返還債務(債権総額4250万円)を担保するため、YがFとの間で抵当権設定契約(以下「本件物上保証契約」という)を締結することを決議した(以下「平成31年株主総会決議」という)。

   なお、平成31年株主総会の開催に際し、Yは、Xに対して招集通知を発せず、Xはこれに出席しなかった。また、同通知には、開催場所として「東京都千代田区・・・(筆者注。住所の詳細は省略)」と記載されていたが、同総会の議事録には、開催場所が「Y本店」と記載されていた。

   令和元年8月23日、Yの株主であるBは、X及びAの双方に臨時株主総会を開催するよう請求した上で、裁判所に対して株主総会招集許可を申し立てたところ、裁判所はこれを認め、令和元年12月25日、Yの臨時株主総会が開催された(以下「令和元年株主総会」という)。同総会では、B及びCをYの取締役に選任する旨の決議(以下「令和元年株主総会決議」という)がされた。

   令和2年5月2日、Bが招集手続を取り、Yの臨時株主総会が開催された(以下「令和2年株主総会」という)。同総会においては、本件物上保証契約を締結することを承認する決議(すなわち、平成31年株主総会決議を追認する決議。以下「令和2年株主総会決議」という)がされた。

   こうした中、Xが、平成29年株主総会決議と平成31年株主総会決議の取消しを求めて提訴したが、原審がこれらをいずれも却下したため、Xがこれを不服として控訴した。

② 判決要旨 

(控訴審判示)
3 本案前の争点(訴えの利益)について

 ⑴ 株式会社において、取締役等を選任する選考する株主総会の決議が存在するものとはいえない場合においては、その総会で選任されたと称する取締役によって構成される取締役会は、正当な取締役会とはいえず、かつ同取締役会で選任された代表取締役が少数した後の株主総会において新たに取締役を選任する決議がされたとしても、その決議はいわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り、法律上存在しないものといわざるを得ず、この瑕疵が継続する限り、以後の株主総会において新たに取締役を選任することはできない(最高裁昭和60年(オ)第1529号平成2年4月17日第三小法廷判決・民集44巻3号526頁)のであり、このような事情の下で瑕疵が継続すると主張されている場合においては、後行決議の存否を決するためには先行決議の存否が先決問題となり、その判断が不可欠である。そして、先行決議と後行決議がこのような関係にある場合において、先行決議の不存在確認を求める訴えに後行決議の不存在確認を求める訴えが併合されているときは、後者について確認の利益があることはもとより、前者についても、民訴法145条1項の包囲に照らし、当然に確認の利益が存するものとして、決議の存否の判断に既判力を及ぼし、紛争の根源を断つことができるものと解すべきである(最高裁昭和10年(オ)第1183号同11年3月25日第1小法廷判決・民集53巻3号580頁、最高裁平成31年(受)第558号令和2年9月3日第一小法廷判決・民集74巻6号1557頁参照)。

(中略)

   
 令和元年株主総会の招集は適法にされたものと事実上推定され、Aは第1事件の結果により取締役ではないとされる可能性はあるが、少なくとも、B及びCは、取締役として有効に選任されたものとみることができる。
   確かに、取締役であるXは上記互選の場におらず、互選をしていないとみるほかはないが、仮にXが上記互選の場に参加し、B以外の者を選んだとしても、多数決の結果、上記互選結果は動かないことになる(なお、互選については特段協議を要する者でないことは文理上明らかである。)。したがって、Xが互選をしていないことは、Bの代表取締役就任の有効性を左右しないというべきである。    
 (中略)BがYの代表取締役として、令和2年株主総会を招集したことは有効であると認められ、他に令和2年株主総会決議によって、AがYの代表取締役としてした行為も全て追認されているから、(中略)Yが目的とした可能性がある第2事件取消の利益はこれによって失われたとみるほかなく、また、第1事件についても、もはや審理をする実益はないと認めることが相当である。

(原審判示)
2 本案前の争点(訴えの利益について)について
 ⑴ 平成29年株主総会決議の不存在確認を求める訴えの利益について

 ア 取締役の員数の下限について定款において定められていない特例有限会社において、取締役兼代表取締役1名が在任中、新たに取締役選任の株主総会決議がされ、当該株主総会決議に係る不存在の訴えの係属中に、上記決議に基づいて選任された取締役が退任し、その結果、不存在を求める選任決議に基づく取締役がもはや現存しなくなったときは、特別の事情のないかぎり、上記決議不存在の訴えの利益は欠くに至ったものと解することが相当である。(最高裁昭和45年4月2日第一小法廷判決・民集24巻4号223頁参照)
  これを本件についてみるに、特例有限会社であるYにおいて、亡D氏の死亡によってXが唯一の取締役となり、それに伴い、Y定款15条の規定に則りXが取締役兼代表取締役に在任中、平成29年株主総会決議に基づいてYの代表取締役及び取締役に選任されたB氏は、同決議の不存在確認を求める第1事件係属中である令和2年3月1日にその職を辞任しており、その結果、平成29年株主総会決議に基づく取締役が現存しなくなっている(中略)。そうすると、特段の事情が認められない限り、平成29年株主総会決議の不存在の確認を求める訴えの利益は欠けるに至ったというべきである。

