
2023.10.19
(R2-⑺)
A社の代表執行役であるYは、同社の株主総会を招集した。これに先立ち、6ヶ月前からA社の株式を有するXらは、Yに対し、次の取扱いを仮に差し止める旨の仮処分命令の発令を求める申立てを行った。
原審がこれを却下したため、Xらがこれを不服として抗告した。
⑴ 本件行為1について
「各株主が、本件株主総会における議決権行使につき、どのような考えや認識に基づき、どのような対応をとるかについては、各種多様なものがあり得るのであり、株主提案賛成の委任状を本件会社に返送した株主が必ずしも一様に抗告人ら主張のような誤解に基づいてこれを行ったものと認めることはできないし、現実に当該株主の意思を確認することも不可能である。したがって、A社の代表執行役たるYは、同人が原審において提出した答弁書において主張したとおり、上記議決権行使に関して実際に各株主が採った行動につき、一定の合理的な基準を設けつつ、合理的意思解釈や公平性等に照らして個別にその取扱いを決めることにより、善良な管理者としての注意義務を履行することになるというべきであって、本件株主総会に先立つ現段階において、Yら主張のように本件行為1につき一律にこれを法令に違反するものであるということはできず、その他のYらの主張を検討しても、これを覆すに足るものはない。」
⑵ 本件行為2の差し止めについて
「本件申立ては、結局のところ、株主が議決権を行使するに際して錯誤が生じるおそれがあり、その場合に株主の意思に反する結果をもたらし得る取扱いを予め包括的に禁止することを求めるものと解されるが、本件の委任状の用紙の体裁が法令の要請に合致していることはYらの自認するところであり、また、錯誤自体は、議決権を行使する各株主の内心に生ずる主観的な事象であることに照らせば、本件のような事例につき、錯誤が生じるおそれがあり、その結果、株主の意思に反する結果をもたらしかねないという一事をもって、あらかじめその可能性のある行為や取扱いにつき、一律包括的に差し止めることは法が予定するものではなく、相当でないというべきである。」