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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例議決権の行使について争われた事例(15件)一覧 > 株式併合に係る株主総会決議後に株式を譲り受けた者は、会社法182条の4第2項2号の「議決権を行使することができない株主」に該当しないとされた事例(東京高決令4・6・17判タ1509・94)
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株式併合に係る株主総会決議後に株式を譲り受けた者は、会社法182条の4第2項2号の「議決権を行使することができない株主」に該当しないとされた事例(東京高決令4・6・17判タ1509・94)

2025.09.18

① 事案の概要

 C(以下「本件公開買付者」という。)は、Y社の株式を公開買付(以下「本件公開買付け」という。)により取得しようと考えたが、これによってY社株式の全部を取得できなかった場合には、全ての株式の取得を目的として株式併合を行う予定である旨公表していた。
 こうしたところ、本件公開買付けが実施されたが、Cは全Y社株式を取得することができなかったため、令和2年10月22日、Y社株主総会において、株式併合(以下「本件株式併合」という。)を行う旨の決議(以下「本件決議」という。)が行われた。
 Xは、本件決議後に、DからY社普通株式(以下「本件株式」という。)を譲り受けた者であるが、自らが会社法182条の4第2項2号所定の「当該株主総会において議決権を行使することができない株主」に該当するとして、本件株式につき、同法182条の5第2項に基づく買取価格の決定を求める申立てを行った。
 Y社は、同手続に利害関係人として参加したところ、原審は、Xが「当該株主総会において議決権を行使することができない株主」に該当しないとして、Xの申立てを却下したため、Xがこれを不服として控訴したのが本件である。
 

② 判決要旨

高裁は、基本的に原審の判決内容を是認して、これを引用・補正している。以下では、争点についての原審の判示を引用した上で、高裁の判示について引用する。

(原審の判示)

1 争点1(本件申立てが適法にされたか否か)について

 ⑴ この点、Xは、会社法182条の4第2項2号は、買取価格決定の申立てをすることができる株主について「当該株主総会において議決権を行使することができない株主」と規定しており、株式併合に係る株主総会決議前に株式を取得したことを要求していないと主張する。
 しかし、一株未満の端数が生ずる株式の併合がされる場合、株式併合に係る株主総会に先立って反対する旨を会社に通知し、かつ、当該株主総会において反対した株主又は当該株主総会において議決権を行使することができない株主(「反対株主」(会社法182条の4第2項))は、株式会社に対し自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができ、この株式買取請求を行った場合において、株式の価格の決定について、株式会社との間に協議が調わないときは、裁判所に対し価格の決定の申立てをすることができると規定されているところ(同法182条の4第1項、2項、182条の5第2項)、会社法182条の5第2項が買取価格決定の申立ての制度を設けた趣旨は、株式併合に係る株主総会決議により、その時点において当該株式併合により一株に満たない端数となる株式を保有する株主の意思にかかわらず、当該株式が一株に満たない端数となることから、そのような株主であって株式併合に不服がある者に対し適正な対価を得る機会を与えることにあると解される。そうすると、株式併合に係る株主総会決議により株式の数に一株に満たない端数が生じることが確定した後に株式を譲り受けた者は、同項による保護の対象として想定されていないと解するのが相当である。
 したがって、株式併合に係る株主総会決議後に株式を譲り受けた者は、買取価格決定の申立適格が認められる「当該株主総会において議決権を行使することができない株主」(会社法182条の4第2項2号)に当たらず、買取価格決定の申立てをすることはできないというべきである。
 前提事実(3)、(5)アによれば、Xは、本件決議後に本件株式を譲り受けた者であるから、本件株式について買取価格決定の申立てをすることができない。

