
2023.10.25
(H28-⑶)
HOYA株式会社(以下「被告」という)の株主である原告は、平成26年6月18日に開催された被告の第76期定時株主総会(以下「本件総会」という。)において、B、C、D及びAをそれぞれ取締役に選任する決議(以下「本件決議」という。)に関し、以下の理由により、会社法831条1項1号に基づき、本件決議の取消しを求めた。
ア 原告らが提出しようとする議案の要領及び提案の理由を株主に通知することを請求したにもかかわらず、被告はこれらを本件総会の招集の通知又は株主総会参考書類(以下、これらを「本件通知」という。)に記載せず、独立の議案として取り上げなかったこと
イ 被告は原告らが提出しようとする議案の提案の理由を編集して本件通知に記載し、又はこれを一切記載しなかったこと
ウ 本件総会において、議長が原告を質問者として指名せず、議案の説明においても説明を一方的に打ち切ったこと
エ 被告が本件通知に虚偽の記載をしたこと
1 株主総会決議取消事由の有無について
株主総会における議案が株主の提出に係るものであり、株主が会社法305条1項の規定による請求に際して提案の理由を株式会社に対して通知した場合は、一定の例外を除き、上記提案の理由を株主総会参考書類に記載しなければならない(会社法施行規則93条1項柱書、3号)。(中略)
本件代替提案は株主である原告らによって行われ、原告らは、本件代替提案に係る「提案の理由および候補者の略歴」として、「反対提案1、2、3、4、5、修正提案1、2、3、4、5を参照」との記載をし、これを本件通知に記載することを請求していたのであるから、同条所定の記載が除外される部分や概要の記載によって記載する場合を除くほか、原則として、原告らの請求した本件提案理由を本件通知に記載する必要があった。(中略)
被告が本件各不記載部分を本件通知に記載しなかったことは、会社法施行規則93条1項に違反するというべきである。(中略)
そうすると、本件各不記載部分は、B、C、D及びAを取締役に選任するか否かという点において本件決議と密接な関連性を有するから、被告が本件各不記載部分を本件通知に記載しなかったことは、本件決議についての決議取消事由(会社法831条1項1号)に当たると認められる。
2 裁量棄却の可否について
本件代替提案は、被告提案に係る取締役候補者の一部について、これに代えて原告ら提案の取締役候補者を選任することを提案するものであり、取締役として選任すべき候補者について被告提案とは異なる選択肢を示したものということができる。そして、前記前提事実によれば、本件通知には本件候補者略歴が記載されていたこと、本件候補者略歴は、単に候補者の学歴及び職歴の羅列にとどまらず、会社に関する活動の実績の紹介をも含むものであった一方、本件提案理由ないし本件通知には、原告ら提案の取締役候補者について本件候補者略歴以外に選任を適当とする理由の記載がないことが認められるところ、このような事情の下では、本件候補者略歴は原告ら提案に係る取締役候補者の選任を積極的に理由づけるものであり、上記のような取締役として選任すべき候補者の選択に当たって有益な情報を提供しているということができる。そうすると、本件各不記載部分が本件通知に記載されていなかったことにより、本件代替提案について他の株主が判断するに当たり必要・有益な情報がおよそ欠けていたということにはならず、少なくとも原告ら提案の取締役候補者の取締役選任に係る部分については、実質的には提案の理由に相当する情報が記載されていたとみるのが相当である。(中略)。
前記前提事実のとおり、本件決議への賛成率がいずれも94パーセントを超え、極めて高いものであったのに対し、本件代替提案に係る決議への賛成率がいずれも1パーセント未満であったことが認められる。前記(中略)事情も考慮すると、本件各不記載部分が本件通知に記載されたとしても、本件決議の成否が変化した可能性は皆無であると認められる。
以上の諸事情を総合考慮すると、本件においては、本件各不記載部分が本件通知に記載されなかったことが会社法施行規則93条1項に違反するものであるとしても、その違反事実は重大ではなく、かつ、本件決議に影響を及ぼさないものであったと認められる。
以上によれば、本件決議の取消しの訴えに係る請求は裁量棄却されるべきである。