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ホーム企業の皆様へ株主総会関連判例株主総会の決議の有効性が問題となった事例(22件)一覧 > 株主総会決議取消訴訟における訴えの利益の存在が一部肯定された上、請求が一部認容された事例(名古屋地判平28・9・30 金融・商事判例№1509・38)
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株主総会決議取消訴訟における訴えの利益の存在が一部肯定された上、請求が一部認容された事例(名古屋地判平28・9・30 金融・商事判例№1509・38)

2023.10.23

(H30-⑹)

① 事案の概要

 株式会社Y1が、新株の発行に関し、募集事項の決定を取締役会に委任する旨の株主総会決議を行ったところ、Y1取締役会は、上記決議に基づいて募集事項を決定し、Y2に対して新株を発行した。

 その後、Y1は、株主総会を開催し、新たな取締役の選任等に関する議案を可決承認した。このとき、Y2も株主として議決権を行使している。

 これに対し、Xは、Y2が議決権を行使することは認められない等と主張して、上記決議の取消請求訴訟を提起した。

 これに対抗して、Y1は、定時株主総会において、本件各決議の取消しが確定することを停止条件として、決議の性質に反しない限り、上記決議が、同決議の成立した日に遡って効力を有することとして、同決議を再議決する旨の議案を承認可決した。

 本件における争点は多岐に亘るが、以下では、①再決議によって、Xが株主総会決議の取消しを求める実益(訴えの利益)が失われたのではないか及び②上記決議に取消事由があるかの2点について、裁判所の判断を概観する。

② 判決要旨

9 争点⑧(本件各決議に係る取消しの訴えにおける訴えの利益の有無)に対する判断

(中略)本件再決議は、本件各決議の取消しが確定することを停止条件に、決議の性質に反しない限り平成26年9月29日(本件各決議がされた日)に遡って効力を有することとして、本件各決議と同一事項について再決議をしたものである。そして、(中略)、本件再決議は、平成27年9月9日に行われ、これに対する取消訴訟等の提起もなく確定した(中略)。

 そうすると、本件再決議に付された遡及効を認めることが本件各決議の性質に反しない限り、仮に、本件各決議が取り消されたとしても、本件再決議によって本件各決議と同一の効果が生ずるため、本件各決議の取消しを求める実益はないから、当該取消しを求める訴えの利益が失われるものと解される(最高裁判所平成元年(オ)第605号同4年10月29日第一小法廷判決・民集46巻7号2580頁参照)。

 そこで、本件再決議に付された遡及効を認めることが本件各決議の性質に反するか否かにつき検討するに、(中略)、本件各決議のうち、第1号決議(決算報告書の承認)、第5号決議(役員報酬総額の決定)及び第6号決議(退職慰労金の贈呈)については、その決議の取消しを求める実益がないため、訴えの利益が失われたが、第2号決議(定款変更)、第3号決議(取締役の選任)及び第4号決議(監査役の選任)については、その決議の取消しを求める実益があるため、訴えの利益は失われない。

10 争点⑨(本件各決議に係る取消事由の有無)に対する判断

   (中略)

ア 定款変更についての議案概要の通知の欠如及び変更前定款の開示拒否

(ア) (中略)、招集通知における総会の目的である事項及び議案の概要の記載があるといえるためには、定款の規定をどのように変更するかを了解可能な程度の記載があることを要するものと解される。
(イ) これを本件についてみるに、(中略)、本件招集通知には「第2号議案 定款変更の件」との記載があるのみであり、本件株主総会に先立つ変更前後の定款の開示が行われておらず、被告会社の株主にいて、具体的な議題の内容(定款をどのように変更するか)を知ることも推測することもできないから、本件招集通知は、上記会社法及び同法施行規則に違反しており、この点において、本件株主総会の招集手続に法令違反がある
  したがって、第2号決議(定款変更)には、取消事由が認められる。(中略)

イ 代理人出席の拒否

(ア) (中略)、株主以外の第三者による議決権行使を認めたとしても株主総会が撹乱され会社の利益が害されるおそれがなく、かえって、これを認めないことが当該株主の議決権行使の機会を事実上奪うに等しく、不当な結果をもたらすような場合において、当該規定に基づいて当該株主による議決権の代理行使を拒否することは、議決権を行使する代理人の資格に係る合理的な理由による制限ではなく、会社法310条1項の規定に反すると解するのが相当である。
(イ) これを本件についてみるに、(中略)、原告は、本件株主総会に出席して議決権を行使したのであるから、被告会社が原告訴訟代理人弁護士による原告の議決権代理行使を拒否したことによって、原告の議決権行使の機会を奪うに等しい不当な結果が生じたとはいえない

 したがって、本件株主総会において、被告会社が原告訴訟代理人弁護士による原告の議決権代理行使を拒否したことは、会社法310条1項に違反するものではないし、このこと自体から明らかに不当な目的を看取することはできない。

   (中略)

ウ 賛成多数の可決がないこと(賛否認定の誤り)

(ア) (中略)、本件各決議の時点では本件新株発行が有効に行われたことを前提として、被告Y2の保有株式数が620株、原告の保有株式数が180株であるものとして本件各決議を行うことになる。
(イ) 原告は、本件各決議時点では被告Y2の保有株式数は20株であるところ、被告会社は、被告Y2の保有株式数を620株として本件各決議を行ったことが決議方法の法令違反若しくは著しい不公正又は「特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき」に該当する旨主張するが、(中略)、被告Y2の保有株式数を620株として本件各決議を行ったことは何ら法令違反ではないから、被告会社の明らかに不当な目的が看取できるともいえないし、被告Y2が「特別な利害関係を有する者」に当たるともいえない。したがって、原告の上記主張は採用できない。(中略)

エ 計算書類等の情報提供の欠如   

 (中略)、被告会社は、原告に対し、本件株主総会に先立って第15期の決算報告書以外の計算書類及び事業報告を提供しなかった。もっとも、原告は、第1号議案(決算報告書の承認)、第5号議案(役員報酬総額の決定)及び第6号議案(退職慰労金の贈呈)との関係で上記事実が取消事由に該当する旨主張するにすぎないし、(中略)、被告会社が、原告に対し、本件株主総会に先立って第15期の決算報告書以外の計算書類及び事業報告を提供しなかったことが、直ちに第2号決議(定款変更)、第3号決議(取締役の選任)及び第4号決議(監査役の選任)の取消事由に当たるとはいえない。

オ 株主の準備期間の欠如

(ア) 会社法299条1項は、株主総会の日の1週間までに株主に対し、招集の通知を発するよう定めている。
(イ) (中略)、本件招集通知は、遅くとも本件株主総会の9日前である平成26年9月20日には発出されているから、本件招集通知に会社法299条1項違反は認められないし、本件招集通知を発出した時期の点から直ちに明らかに不当な目的が看取できるとまではいえない。
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