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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例議決権の行使について争われた事例(11件)一覧 > 議決権行使が権利の濫用に該たるとして株主総会決議が無効ないし不存在であるとされた事例(長崎地判平27・11・9 金融法務事情№2037・70)
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議決権行使が権利の濫用に該たるとして株主総会決議が無効ないし不存在であるとされた事例(長崎地判平27・11・9 金融法務事情№2037・70)

2023.10.25

(H29-⑵)

① 事案の概要

 原告が女将を務め、旅館業を営むA社が、他の複数のホテルとともに整理回収機構の企業再生スキーム(以下「本件スキーム」という)による再生を図ることとなり、新たに設立された会社にA社の旅館事業が承継された。その後、複数の会社が設立され、本件スキームは順次各会社に引き継がれていくことになるが、最終的に本件スキームを担うこととなったY₁社の取締役に、原告、Y₂及びY₃が選任され、原告は代表取締役に就任した。

 しかしながら、その後複数回に亘ってY₁の株主総会が招集され、順次次の議案が可決された。

 即ち、原告をY₁の代表取締役から解任すること(以下「本件決議1」という)、Y₂を同社の代表取締役に選任すること(以下「本件決議2」という)、原告のY₁持株をスクイーズアウトすること(以下「本件決議3」という)、である。

 これに対し、原告は、本件決議1ないし同3の決議が無効であることの確認等を求めて提訴した。

② 決定要旨

 ⑵ 平成24年9月6日の本件決議1の効力について

 本件スキームの趣旨目的は、客観的に合理的かつ公平な方法により、旧経営者が家業として所有経営してきた○○地区の4ホテルを一体として再生し、最終的には各ホテルの旧経営者の所有経営に戻すことによって、○○地区の地域再生を図ることにあったことは明らかであり、そこには、条件付きの株式買戻権を付与された旧経営者は、株式買戻を保証されるものではないものの、客観的に合理的かつ公平な理由なくして株式買戻対象者の地位から外されることはないとの趣旨が含まれているものといえる。

 そして、本件スキームは、関係者全員の同意によって実施されたものであるところ、上記の趣旨目的がなければ、4ホテルが同意の上で参加して本件スキームが実施される(新会社が設立されたり、新会社と旧会社との間で吸収分割契約が締結されて旅館業等が承継されたりする)ことはなく、本件スキームの参加者(中略)は、その趣旨目的を容認した上で本件スキームに参加した(その趣旨目的を容認しなければ本件スキームへの参加を認められなかった)ものと認められるから、本件スキームの参加者の各種の権利行使には、上記の趣旨目的に沿ったものでなければならないという制約が内在しているというべきであり、それは本件スキームの参加者全員(中略)の間での黙示の合意でもあるというべきである。(中略)

 本件スキームの参加者の各種の権利行使には、上記の趣旨目的に沿ったものでなければならない(条件付きの株式買戻権を付与された旧経営者は、本件スキームの趣旨目的に照らして客観的に合理的かつ公平な理由なくして、株式買戻対象者(各ホテルの経営者である取締役)の地位から外されることはない)という制約が内在しているというべきであり、それは本件スキームの参加者全員の間での黙示の合意でもあるというべきである。

 本件決議1は、原告を代表取締役及び取締役から解任し、Y₂を代表取締役に選任して、Y₁社の経営をY₄(筆者注:被告Y₂が代表者を務める会社)に委ねることを目的として行われたものであることが明らかというべきである。

 そうであるところ、被告Y₂は被告Y₄社の代表取締役(中略)でもあるから、上記の取締役の会議は、特別の利害関係を有する者によって行われたものといわざるを得ない。(中略)

 本件スキームの趣旨目的ないし黙示の合意に基づく上記制約(本件スキームの趣旨目的に照らして客観的に合理的かつ公平な理由なくして、株式買戻対象者(各ホテルの経営者である取締役)の地位から外されることはないという制約)は、被告Y₁社の取締役の業務執行権としての議決権行使にも及ぶものであって、本来はこれに反する決議をすることはできないところ、客観的に合理的かつ公平な理由があったとは認められないことは後記のとおりであるから、被告Y₂(中略)の取締役としての上記議決権行使は、上記制約に反して、その権利を濫用したものというほかない。

 さらに、上記制約は、Y₁の株主全員及び取締役全員(中略)を含む本件スキームの参加者全員の間での黙示の合意でもあることに照らせば、上記制約違反は、Y₁の定款違反と同視し得るものでもあるというべきである。

 加えて、(中略)上記議決権行使及びその結果である上記決議は、本件スキームの根幹を破壊し、Y₁の設立存続目的や予定されていた所有経営形態それ自体を覆して、実質的に、Y₁の代表取締役に就任したY₂ら(中略)が、何らの制約もなく自由に経営にあたり、その株式も自由に処分できることを意味する(中略)ものであって、権利濫用の内容程度としても著しく不当なものといわざるを得ない。

 上記のとおり、特別利害関係人(中略)がした原告を代表取締役から解任する旨の決議は、本件スキームの趣旨目的ないし黙示の合意に基づく上記制約に反するもので、本来はすることができないものであり、定款違反と同視し得るものでもあるというのみならず、本件スキームの根幹を破壊し、Y₁の設立存続目的や予定されていた所有経営形態それ自体を覆すものであって、権利濫用の内容程度としても著しく不当なものであることなどに照らせば、上記決議は無効というべきであり、これを前提として併せて行われたY₂を代表取締役に選任する旨の決議も、同様に無効というべきである。

 ⑶ 平成24年9月22日の本件決議2の効力について

 これらの諸事情(代表権のない者が権利濫用にわたる招集をし、無効の指摘がされている中で、代表権のない者を議長として、特別利害関係人である一部の株主のみが参加して、権利濫用の内容程度としても著しく不当な、本来はできないはずのことを決議したこと)を勘案すれば、上記決議は、一部の取締役と一部の株主が勝手に会合して行ったものにすぎず、法的には株主総会決議とは評価し得ないものというべきであり、決議不存在というべきである。

 ⑷ 平成25年11月25日の本件決議3の効力について

 上記の株主総会決議(本件決議3)についても、代表権のない者が招集したものであることや、その招集自体も本件スキームの趣旨目的に反したものであること、代表権のない者を議長として行われたこと、そこでの支配株主による議決権行使及びその結果である上記決議も、本件スキームの趣旨目的に反したもので、本来はできないはずのものであることなどは、前記同様であるから、法的には上記決議も不存在というべきである。

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