 イ Xは、平成29年株主総会決議の不存在を確認する効果として、B氏が代表取締役として権限なく招集手続を取った平成31年株主総会における平成31年株主総会決議の取消しが認められることをもって、上記特段の事情がある旨主張する。
 そこで検討するに、確かに、先行する株主総会における取締役選任決議が存在するものとはいえない場合においては、その総会で選任されたと称する取締役によって構成される取締役会の招集決定に基づき当該取締役会で選任された代表取締役が招集した後の株主総会において新たに取締役を選任する決議がされたとしても、その決議は、いわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り、法律上存在しないものといわざるを得ず、この瑕疵が継続する限り、以後の株主総会において新たに取締役を選任することはできないこととなるから、上記のような事情の下で瑕疵が継続すると主張されている場合においては、後行決議の存否を決するためには先行決議の存否が先決問題となり、先行決議の不存在確認を求める訴えの利益は欠けることがないものと解すべきといい得る。(最高裁平成11年3月25日第一小法廷判決・民集53巻3号580頁及び最高裁平成2年4月17日第三小法廷判決・民集44巻3号526頁参照)
これを本件についてみるに、平成31年株主総会は、平成29年株主総会決議によって取締役及び代表取締役に選任されたB氏によって招集手続が取られ、かつ、平成31年株主総会に株主であるXは出席していないから(中略)、平成29年株主総会決議の存否は、平成31年株主総会決議の招集手続に係る取消しの瑕疵の有無に関し、先決問題になるようにも考えられる。
 しかしながら、平成31年株主総会決議は令和2年株主総会決議によって追認されているところ(中略)、仮に、平成31年株主総会決議を取り消したとしても、その判決の確定により、令和2年株主総会決議が平成31年株主総会決議に代わってその効力を生ずることになるから、平成31年株主総会決議の取消しを求める実益はないというべきである(最高裁平成4年10月29日第一小法廷判決・民集46巻7号2580頁参照)。そして、他に、本件全証拠に照らしても、平成31年株主総会決議を取り消すべき特別の事情を認めるには足りないから、結局のところ、平成31年株主総会決議の取消しを求める訴えの利益は失われたというべきであって、平成31年株主総会決議の取消事由の存否の判断のために平成29年株主総会決議の不存在確認を求める訴えの利益はないというほかなく、Xの上記主張は採用することができない。
 この点、Xは、B氏が取締役及び代表取締役として出席したことによって令和元年株主総会決議が不存在となると主張した上で、本件選定手続は無効というほかないから、代表取締役の地位につき適法な互選手続を欠いたY代表者によって招集された令和2年株主総会決議における令和2年株主総会決議は不存在である旨主張する。しかし、令和元年株主総会は、裁判所の株主総会開催招集許可を経て、株主であるY代表者が招集手続を取って開催されたものであり(中略)、当日もY代表者が唯一の出席株主として自らを議長に選任して、議事を採り行っていること(中略)に照らしても、B氏が出席したことのみをもって令和元年株主総会決議を不存在ということはできないから、Xの上記主張を採用することはできない。また、Xは、本件選定手続にB氏が関与したことをもって、かかる手続が無効となる旨主張するが、Y定款第15条1項及び2項は、Yの代表取締役を取締役の互選によって定めるものとしているところ(中略)、その互選手続に関する具体の定めはY定款に置かれていないから、かかる互選が全取締役を参加者とする会議体においてなされていたものではないとしても、このことをもって、本件選定手続が法令・定款に反したものということはできない。そうすると、仮に、平成29年株主総会決議が不存在というべきであったとしても、かかる場合におけるYの取締役であるX、Y代表者及びC氏の3名のうち、この過半数を超える2名に当たるY代表者とC氏がY代表者を代表取締役に選定するとの意思を表示したのであれば、Y代表者は適法にYの代表取締役に選定されたものというほかない。この結論は、Y代表者及びC氏が上記意思を表示した際に、B氏が同席していたことによって直ちに左右されることはないというべきであるから、Xの上記主張を採用することはできない。
 さらに、Xは、招集通知の開催場所と実際の開催場所が異なることなどの招集手続及び決議内容の方法に著しい瑕疵が認められる平成31年株主総会決議を追認することはできないとも主張するが、その決議内容が株主総会の決議する範囲内にあり、後行の株主総会決議によって遡及効を付与し得るものであるならば、適法な手続に則り、従前の株主総会で決議された議案について再度株主総会においてこれを審議して追認することが妨げられるとする理由はないと思料されるから、Xの主張を採用することはできない。

 ウ また、Xは、平成29年株主総会決議の不存在が確認される効果として、令和元年株主総会決議に則りB氏が取ったYの役員変更登記申請手続の適法性の判断をなし得るなどとして、平成29年株主総会決議の不存在確認を求める訴えの利益が存する旨主張する。しかし、上記役員変更登記に係る抹消登記手続を求める上で、B氏が代表取締役の地位にないまま上記役員変更登記申請手続を取ったことを確認することは法律上必要とされておらず、また、B氏が代表取締役の地位にないままに上記役員変更登記申請手続を取ったことによって、直ちに上記抹消登記手続請求が認められるということもできないことに照らせば、上記役員変更登記に係る抹消登記手続を求めることを理由に平成29年株主総会決議の不存在を求める訴えの利益があるということはできない

 エ よって、平成29年株主総会決議の不存在確認を求める訴えの利益は、B氏が取締役兼代表取締役を辞任したことによって、失われたものというべきである。

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