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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例議決権の行使について争われた事例(11件)一覧 > 白紙の投票用紙を賛成票として取り扱ったことを理由とする株式交換の仮の差止めを認めなかった事例(大阪高決令3・12・7 ジュリスト№1567・2)
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白紙の投票用紙を賛成票として取り扱ったことを理由とする株式交換の仮の差止めを認めなかった事例(大阪高決令3・12・7 ジュリスト№1567・2)

2023.10.18

(R4-⑿)

① 事案の概要 

   Y社は、A社及びB社との間で株式交換契約を締結し、同契約の承認の件(以下「本件議案」という)を目的とし、令和3年10月29日に臨時株主総会を開催した(以下「本件総会」という)。

   本件総会においては、株主に対して「賛成・反対・棄権のいずれにもご記入のない場合は、棄権として集計いたします」等と印字された投票用紙が配布された。また、議長及び事務局を担当した従業員は、投票用紙にマークを記入しないで提出した場合は「棄権」として扱う旨の説明を行い、同趣旨のアナウンスが複数回流された。

   こうした中、株主C社の代表取締役Dは、既に議決権行使書を発送していたにもかかわらず、「後で番号とかで突き合わせて分かるから、いいか」等と述べ、未記入の投票用紙(以下「本件投票用紙」という)を投票箱に投函した。

   その後、Dが既に議決権行使をしたにもかかわらず、白紙の投票用紙を投票箱に入れたなどと述べたことを受け、Yは、Cの議決権行使内容を「賛成」として取り扱うこととした。

   こうした取扱いを問題視したXは、本件株式交換には、承認決議に瑕疵がある等と主張して、株式交換差止め請求権を被保全権利として、本件各株式交換の仮の差止めを求めた。

   地方裁判所がこれを認めて仮処分決定を認可したので、Yがこれを不服として保全抗告したのが本件である。

② 決定要旨 

   一般に、投票用紙による投票という議決方式は、拍手や挙手といった議決方式と異なり、書面上に各投票者の投票内容を記載し、それを集計して議決結果を得るものとすることにより、予め定められたルールの下で各投票者の投票内容と議決要件の充足の有無を客観的に明確化するとともに、その恣意的な操作を防止し、もって株主意思を正確に反映しつつ議決の公正を確保することをその趣旨とするものであるということができ、特に投票用紙にマークシート方式を採用する場合には、投票者による誤記を極力少なくすることによって、上記の趣旨がより高度に確保されるものとなる。本件株主総会でも、議長は、採決に当たり、正確性を期するためにマークシート方式の投票用紙による投票を行う旨を告げており、上記と同様の趣旨でその議決方法が採用されたものと認められる。このことからすると、議長は、その採用した議決方法の趣旨に沿って各株主の投票内容を判定する責務があるから、各株主の投票内容については、投票用紙の記載・不記載や提出・不提出により客観的に判定することが第一義的に求められるというべきである。

   しかしながら、本件のような投票用紙による投票の方法によって株主がその意思を正確に表明し得るためには、投票のルールが予め周知され、そのルールを理解していることが必要であり、本件のように多数の一般の個人や法人が株主として参加する株主総会においては特にそのことが妥当する。そして、株主において、投票のあるルールについての認識が不足し、又は誤解しているために、自らの意思を表明するに当たりいかなる投票行動をとるべきか的確に判断できない状況が生じた場合には、その意思が正確に投票用紙に反映されない事態が生じることとなるから、そのような場合にまで投票用紙のみによって株主の投票内容を判定することは、かえって株主の意思を議決に正確に反映させるという投票制度を採用した趣旨に悖ることとなる。もっとも、そのような場合でも、議決方法として投票用紙による投票を採用した以上、そのもう一つの趣旨、すなわち、恣意的な操作を排除し、予め定められたルールに則ることによって議決の公正を確保するという趣旨は極力確保されるべきものであるといえるが、誤認した投票のルールが予め周知も説明もされておらず、株主の誤認がやむを得ないといえる場合で、投票用紙以外の事情を考慮することにより、その誤認のために投票時の株主の意思が投票用紙のみによる判定と異なっていたことが明確に認められ、恣意的な取扱いとなるおそれがない場合であれば、例外的な取扱いを認めたとしても上記趣旨に係る議決の公正を害するとはいえない。

   以上を考慮し、また、上記のとおり株主総会における議決権が個々の株主に認められた株主全体の意思決定に関わる最も基本的な権利で、株主による議決権の行使が株主総会に上程された議案に対する株主全体の意思決定に関わる株主の意見表明であることに照らすと、上記のように投票のルールの周知や説明がされておらず、そのために株主がこれを誤認したことがやむを得ないと認められる場合であって、投票用紙以外の事情をも考慮することにより、その誤認のために投票に込められた投票時の株主の意思が投票用紙と異なっていたことが明確に認められ、恣意的な取扱いとなるおそれがない場合には、株主総会の審議を適法かつ公正に行う職責を有するといえる議長において、これら投票用紙以外の事情をも考慮して認められるところにより株主の投票内容を把握することも許容されると解するのが相当であり、議決権行使によって表明される株主の賛否の意思を適切かつ正確に把握してこれを株主総会の議決に反映させるためには、むしろそうすることが求められているというべきである。

   (中略)本件総会で議決権行使の権限を与えられていたBが本件総会に出席して本件投票を行ったのであるから、委任状記載の本件議案に係る本件株主の賛成の意思は撤回されたものとみざるを得ない。

   (中略)Bは、本件総会における投票の際、本件株主による事前の議決権行使のとおり本件議案には賛成であるが、事前の議決権行使が撤回されておらず、効力を有すると誤認したことにより、本件投票時、二重投票を避ける趣旨で未記入のまま本件投票用紙を本件投票箱に入れたものと認められる。そして上記誤認に係る投票のルールは本件総会において予め周知も説明もされておらず、Bがこれを誤認したことはやむを得ないところであり、上記した投票用紙以外の事情を考慮すると、Bの誤認のために投票に込められた投票時の本件株主の意思(賛成)が投票用紙(棄権)と異なっていたと明確に認められ、投票後に意見を変更したものではないことも認められるから、これら投票用紙以外の事情をも考慮して認められるところにより、本件総会の議長において、Bによる本件株主の本件議案に係る投票を賛成の意思を表明したものとして把握し、賛成票として取り扱うことも、なお許容されるというべきであり、本件のような事実関係の下では、以上の事情が明確に認められるから、そのような取扱いをしても恣意的取扱いとなるおそれはないというべきである。

   (中略)本件総会の議長が本件株主の本件議案に係る投票を賛成として扱ったのは正当であり、したがって、これを前提とした本件議案に係る本件総会の決議は可決要件を満たし有効であって、上記決議の方法が法令に違反するとも、著しく不公正であるともいえない。結局、本件総会の上記決議が決議の方法が法令に違反し、かつ著しく不公正であるとの相手方の被保全権利の主張につき疎明があるとはいえず、保全の必要性を判断するまでもなく、相手方の本件申立ては理由がない。

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