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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例議決権の行使について争われた事例(11件)一覧 > 代理人弁護士による議決権行使を拒否したことを理由とする株主総会決議取消請求が認容された事例(東京地判令和3・11・25 判例タイムズ№1503・196)
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代理人弁護士による議決権行使を拒否したことを理由とする株主総会決議取消請求が認容された事例(東京地判令和3・11・25 判例タイムズ№1503・196)

2023.10.30

(R5-⑶)

① 事案の概要

 Y社は、会社法上の公開会社でない株式会社であり、定款において、株主総会における議決権行使の代理人資格を、Y社株主に限る旨の規定を設けている。

 こうしたところ、Y社の株主であるXは、同社の令和2年6月25日開催の定時株主総会(以下「本件総会」という)において、決算書類の承認等の決議(以下「本件各決議」という)を行うに当たり、代理人である弁護士Aによる議決権行使が認められなかったとして、本件各決議の取消を求めて提訴した。

② 判決要旨

 2 争点について 

 ⑴ 会社法310条1項は、株主は、代理人によってその議決権を行使することができると規定しているが、議決権を行使する代理人の資格を制限すべき合理的な理由がある場合に、定款の定めにより、相当と認められる程度の制限を加えることまでも禁止したものとは解されない(最高裁昭和40年(オ)第1206号同43年11月1日第二小法廷判決・民集22巻12号2402頁参照)。そこで、株式会社が定款をもって株主総会における議決権行使の代理人の資格を当該株式会社の株主に限る旨を定めた場合、その定款の定めは、株式会社の利益ひいては株主の共同の利益を保護する趣旨から、株主総会が株主以外の第三者により攪乱され株式会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されるおそれがあるようなときに、その定款の定めを理由に株主が当該第三者に議決権の代理行使をさせることを拒否することができることとする趣旨のものと解すべきである。そして、弁護士は、当事者その他関係人の依頼等により、一般の法律事務を行うことを職務とするところ(弁護士法3条1項)、相当高度の法律的素養を有するものであり(弁護士法2条、4条、5条参照)、その職務を執行するに当たり、委任契約から生ずる善管注意義務(民法644条)等を負うだけでなく、基本的人権を擁護し、社会正義を実現するとの使命に基づき(弁護士法1条1項)、当事者の利益を保護し、弁護士の信用、品位等を保持すること等が求められるものである(同法2条、3条、25条等参照)。このことに照らすと、株主が弁護士に議決権を代理行使させた場合、当該弁護士が当該株主の意図に反する行動をすることは、通常想定されないものというべきである。また、非公開会社においては、会社にとって好ましいと判断される株主によって構成されることが予定され、会社と対立する株主と他の株主との間で、株主総会の議案につき見解の対立を生じるなどしたときは、議決権の行使を委任するに足りる信頼関係が損なわれることも想定されるのであり、このことは当該非公開会社の株主が少なければ少ないほど妥当するというべきである。これらのことに照らすと、非公開会社が、あらかじめ株主の申出によりこのような弁護士による議決権の代理行使を認めるべきか否かを検討する機会を与えられ、前記のようなときに当たるとすべき事情が見当たらないにもかかわらず、上記定款の定めのみを理由にこれを拒否することができるとすれば、株主としての意見を株主総会の決議の上に十分に反映することができず、事実上議決権行使の機会を奪うに等しく、不当な結果をもたらすといわざるを得ない。

   そうすると、非公開会社が定款をもって株主総会における議決権行使の代理人の資格を当該非公開会社の株主に限る旨を定めた場合においても、株主が、当該非公開会社に対し、その代理人として弁護士を出席させ、当該弁護士に議決権を代理行使させる旨をあらかじめ申し出たときは、当該非公開会社が、その定款の定めを理由に、当該株主がその代理人として弁護士を出席させ、当該弁護士に議決権を代理行使させることを拒否することは、株主総会が当該弁護士により攪乱され当該非公開会社の株主の共同の利益が害されるおそれがあるなどの特段の事情のない限り、会社法310条1項に違反するというべきである。 

 ⑵ これを本件についてみるに、前提事実及び認定事実によれば、次の点を指摘することができる。

 ア Y社は、非公開会社であり(中略)、定款をもって議決権行使の代理人の資格をY社の株主に限る旨を定めているところ(中略。本件規定)、Xが、本件総会につき、Xは持病等が原因で出席できないことやXがX以外の株主と意見を異にしていること等を理由に、その代理人として弁護士Aを出席させ、弁護士Aに議決権を代理行使させる旨をあらかじめ申し出たにもかかわらず(中略)、本件規定を理由に、Xが本件総会に弁護士Aを代理人として出席させ、弁護士Aに議決権を代理行使させることを拒否したものである(中略)。

 イ Y社は、その株主(自己株式に関するものを除く。)がX、Xの兄(Y社の子会社の代表取締役)、A(Xの弟でY社の監査役)、取引関係者3名、従業員持株会の7名であるところ(中略)、平成31年3月総会の際には、これに先立ちXの長男からXの代理人となる旨等を伝えられていた(中略)が、Xの代理人である弁護士Aから事前の申出があったことを踏まえて、Xの代理人として弁護士Aの出席を認め、議案について質問をさせ、議決権の代理行使を認めており、議事進行の混乱等の事態は生じなかった(中略)。

    ところが、Y社は、令和元年6月総会の際には、Xの代理人である弁護士Aから事前の申出があったにもかかわらず、本件規定のみを理由にその出席を拒否しており(中略)、令和元年6月総会で審議されたXに対する退職慰労金贈呈の件については、出席株主4名の一致により否決されるに至った(中略)。

 ウ Xは、上記イのような事情を踏まえ、Y社に対し、本件総会の会日の約1週間前に、①X自身の出席が困難であること、②XとX以外の株主は意見を異にしていること等を理由に、本件総会にその代理人として弁護士Aを出席させ、弁護士Aに議決権を代理行使させる旨をあらかじめ申し出た上、更に上記①の事情を示す医師作成の診断書や本件委任状を送付した(中略)が、Y社は、本件総会の会日の前日に至って、本件規定のみを理由として弁護士Aの出席を拒否し、Aが自動車によりXの送迎を行うことを提案している旨を伝えるにとどまったのである(中略)。Xは、Y社に送付した医師作成の上記診断書の内容(中略)に照らすと、X自身の出席が困難である事情として、うつ病による判断能力の低下等や頻尿を主訴とする過活動膀胱を指摘していたのであり、これに対してY社がXに伝えた上記の提案は、Xの上記指摘に的確に対応してX自身の出席を可能とするものであったとはいえない。また、(中略)、本件委任状につき、代理人名欄及び日付欄の筆跡がXのものでないことをもって、直ちにX作成名義部分に明らかな疑義があるということもできない。

 エ これらの事情を総合すれば、Y社において、Xがその代理人として弁護士Aを出席させ、弁護士Aに議決権を代理行使させることを許容した場合に、弁護士Aが専らXの長男らの意向に基づいた言動に及ぶなどして本件総会を攪乱させY社の株主の共同の利益が害されるおそれがあるなどの特段の事情があったとはいえない。

 ⑶ 以上によれば、Y社が、本件総会につき、本件規定を理由に、Xがその代理人として弁護士Aを出席させ、弁護士Aに議決権を代理行使させることを拒否したことは、会社法310条1項に違反するものといわざるを得ない。

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