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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例株主総会の決議の有効性が問題となった事例(22件)一覧 > 不動産取引について不正な会計処理を行った本人が、会社の株主であることを利用して会社の決算に関する株主総会決議の無効確認の訴えを提起したことが訴権の濫用に該当するとされた事例(東京地判平23・5・26日 判例タイムズ№1368・238)
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不動産取引について不正な会計処理を行った本人が、会社の株主であることを利用して会社の決算に関する株主総会決議の無効確認の訴えを提起したことが訴権の濫用に該当するとされた事例(東京地判平23・5・26日 判例タイムズ№1368・238)

2023.11.07

(H25-⑸)

① 事案の概要

 原告は、宅地建物取引業等を目的とする会社であり、平成4年8月以降、被告の株主である。
 被告は、原告に対し、平成3年8月から12月にかけて、遊休不動産28物件を売却し(以下、「本件不動産売却」という)、その売却益により会計上の利益を実現し(以下、「本件会計処理」という)、平成4年3月の株主総会で利益処分案が承認され、配当が行われた(当該利益処分案は、その後の株主総会においても特段修正されていない)。
 本件不動産売却に当たって、原告は金融機関から融資を受けたが、その保証をしたのは被告の完全子会社であるN社であり、原告とN社との間では、本件不動産のうち5年を経過しても処分できない物件はN社が引き取る旨の合意が締結されていた。
 その後、本件不動産のうち16件は第三者に売却されたが、残物件は処分できない状況にあった。原告代表者は、平成6年2月には、「本件不動産売却により損失は出たが企業信用度を高めることができたから決してマイナスではなかった」旨の発言をしていたが、態度を改め、原告がN社に対して未処分物件の買取を求めたため、平成6年12月、N社が原告に対して59億円余を支払う旨の裁判外の和解が成立し、N社は当該義務を履行した。
 すると、原告は、平成10年12月になって、今度は被告に対し、原告とN社との上記和解が被告から欺罔されて締結したものであると主張し、上記和解により填補されなかった損害として不法行為に基づき45億円余を請求する訴訟を提起した。原告と被告は、平成11年7月、被告が和解金として26億円を支払う旨の裁判上の和解を成立させ、被告は当該義務を履行した。
 ところが、原告は、平成22年3月、被告に対し、平成4年から平成21年までに開催された被告の定時株主総会における利益処分案または剰余金処分の承認にかかる決議が無効であることの確認を求めて訴訟を提起した。

② 判決要旨

 まず、①原告は、本件不動産売却に関し、被告又はN社に対し、本件合意に基づく引取りや損失の補てん等を求めて紛争となり、平成6年12月にN社と裁判外の和解をし、平成11年7月には被告と裁判上の和解をし、その際には、紛争の全面的解決の合意もしており、かつ、N社及び被告はいずれも当該和解に基づく義務を履行済みである。
 また、②原告が本件訴えを提起したのは、本件会計処理から約18年後であるところ、原告は、本件不動産売却の大部分に当事者として深く関与した者であり、かつ、平成4年8月以降は被告の株主であったのであるから、本件会計処理の当否を容易に争い得る立場にあったにもかかわらず、約18年間の長きにわたって本件会計処理に疑問を呈したことをうかがわせる証拠はない。
 そればかりか、③原告代表者は平成6年2月には本件不動産売却に関与させてもらったことを感謝し、原告は、本件不動産売却が正常な売買であることを前提に利益を得ようとしていたものであり、また、被告の株主として、本件で問題となる各利益処分に基づく利益配当を受け続けてきたものである。
 以上のような本件不動産売却をめぐる原告と被告側との複数回にわたる紛争の経緯(上記①)や本件会計処理から本件訴え提起までの約18年間という長期間の経過(この間に本件会計処理が適正なものであることを前提に長年にわたって株主総会決議が積み重ねられてきている。)の下における本件会計処理又は本件不動産売却に対する原告の対応・姿勢(上記②及び③)に照らすと、本件訴えが従前の紛争における原告の争い方とは異なり被告の組織に関する団体訴訟の形を取っていることを考慮しても、本件訴えは、本件不動産売却の大部分につき当事者であった原告が被告の株主(利害関係人)であることを利用して、長年にわたって問題とせず、かえってその利益を受けてきた本件会計処理に係る問題点を掘り起こし、争う手段を変えることによって、いったん解決をみた本件不動産売却に関する紛争をいたずらに蒸し返そうとするものであって、信義則上許されず、訴権の濫用に当たるといわざるを得ない。
 よって、本件訴えを不適法なものとしていずれも却下する。

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