
2023.11.07
(H-25⑶)
総合ビルセンター株式会社(以下、「総合ビル社」という)の株主または取締役が債権者となって、総合ビル社が行った普通株式2万株の新株発行について、株主総会決議を経ておらず無効であることを主張し、総合ビル社の定時株主総会において新株にかかる議決権の行使を許してはならない旨の仮処分命令の申立てをした。
新株発行に無効事由がある場合、新株無効の訴えを提起することになるが、仮に判決により新株の無効が認められても、同判決には遡及効が認められていないことから(会社法839条参照)、同判決確定までは無効事由のある新株でも有効に議決権を行使することができ、同判決確定まで仮処分などによって新株の議決権行使を禁止することはできないのではないかという問題がある。この問題について一つの見解を示した裁判例である。
ア 被保全権利について
全株式譲渡制限会社が第三者割当ての方法により募集株式を発行する場合において、募集事項を決定する株主総会決議(会社法199条1項、2項)の不存在は、当該募集株式の発行の無効事由と解するのが相当である。
これを本件についてみると、総合ビル社が全株式譲渡制限会社であること、本件新株発行については、募集事項を決定する株主総会決議が存在しないことが認められ、本件新株発行には無効事由があると認められる。
したがって、本件新株発行は無効であると認められ、被保全権利の疎明はある。
イ 保全の必要性について
株主総会における決議事項には、総合ビル社の経営権の所在に変動を生じさせる事項が含まれており、本案訴訟の判決の確定を待っていては、その間に同総会において本件新株発行に係る株式の議決権が行使されることにより、債権者らに著しい損害が生じること、債権者らに生ずる著しい損害を避けるため、本件仮処分を必要とすることが認められ、保全の必要性の疎明もある。