 ⑵ また、Xは、株式併合に係る株主総会決議後に株式を取得した者が会社法182条の4第2項2号所定の株主に当たらないとしても、本件においては、これに当たると解すべき特段の事情がある旨を主張する。
 しかし、Dが本件決議に反対したこと、XがDの関係会社であること及びDからXに対する本件株式の譲渡の経緯についての疎明はない。また、本件においては、本件公開買付者及びAが、令和2年7月8日、本件公開買付けの実施と同時に、本件公開買付け後に予定されている株式併合により株式の数に一株に満たない端数が生じるときは、当該端数についても、本件公開買付価格に当該株主が所有していたY社株式の数を乗じた価格と同一となる金銭を交付する予定である旨が公表されていたのであるから、同日時点で本件株式をEの名義で保有していたDにおいて、同日以降、本件株式の譲受人が適法に本件株式併合に係る株式買取請求を行うことができる時期に、本件株式を譲渡し得たこと(中略)、Y社においては、株式買取請求者が、本件決議前から証券会社名義でY社株式を保有しており、本件決議後にこれを自己名義に変更した場合について、当該株式買取請求者が本件決議前から証券会社名義で当該株式を保有していた旨の証票資料を提出すれば、当該株主に株式買取請求権の行使を認め、買取価格に関する協議を実施する運用を行っていたのであるから、本件決議前からEの名義で本件株式を保有していたDにおいても、Y社の上記運用を確認した上で、自ら本件株式併合に係る株式買取請求を行い得たこと(中略)が認められる。そうだとすれば、D又はXにおいて適法に本件株式併合に係る株式買取請求権を行使することは、いずれにしても可能であったから、DからXに対する本件株式の譲渡の経緯についてXが主張するような事情があったとしても、本件決議後にY社株式を譲り受けたものの買取価格決定の申立てによる保護の対象とするのを相当とする特段の事情が存在するとは認められない。

2 小括

   したがって、Xは会社法182条の4第2項2号所定の「当該株主総会において議決権を行使することができない株主」に当たらないから、本件申立ては適法にされたものとは認められない。

(控訴審の判示)

 ⑴ 当裁判所も、Xの本件申立ては不適法であり却下されるべきであると判断する。その理由は、原決定の「理由」欄の第3の1及び2(中略)に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原決定を次のとおり補正する。

  ア 9頁18行目から10頁15行目までを次のとおり改める。
「しかし、本件においては、本件公開買付者及びAが、Y社の臨時株主総会において本件決議がされる3か月以上前の令和2年7月8日、本件公開買付けの実施と同時に、本件公開買付け後に予定されている株式併合により株式の数に一株に満たない端数が生じるときは、当該端数についても、本件公開買付価格に当該株主が所有していたY社株式の数を乗じた価格と同一となる金銭を交付する予定である旨が公表されていた(中略)。そこで、同日時点で本件株式をEの名義で保有していたDとしては、事前にEにDの直接口座の開設の手続に要する期間を問い合わせるなどした上で、同日以降、D自ら又は本件株式の譲受人とするDの関係会社(X)のいずれかが適法に本件株式併合に係る株式買取請求を行うことができるように検討及び準備をしておくことが十分に可能であったものと認められる(中略)。この認定に反する乙D45は採用することができず、他にこの認定を左右するに足りる疎明資料はない。
 以上のとおり、本件においては、D又はXにおいて期限までに本件株式併合に係る株式買取請求権を行使することは十分に可能であったといえるから、DからXに対する本件株式の譲渡の経緯についてXが主張するような事情があったとしても、本件決議後にY社株式を譲り受けたXによる買取価格決定の申立てを認めるのを相当とする特段の事情が存在するとはいえない。」

  イ 10頁19行目末尾を改行して次のとおり加える。
 「なお、Y社は、本件規則により、株式買取請求を含む少数株主権の行使について、署名又は記名押印した書面により、個別株主通知の受付票を添付して行うものと定めているところ、Xの株式買取請求書は、本件株式併合に係る株式買取請求期間の終期(株式併合の効力発生日である令和2年11月16日の前日)である同月15日より後である同月16日にY社に到達したと認められるから(中略)、Xの株式買取請求は、会社法182条の4第4項に違反しているといわざるを得ない。
 Xの本件申立ては、この点からも不適法であるといえるから、いずれにせよ却下を免れない。」

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