
2023.10.18
(R3-⑵)
X及びYは、それぞれAの株主であったB及びCの相続人である。
昭和47年、B、C及び同じくAの株主であったDは、「昭和47年5月のA取締役改選において、B、C、E(Dの代理人)を新取締役に選任し、今後は、B、C、Dの3名か、又はその指名を受けた者を取締役として互選する」という合意を締結した(以下「昭和47年合意」という)。
その後、Aの株主構成の変動に伴い、平成26年頃から、Y(C側)がX側(B側)をAの経営から排除するようになったことから、Xは、Yに対し、昭和47年合意には裁判による履行強制も可能な法的拘束力があり、その効力は相続人にも及ぶとして、Xを取締役に選任する旨の議決権行使をするよう求め、提訴した。
原審の東京地方裁判所は、Xの請求を棄却したため、Xがこれを不服として控訴した。
1 株主間契約の効力の判断方法
株主間契約に基づく当事者の主張については、事実認定の問題として、個別の株主間契約ごとに、会社法その他の関係法令の趣旨を考慮に入れて、前記の各要素を検討の上で契約当事者たる株主の合理的意思を探求し、当事者双方が法的効力を発生させる意思を有していたか、法的効力を伴わない紳士協定的なものとする意思を有していたにすぎないか、法的効力を発生させる意思を有していた場合における効力の内容・程度(損害賠償請求ができるにとどまるか、契約に沿った議決権行使の履行強制ができるか、契約に沿わない議決権行使により成立した株主総会決議の決議取消事由を肯定するか、契約の終期など)について、契約当事者の意思を事実認定した上で、当事者の主張する法的効果が肯定できるかどうかを判断していくことになる。
2 株主間契約締結の動機・目的
本件においては、(中略)昭和47年合意(中略)をした際の契約当事者に、株主間契約をめぐる法的状況の十分な知識とこれに基づく会社経営の企画力があったことを認めるに足りる証拠はない。(中略)昭和47年合意は、合意の内容にあいまいな点が残り(特に、特定人たる取締役候補者が死亡した場合の取扱い)、企業運営の方針や意図が必ずしも外部から明確に読み取れない。このような事情は、昭和47年合意の契約当事者が合意に強い法的効力(契約に沿った議決権行使の履行強制ができる効力)を付与する意思を有していなかったことを基礎付ける間接事実となる。
3 取締役候補者や契約当事者の属性
昭和47年合意(中略)も、特段の事情のない限り、株主間契約の契約当事者は、強い法的効力(契約に沿った議決権行使の履行強制ができる効力)を付与する意思を有していなかったか、次の直近の株主総会に限り強い法的効力(契約に沿った議決権行使の履行強制ができる効力)を付与する意思を有していたか、あるいは、何らかの法的な効力を付与する意思を全く有しておらず、次の直近の株主総会における各株主の議決権行使の内容を事前に事実上確認するだけのものにすぎなかったとみるのが自然である。
4 昭和47年合意のその後の運用
C氏は、(中略)昭和28年頃からC氏自身の本件会社取締役への選任を要求したが、A家側(第1審原告側)も、B家側も、これに反対してC氏の取締役就任は実現しなかった。このことは、A家側(第1審原告側)も、B家側も、(中略)合意について、次の直近の株主総会(中略)についての法的効力又は事実上の効力はともかく、その後の事業年度以降の株主総会における法的効力を付与する意思はなかったことを推認させるものである。
前記認定のとおり、昭和47年合意(中略)の内容に沿って、同年の本件会社の株主総会において、C氏の指名するDが取締役に選任された。
しかしながら、C氏は、昭和47年合意(中略)の存在に基づき、昭和55年以降、C氏の指名するSの本件会社取締役への選任を要求したが、A家側(第1審原告側)も、B家側も、これに反対した。その結果、C氏の最初の要求から10年以上もの間、Sの取締役就任は実現しなかった。Sの取締役就任が実現したのは、C氏が死亡する前年の平成8年のことであった。このような事情は、A家側(第1審原告側)も、B家側も、昭和47年合意について、次の直近の定時株主総会(昭和47年5月)における法的効力又は事実上の効力はともかく、更に将来の事業年度の株主総会における法的効力を付与する意思を有していなかったことを基礎付ける間接事実となる。
5 昭和47年合意文書のその余の記載内容
昭和47年合意が記載された「契約書」と題する文書(中略)の全体の内容は別紙1及び別紙2に記載のとおりである。本件会社の運営に関する事項の記載は、全体の中で僅かな分量しかない。記載事項の中心は、新築する本件共同ビル(bビル)のうちA家、B家及び本件会社がそれぞれ区分所有する部分の特定、ビルの設計その他の建築のための段取りが占めている。すなわち、A家、B家及び本件会社の三者から成る共同事業としての本件共同ビルの建築に関する三者相互間の記載が中心である。三者のうちの一当事者にすぎない本件会社内部の運営(取締役選任)に関する記載は、わずかである。また、末尾には、今回定めなかった事項は、その都度3名の取締役で協議して進める旨の記載がある。
本件会社の運営に関する事項に特化した文書が作成されていないことは、次の直近の定時株主総会(昭和47年5月)における法的効力又は事実上の効力はともかく、更に将来の事業年度の株主総会における法的効力を付与する意思を有していなかったことを基礎付ける間接事実となる。
6 株主間契約に関する学説・実務の変遷と昭和47年合意の締結時期
昭和47年合意(中略)は、昭和47年(1972年)に締結されたものである。株主間契約や議決権行使契約について規律する法令の定めは存在しない。
(中略)
株主間契約に基づき株主総会における議決権行使の履行強制ができるかどうかについては、当時の日本国内においては、ほとんど議論されていなかったのが実情であった。
(中略)
以上のような事情は、昭和47年合意(中略)の記載についても、その合意の時期(中略)を考慮すると、合意の当事者は、強い法的効力(契約に沿った議決権行使の履行強制をすることができる)を付与する意思を有していなかったことを基礎付ける間接事実となる。
(中略)
8 結論
昭和47年合意に基づき合意に沿った議決権行使の履行強制を求める第1審原告らの請求は、理由がないことに帰する。