
2023.10.23
(H30-⑹)
株式会社Y1が、新株の発行に関し、募集事項の決定を取締役会に委任する旨の株主総会決議を行ったところ、Y1取締役会は、上記決議に基づいて募集事項を決定し、Y2に対して新株を発行した。
その後、Y1は、株主総会を開催し、新たな取締役の選任等に関する議案を可決承認した。このとき、Y2も株主として議決権を行使している。
これに対し、Xは、Y2が議決権を行使することは認められない等と主張して、上記決議の取消請求訴訟を提起した。
これに対抗して、Y1は、定時株主総会において、本件各決議の取消しが確定することを停止条件として、決議の性質に反しない限り、上記決議が、同決議の成立した日に遡って効力を有することとして、同決議を再議決する旨の議案を承認可決した。
本件における争点は多岐に亘るが、以下では、①再決議によって、Xが株主総会決議の取消しを求める実益(訴えの利益)が失われたのではないか及び②上記決議に取消事由があるかの2点について、裁判所の判断を概観する。
9 争点⑧(本件各決議に係る取消しの訴えにおける訴えの利益の有無)に対する判断
(中略)本件再決議は、本件各決議の取消しが確定することを停止条件に、決議の性質に反しない限り平成26年9月29日(本件各決議がされた日)に遡って効力を有することとして、本件各決議と同一事項について再決議をしたものである。そして、(中略)、本件再決議は、平成27年9月9日に行われ、これに対する取消訴訟等の提起もなく確定した(中略)。
そうすると、本件再決議に付された遡及効を認めることが本件各決議の性質に反しない限り、仮に、本件各決議が取り消されたとしても、本件再決議によって本件各決議と同一の効果が生ずるため、本件各決議の取消しを求める実益はないから、当該取消しを求める訴えの利益が失われるものと解される(最高裁判所平成元年(オ)第605号同4年10月29日第一小法廷判決・民集46巻7号2580頁参照)。
そこで、本件再決議に付された遡及効を認めることが本件各決議の性質に反するか否かにつき検討するに、(中略)、本件各決議のうち、第1号決議(決算報告書の承認)、第5号決議(役員報酬総額の決定)及び第6号決議(退職慰労金の贈呈)については、その決議の取消しを求める実益がないため、訴えの利益が失われたが、第2号決議(定款変更)、第3号決議(取締役の選任)及び第4号決議(監査役の選任)については、その決議の取消しを求める実益があるため、訴えの利益は失われない。
10 争点⑨(本件各決議に係る取消事由の有無)に対する判断
(中略)
ア 定款変更についての議案概要の通知の欠如及び変更前定款の開示拒否
イ 代理人出席の拒否
したがって、本件株主総会において、被告会社が原告訴訟代理人弁護士による原告の議決権代理行使を拒否したことは、会社法310条1項に違反するものではないし、このこと自体から明らかに不当な目的を看取することはできない。
(中略)
ウ 賛成多数の可決がないこと(賛否認定の誤り)
エ 計算書類等の情報提供の欠如
(中略)、被告会社は、原告に対し、本件株主総会に先立って第15期の決算報告書以外の計算書類及び事業報告を提供しなかった。もっとも、原告は、第1号議案(決算報告書の承認)、第5号議案(役員報酬総額の決定)及び第6号議案(退職慰労金の贈呈)との関係で上記事実が取消事由に該当する旨主張するにすぎないし、(中略)、被告会社が、原告に対し、本件株主総会に先立って第15期の決算報告書以外の計算書類及び事業報告を提供しなかったことが、直ちに第2号決議(定款変更)、第3号決議(取締役の選任)及び第4号決議(監査役の選任)の取消事由に当たるとはいえない。
オ 株主の準備期間の欠如