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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例議決権の行使について争われた事例(11件)一覧 > 種類株主総会について議決権行使の基準日設定公告を怠ったことにより、株主の議決権行使の機会が奪われたとして決議の取消請求が認容された事例(東京地判平26・4・17 資料版商事法務№362・174)(株式会社アムスク)
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種類株主総会について議決権行使の基準日設定公告を怠ったことにより、株主の議決権行使の機会が奪われたとして決議の取消請求が認容された事例(東京地判平26・4・17 資料版商事法務№362・174)(株式会社アムスク)

2023.10.26

(H27-⑸)

① 事案の概要

 株式会社アムスク(以下「被告」という。)は、会社の非公開化を目的として、全部取得条項付種類株式制度を利用して自社株式の全部を取得することを企図し、定時株主総会(以下「本件定時株主総会」という。)及び種類株主総会(以下「本件第2回種類株主総会」といい、本件定時株主総会と併せて「本件第2回株主総会」という。)を開催して所要の決議を経た(なお、本件定時株主総会においては、上記決議以外に剰余金の処分及び取締役・監査役の選任に係る決議も行われた)。

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 これに対し、X1が、本件第2回株主総会における全部取得条項付種類株式制度を利用したスクイズアウトを可決する旨の決議の取消しと、本件定時株主総会におけるAを社外取締役に選任する旨の決議の取消を求め、X2ないしX7が、本件第2回株主総会における決議の全部の取消しを求め、訴えを提起した。

② 決定要旨  

 ア 社外取締役として選任されたAが代表取締役の妻であることが招集通知に記載されていなかったことは施行規則74条4項6号に違反するかについて

(ア) 施行規則74条4項6号ハは、取締役が社外取締役の選任に関する議案を提出する場合において、候補者が社外取締役候補者であり、当該候補者が「当該株式会社又は当該株式会社の特定関係事業者の業務執行者の配偶者、三親等以内の親族その他これに準ずるものであること」を当該株式会社が知っているときは、その旨を株主総会参考書類に記載しなければならない旨を規定するところ、Aが社外取締役候補者であり、被告代表者栗原新太郎の妻であること、本件定時株主総会の参考書類にはAが栗原新太郎の配偶者である旨の記載がなかったことが認められ、また、被告はAが栗原新太郎の妻であることを知っていたというべきであるから、同参考書類の記載は、法301条、施行規則74条4項6号ハに違反する。

(イ) これに対し、被告は、Aが栗原新太郎の妻であるとの情報は、「重要でないもの」(施行規則74条4号6号ハかっこ書)に該当する旨主張するが、一般に、社外取締役候補者が代表取締役の妻であるという情報が重要でないものに該当するということはできないし、本件において、同情報が重要でないと断ずべき特別の事情も認められない。

   また、被告は、平成25年6月5日付プレスリリース資料において、Aが栗原新太郎の妻であると記載し、翌6日、同資料を被告のホームページに掲載したと主張するが、これらの記載ないし掲載行為は、いずれも、本件定時株主総会の参考書類の交付の前に、同参考書類の記載との関連性を明示することなくされたものであるから、これらの行為をもって同記載を訂正するものであるということもできない。

(ウ) そうすると、被告がした本件定時株主総会の招集の手続は、本件2号議案の決議のうちAを取締役に選任する旨の決議との関連において、法令に違反するといわざるを得ないから、同決議には取消事由(法831条1項1号)があるというべきである。

 イ 本件第2回種類株主総会において基準日設定広告をしなかったことは法124条に違反するかについて

(ア) 法124条は、その1項において、株式会社が一定の日(基準日)を定め、基準日において株主名簿に記載され又は記録されている株主(基準日株主)をその権利を行使することができる者と定めることができる旨を規定する(基準日制度)とともに、その3項本文において、株式会社が基準日を定めたときは、当該基準日の2週間前までに、当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告しなければならない旨を、同項ただし書きにおいて、定款に当該基準日及び当該権利の内容について定めがあるときはこの限りでない旨をそれぞれ規定する(基準日設定広告制度とその例外)。

   これらの規定の趣旨は、株主総会における議決権などの株主権を行使できる者は、本来は、当該権利行使時点の株主名簿上の株主であるが、株主が多数いる会社においては誰がその時点における株主かを把握することが容易ではないことから、会社が一定時点の株主名簿上の株主に権利を行使させるようにするための基準日制度を設ける一方、基準日設定広告制度を設けることにより、基準日及び基準日株主が行使できる権利の内容を株主に知らせ、株式を取得したにもかかわらず株主名簿の名義書換をしなていない株主に対し、権利行使のために株主名簿の名義書換をする機会を確保することにあるものと解される。

   このような基準日設定広告制度の趣旨、及び、法124条3項但し書が、定款に公告事項について定めがあるときは同項本文の2週間前までの公告を要しないと規定していることからすると、当該定款の定めは、基準日の2週間前までに存在することが必要であると解するのが相当である。そして、このことは、種類株主総会の議決権行使に係る基準日についても同様であると解される。

(イ) これを本件についてみるに、被告は、同種類株主総会の議決権行使に係る基準日を平成25年3月31日と定めるためには、その2週間前までに当該基準日を設定する旨の公告をする必要があったにもかかわらず、その旨の公告をしていなかったというのであるから、同種類株主総会の議決権行使に係る基準日の公告は法124条3項に違反するというほかはなく、当該基準日を前提として行われた同種類株主総会に係る招集の手続は法令に違反するものといわざるを得ない。したがって、同種株主総会議案の決議には取消事由(法831条1項1号)があるというべきである。

 ウ 原告ら主張の決議取消事由が存在する場合に裁量棄却をすべきかについて

(ア) 本件2号議案のうちAを取締役に選任する旨の決議の取消しの訴えに係る請求について

   本件2号議案について、本件招集通知に係る参考書類に記載された取締役候補者3名の名字は全て栗原であったこと、被告は、平成25年6月5日付けプレスリリース資料において、Aが栗原新太郎の妻であることを記載した上で、翌6日、同氏料を被告のホームページに掲載していたことが認められ、被告の株主は、B及びAが栗原新太郎と親族関係を有する可能性があることを推測することが可能であったのみならず、ホームページの記載から、Aが栗原新太郎の妻であるという情報を取得することも可能であったというべきであるから、本件招集通知に係る参考書類にAが栗原新太郎の配偶者である旨を記載しなかったとの事実は、瑕疵として重大ではないというべきである。そして、当該事実は、違反の程度が重大ではないことなどからすると、決議に影響を及ぼさないものであると認められる。したがって、本件2号議案(但し、Aを取締役に選任するとの部分に限る。)の取消の訴えに係る請求は裁量棄却されるべきである。

(イ) 本件第2回種類株主総会議案の決議の取消しの訴えに係る請求について

   本件において、平成25年3月31日より前に種類株主総会の権利行使に係る基準日を定めた規定が被告の定款に存在していたという事実が認められないこと、被告が本件第2回種類株主総会について議決権行使に係る基準日設定公告をしなかったことは前記認定・説示のとおりであるから、本件第2回種類株主総会において議決権を行使できるのは、本来、本件第2回種類株主総会時点で被告株式(本件種類株式)を保有していた者になるところ、これらの者全てに対して本件第2回種類株主総会に係る招集通知がされたことを認めるに足りる証拠はないから、被告は、これらの者の議決権行使の機会を奪ったものである。

   したがって、被告が本件第2回種類株主総会におついて議決権行使に係る基準日設定公告をしなかったことは、違反する事実が重大でないとは認められない。

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