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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例訴えの利益の有無が争われた事例(4件)一覧 > 株主総会決議の無効確認について訴えの利益が否定された事例(東京高判令3・5・13 金融・商事判例№1623・12)
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株主総会決議の無効確認について訴えの利益が否定された事例(東京高判令3・5・13 金融・商事判例№1623・12)

2023.10.18

(R4-⑸)

① 事案の概要 

   Xは、2019年2月15日以降、継続してYの株主の地位にあった者である。

   Yは、令和元年11月4日開催の臨時株主総会(以下「本件株主総会」という)を開催するに際し、招集通知に「本総会は、当日会場での投票による採決を予定しております。その場合、集計の都合上45分程度(前後する可能性があります。)の休憩をとることになりますので、あらかじめご了承下さい。」との記載をし、当日は投票用紙による採決を行った。

   Yが勧誘した180名の株主からの委任状において受任者として記載された者であるAは、自身の分も含めて181枚の投票用紙を有していたところ、いずれの投票用紙にも「否」の欄に丸印が書き込まれていた。最終的に、本件株主総会において上程された議案は全て否決された。

   こうしたところ、Xは、概要次の通り主張して総会決議の無効確認を求めた。

   総会検査役報告書によれば、議長が各議案の採決をする旨を宣言してから投票を締め切るまで4分程度であり、このような短時間で181枚の投票用紙に全て丸印を記入することは不可能であることから、事前に記入されていた可能性が高い。こうした事態は明らかに決議方法の法令違反(会社法違反)であるし、著しく不公正な決議方法である。また、1名の個人株主に事前に投票用紙を配布し、記入させることは、Aを不当に優遇したものであって公正な決議方法とはいえない。

② 判決要旨 

 1 当裁判所は、Xの主位的請求及び予備的請求に係る各訴えは、いずれも不適法でありこれを補正することができないため、これを却下するのが相当であると判断する。 

 ⑴ Xは、主位的請求及び予備的請求は、会社法830条に基づく無効確認・不存在確認を求めるものではなく、一般私法上の無効確認の訴えである旨主張するところ、まず、本件決議の無効確認(主位的請求)に係る訴えについては、(中略)Xの主張によっても訴えの利益があるということはできず、一件記録によっても訴えの利益を肯定すべき事情を認めることはできない。よって、主位的請求に係る訴えは、不適法である。

 

 ア Xは、本件決議の無効が確認されれば、取締役は、本件決議が否決されていないことを前提として行動することがその注意義務の内容となること、報酬を得ることにつき抑制的になること、Xは、本件決議が維持されると、取締役は上限まで取締役報酬を得てよいとの株主のお墨付きが得られたと理解すること、取締役の報酬総額の上限額については、確認の訴え以外の形式を選択する余地はないことから、本件決議の無効確認の利益が肯定される旨主張する。
 しかし、本件決議は提出された議案を否決するものであるから、それまでにあった法律状態はそのまま維持されているのであり、また、本件決議の無効が確認されたとしても、本件決議の対象議案が可決されたことにはならないのはもとより、これにより新たな法律関係が形成されるということにもならない。そうすると、本件決議の無効を確認することに法律的な意味はないといわざるを得ない。Xが上記のとおり確認の利益であるとして指摘するものは、いずれもXが期待する事実上の効果にすぎないというべきであって、これらをもって訴えの利益があるということはできない。

 イ Xは、一般私法上の無効確認の訴えにおいては、対世効がある会社法上の株主総会決議無効確認の訴えよりも確認の利益を認めるための要件は緩和されるべきである旨主張する。
 しかし、議案を否決する株主総会決議については、会社法上の株主総会決議の無効確認の訴えを提起することはできないと解されているのであるから(最高裁判所平成28年3月4日第二小法廷判決・民集70巻3号827頁)、この訴えは比較の対象とはならないのであって、Xの主張はその前提を欠くものである。そして、本件において、民事訴訟法の解釈として訴えの利益があるとはいえないことは既に述べたとおりである。

 ウ Xは、Yが訴えの利益がないと主張することは許されない旨主張する。
 しかし、Xがその根拠として主張する内容は、本件株主総会においては、投票のための時間までは投票用紙には何も記入しない旨の説明が事前にあったにもかかわらず、Yの従業員兼株主であり、180名の株主から代理人として指定された者であったCが、本件株主総会の開始前から、自己の分も含めて181枚の投票用紙の「否」の欄に丸印を書き込んだ上で投票をした、C以外の株主は、本件株主総会開始前に投票用紙を入手することはできなかった、Yの取締役が事前に投票用紙に記入をさせることで、従業員であるCの自由意思による投票を抑圧したなどというものであるところ、Xが主張する点からは、Yが訴えの利益がないと主張することが許されないとの結論を導くことはできないのであって、Xの上記主張は採用することができない。

   ⑵ 予備的請求に係る訴えは、事実の確認を求める訴えであるから、不適法である。

 2 また、株主総会決議は、組織上の運営に関する集団的な取決めであり、それを前提に様々な法律関係が多数形成されていくことになるものであって、関係する第三者に対しても効力を及ぼすという性質を有することから、その決議(株主総会における提案が可決された決議)の取消し、無効については、意思表示の効力等に関する一般法理ともいうべき民法の規定が直接適用されるのではなく、どのような理由及び手続でこれを主張することができるのかは、集団的・組織的な規制、すなわち会社法上の定めにより全て処理されることとされている(前掲最判平成28年3月4日の千葉勝美裁判官の補足意見参照)。このような会社法上の定めとして、訴訟提起の要件(830条及び831条)、被告適格(834条16号、17号)、裁判管轄(835条)、認容判決の対第三者効力(838条)などがあるが、これらの定めをすることにより株主総会決議によって形成された法律関係を画一的に確定させようとする会社法の趣旨からすると、仮に一般私法上の株主総会決議無効確認の訴えとして確認の利益があるような事例があるとしても、対象となる株主総会決議の内容が可決であれ、否決であれ、会社法の定める規制や効力のない一般私法上の訴えにより上記決議の瑕疵について争うことを否定しているものと解するのが相当である。

  
 なお、取締役会決議無効確認の訴えが認められているとしても、そのことは上記判断を左右するものではない。

   この観点からも、Xの本件各訴えは不適法である。

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