
2023.10.25
(H28-⑺)
平成25年5月14日、株式会社アムスク(以下「1審被告」という)は臨時株主総会を開催し、種類株式発行に係る定款変更の件(第1号議案)、全部取得条項の付加に係る定款一部変更の件(第2号議案)、及び全部取得条項普通株式の取得の件(第3号議案)が決議事項とされたが、第1号議案が否決されたため、第2号議案及び第3号議案は撤回された。
その後、平成25年6月13日付で、定時株主総会が開催され、①剰余金処分(上場廃止に伴う特別配当金)の実施、②A、B、及びCを取締役に、D及びEを監査役にそれぞれ選任すること、③全部取得条項付種類株式制度を利用したスクイズアウト実施がそれぞれ承認可決されたため、同日、第2回種類株主総会が開かれ、④全部取得条項付種類株式制度を利用したスクイズアウト(全部取得条項の付加に係る定款一部変更)の実施について承認可決された(以下、これらの決議を併せて「本件各決議」という)。
以上の事実関係において、本件各決議につき、1審被告の株主であったX1がこれらを取り消すよう求め、X2乃至X7が主位的にその取消し、予備的にその無効又は不存在であることの確認を求めて提訴したところ、原審は上記④の決議の取消を認め、その余の請求を棄却した。
これに対し、1審被告が、原判決のうち、上記④の決議(種類株主総会における全部取得条項付種類株式制度を利用したスクイズアウトの件)の取消請求を認容した部分を不服として控訴し、他方で、X1及びX2が、原判決のうち、上記①の決議(剰余金の配当に関する件)の取消請求(予備的に不存在又は無効確認請求)を棄却した部分を不服として控訴した。
なお、1審被告は、第2回種類株主総会の後、本件各決議に基づき、スクイズアウトに伴う株式発行を行い、さらに平成26年7月4日、臨時株主総会及び普通株主による種類株主総会を開催し、上記③及び④の決議を追認する旨の決議(以下「本件再株主総会の決議」という)を行っている。)1審被告は、本件再株主総会の決議により、上記④の取消を求める訴えの利益が消滅した旨主張した。
1 スクイズアウトに伴う株式発行後の訴えの利益について
株式発行に関する株主総会特別決議の取消訴訟の係属中に株式が発行された場合には、訴えの利益が消滅すると解されている(最高裁昭和37年1月19日第二小法廷判決民集16巻1号76頁参照)。
しかし、(中略)既にA種種類株式の発行について無効を主張し得ない段階に至っていても、本件全部取得議案の決議取消判決により、全ての普通株式に全部取得条項を付し、1審被告が全ての本件種類株式を取得する部分の限度では遡及的に決議の効力が失われると解する余地があり、また、本件全部取得議案は、定款変更の形式をとるものであって、定款変更は上記平成25年7月22日の本件種類株式の全部取得をもって1回的に効力が消滅するのではなく、その後も変更後の定款として効力を有するから、少なくともその限りにおいて上記決議の取消しを求める訴えの利益は消滅しないというべきである。(中略)
2 取消対象決議追認後の訴えの利益について
株主総会決議に取消事由があるが、無効であるとまではいえない場合、当該決議を取り消す判決が確定するまでは当該決議は有効のものとして取り扱われるべきである。したがって、(中略)本件第2回種類株主総会の決議が無効であるとは認められない以上、株主として本件再株主総会の招集通知を受け、これに出席した者は、株主の地位にないといわざるを得ないから、本件再株主総会の決議は、株主総会の決議としての効力を有しないというべきである。本件第2回種類株主総会の決議について取消判決が確定すれば、1審被告による取得前の株主が遡及的に株主の地位を回復すると解し得るとしても、そのような可能性を有するにすぎない者が構成する株主総会なるものを会社関係法令が意思決定機関として許容し、規律の対象としているとは解し難く、取消事由のある株主総会決議を追認する限度でその存在を容認すべき法的根拠もない。(中略)
本件第2回種類株主総会決議に決議の取消事由たる瑕疵があることを理由に本件再株主総会の決議をもって本件第2回種類株主総会決議を追認するということは、平成26年7月4日にされた本件再株主総会の決議の効力を本件第2回種類株主総会決議の時点(平成25年6月28日)まで遡及させるということにほかならない。しかし、株主総会決議の効力を遡及させることによって、法令により保護されている関係者の手続上の権利利益が害されるときは、その遡及的効力を認めることはできないと解すべきである。
(中略)本件において、本件第2回種類株主総会が開催された平成25年6月28日時点の株主と、本件再株主総会開催時点での株主が全く同一であるとか、平成25年6月28日時点での全ての本件種類株主に全部取得条項付種類株式の取得に関する決定に係る反対株主等の手続保障が尽くされていたことが認められるとかの特別の事情がない限り、本件再株主総会決議の効力を本件第2回種類株主総会の日まで遡及させることは許されないというべきである。
本件においては、平成25年6月28日時点での本件種類株主が明らかになっておらず、上記特別の事情を認めることができないから、本件再株主総会決議の効力を平成25年6月28日まで遡及させることはできないといわざるを得ない。
よって、本件再株主総会決議によって本件全部取得議案の決議取消しの訴えの利益が失われることにはならない(中略)。