2023.10.25
(H29-⑷)
原告は、自社のノウハウや特許を事業化するためFBC株式会社(以下「被告」という)を設立し、原告が被告に対して知的財産権の独占的な専用実施権を付与するほか、被告が解散する際には、残余財産のうち金融資産以外の全てを原告に配分すること等を内容とする基本合意を締結した。しかしながら、被告は原告から上記基本合意に基づく専用実施権を付与されず、事業遂行が不可能になったとして、解散する旨の株主総会決議を行った。
これに伴い、被告は原告に対し、原告が被告の関連で支出した経費として被告に支払いを求めていた額の一部である217万2687円を留保した上で、その残額を原告以外の株主に対して残余財産として分配した。
原告は、被告に対して、少なくとも229万7220円の債権を有している旨を主張し、原告の保有する株式に応じた残余財産の分配を行うよう請求したが、被告は、上記217万2689円についても、原告以外の株主に対して分配した上で、清算事務が終了したとして決算報告を承認する旨の臨時株主総会決議を行った(以下「本件決議」という)。
これに対し、原告が、本件決議の無効確認及び残余財産の分配を求めて提訴した。
清算会社は、債務の弁済をした後又はその存否又は額について争いのある債権に係る債務についてその弁済をするために必要と認められる財産を留保しなければ、株主に対して残余財産の分配を行うことができない(会社法502条)。(中略)
被告は、原告の主張する経費については、被告の負担すべき債務となる余地がないことが明らかであるから、その弁済のために留保しなければならない「その存否又は額について争いのある債権に係る債務」に当たらない旨主張する。
ところで、会社法502条は、株主の残余財産分配請求権が会社債権者に劣後するという本質的なことを明らかする規定であり、同条ただし書は、迅速な清算手続のために、相当財産を留保することによって債権者が株主に優先することを確保した場合に限って、債務弁済前でも残余財産の分配を認めたものと解される。すなわち、同条ただし書は、債権者の主張する債権の存否又は額について争いがあるにもかかわらず、清算会社においてこれがないものとして残余財産を分配した後に、上記債権の存在及び額が確定した場合には、債権者の優先性が害されることとなるが、そのような事態を避ける趣旨であると解される。そうすると、清算会社は、清算会社に対する債権の存在を主張する者がいる場合には、債権者が債権の存在及び額についての根拠を全く示さないなどといった特段の事情がない限り、その存否及び額が確定するまでは、相当財産を留保しない限り、株主に対する残余財産の分配を行ってはならず、その存否及び額を確定することに努めるべきものと考えられる。
本件についてみると、原告はその主張する経費に係る債権についての根拠及び額について、具体的に主張していることが認められるし、被告の主張を踏まえても、これが被告の負担すべき債務となる余地がないことが明らかであるとまでは認められない。
以上によれば、被告は、原告との間でその存否及び額について争いのある債権に係る債務についてその弁済のための財産を留保することなく、残余財産の分配をしたこととなり、この点において、会社法502条に違反するといわざるを得ない。
そして、会社法502条に違反する残余財産の分配をしたことを内容とする決算報告書を承認する決議は、その内容が法令に違反するものと解される。(中略)よって、本件決議には無効事由があると認められる。